第1章タイトル 「家族の定員オーバー」 第1話 「朝の食卓、席が足りない問題」
朝。
カーテンの隙間から差し込む光が、やけにまぶしい。
俺――高瀬 湊は、まだ夢と現実の間にいた。
「湊。起きなさい」
いつもの声。
ドアを開けて入ってきたのは姉の高瀬 美月だ。
制服姿のまま腕を組み、当然のようにベッドを見下ろしている。
「あと五分」
「その五分、昨日も言ってた」
「人間は毎日リセットされるんだよ」
「されません」
布団が剥がされる。
寒い。
「起きる」
「最初からそうしなさい」
その直後。
ドタドタドタッ。
「お兄ちゃんおはよー!!」
妹の高瀬 陽菜が全力で突っ込んでくる。
そのままベッドにダイブ。
「重い重い重い!」
「えー?軽いよ?」
軽いとかの問題じゃない。
俺の朝は、いつもこの二人で完成していた。
……はずだった。
「おはよー」
別の声。
リビングの方から、軽い足音。
顔を出したのは双子の片割れ。
春のように明るい方――篠宮 春乃だった。
「朝ごはん、もうできてるよー」
その後ろから、もう一人。
静かに立っている。
同じ顔、同じ遺伝子。
だけど温度が違う。
篠宮 雪乃。
「……うるさい」
一言だけ。
「え、朝からそれ?」
春乃が笑う。
雪乃は興味なさそうに視線を逸らした。
――そうして、全員がリビングに集まった。
問題はここからだった。
「……席、足りなくない?」
俺が呟く。
ダイニングテーブル。
椅子は四つ。
いる人間は六人以上。
美月が当然のように言う。
「湊はいつもここ」
「固定なの!?」
陽菜が即座に隣に座る。
「じゃあ私ここ!」
春乃も反対側に座る。
「じゃあ私はここ」
雪乃も座る。
なぜか、俺を中心に半円が完成した。
「なんで俺囲まれてるの?」
誰も答えない。
母は紅茶を飲みながら一言。
「青春ねぇ」
「そのコメント一番困るやつ!」
父は新聞をめくりながら。
「にぎやかでいいな」
「うるさいわ!」
その間にも、さらに問題が発生する。
陽菜が俺の腕に抱きつく。
「お兄ちゃんの隣は私だよね?」
春乃が反対側から覗き込む。
「でも私も隣じゃない?」
雪乃は無言でトーストを取る。
美月が低い声で言う。
「……湊は食事中は静かに」
「状況見ろ!」
そして気づく。
誰も引かない。
誰も譲らない。
ただ一つだけ共通しているのは――
「俺の周りに集まりすぎだろ!!」
◇
登校時間。
さらに地獄は続く。
玄関で靴を履くと同時に、後ろから声が重なる。
「一緒に行く」
四人同時。
姉・妹・双子。
全員が同じタイミングで言った。
「いや無理だろこれ」
美月が真顔で言う。
「私は当然」
陽菜が笑う。
「私も当然!」
春乃が首を傾げる。
「面白いから」
雪乃だけが淡々と。
「通学路は同じ」
「理由バラバラすぎる!」
玄関を出た瞬間、近所の視線が刺さる。
そして俺は思った。
この家族構成、絶対に間違ってる。
まだ朝なのに、もう疲れている。
――第1章は、始まったばかりだった。




