第14話 「壊れ始める、“家族”の境界線」
気まずい。
とにかく気まずい。
俺――高瀬 湊の部屋には、また全員集合していた。
ベッドに篠宮 春乃。
机横に篠宮 雪乃。
床に高瀬 陽菜。
そして、俺のすぐ隣に高瀬 美月。
距離が近い。
近すぎる。
しかも美月は離れる気がない。
陽菜がじーっと俺たちを見る。
「……怪しい」
「違う」
条件反射だった。
春乃が吹き出す。
「もうテンプレだね、それ」
「笑うな」
雪乃は静かに紅茶を飲みながら言った。
「でも実際、最近かなり近い」
「雪乃まで!?」
美月が少しだけ眉を寄せる。
「……別にいいでしょ」
その瞬間。
全員が止まる。
俺も止まった。
陽菜が真っ先に反応する。
「よくない!」
「なんで」
「なんでって!」
陽菜が立ち上がる。
「お姉ちゃんばっかりズルい!」
部屋が静まる。
その一言。
予想以上に重かった。
◇
陽菜はハッとして口を押さえる。
でももう遅い。
美月がゆっくり視線を向ける。
「……“ばっかり”?」
陽菜の顔が赤くなる。
「ち、違っ……!」
春乃がにやっと笑う。
「へぇ」
雪乃は静かに目を細める。
逃げ場がない。
陽菜は慌てて俺を見る。
「お兄ちゃん!違うからね!?」
「何が!?」
「その……」
完全に墓穴を掘ってる。
陽菜はしばらくわたわたしたあと、勢いで叫んだ。
「私だってお兄ちゃん好きだもん!」
沈黙。
部屋の空気が止まった。
……終わった。
◇
陽菜本人も、言った瞬間に固まっていた。
「…………え」
自分で驚いてる。
春乃が吹き出しそうになるのを堪えてる。
雪乃は静かに目を逸らした。
美月だけが真顔。
怖い。
陽菜は耳まで真っ赤になりながら叫ぶ。
「ち、違うの!今の家族としてって意味!」
「後付け」
雪乃の即答。
「うっ……」
春乃が楽しそうに聞く。
「じゃあ、湊くんがお姉ちゃんに取られそうで嫌だったの?」
「っ……!」
陽菜が黙る。
答え合わせだった。
◇
俺は頭を抱えたくなった。
なんだこの状況。
家族会議じゃない。
修羅場だ。
すると。
美月が静かに口を開く。
「……陽菜」
「な、なに」
「私は別に、取るつもりない」
その声は静かだった。
でも。
次の一言が重かった。
「湊が、自分から離れないだけ」
「……は?」
俺含め全員が固まる。
美月、自爆した。
春乃が目を見開く。
雪乃が珍しく動揺してる。
陽菜は完全停止。
そして俺だけが思う。
……この姉、最近隠す気なくなってない?
◇
その空気を破ったのは。
ピコン。
スマホの通知音だった。
全員の視線が俺に集まる。
嫌な予感しかしない。
画面を見る。
送り主。
神谷 翼。
メッセージは短かった。
『思い出したなら、次は病院来い』
心臓が止まりそうになる。
病院。
その単語だけで、記憶の奥がざわつく。
美月の表情が変わった。
「……翼?」
「なんだって」
俺は画面を見せる。
その瞬間。
美月の顔色が少し白くなった。
雪乃も目を細める。
春乃の笑顔が消える。
陽菜だけが不安そうに俺を見る。
「病院って……」
その時。
美月が即座に言った。
「行かなくていい」
強い声。
空気が張る。
俺は美月を見る。
「なんで」
美月は答えない。
でも。
その目は明らかに怯えていた。
春乃が静かに言う。
「……まだ残ってるんだ」
雪乃も小さく息を吐く。
「一番重い部分が」
俺だけが分からない。
何がある?
病院に。
すると美月が、俺の服を掴んだ。
小さく。
でも必死に。
「湊」
震える声。
「お願いだから……まだ行かないで」
その言葉に。
事故の日よりもっと深い“何か”が隠れていると、理解してしまった。




