三章
視界が真っ白に染まった。
いや、それは視界ではなく、世界の「理」が白濁したのだ。
微笑みに満ちるはずの女神が絶望に顔を歪めて立ち尽くしている。
豊穣の女神が涙で地を濡らす。
「……あ」
俺の左胸を、黒く澱んだ神気を纏った“十拳剣”が貫いている。
スサノオ、何をやっているのだお前は。
「いやぁーーーお兄様!!」
「駄目よ、剣を抜いてはだめ。この澱んだ神気は何?取り除かなければ…ツクヨミ目を閉じないで!ツクヨミ!!」
アマテラスの声も虚しく剣が抜ける。
赤く染まる。
月輪が、日輪が、新緑が赤く染まる。
自らの過ちに気付き、凶器を隠す様に抱え海原も染まる。
スサノオ、抜くなと言っているだろ。
剣を抜かれた傷口に自ら神気を込める。
何か、何処かで感じた事がある気がする…
流石に十拳剣に貫かれた経験は無いのだが。
赤い帳を切り裂く白銀と雷。
タケミカヅチの咆哮が聞こえる。
フツヌシの音の無い音、閃光が走る。
「殺しては…いけない。」
聞こえているのか、いないのかフツヌシがスサノオの首筋に当てた鋒を返し、スサノオごと反転させると地に踏みつける。腕を拘束したまま剣を首筋近くに突き立て処刑台を作り上げる。
殺すなと言っているのに。
むしろ、俺に噛み付いて来そうだ。
地に伏せたスサノオの上に大岩のようなタケミカヅチが座り込む。
俺はこのまま死ぬのか。
「……何をしておるのだ、お前たちは」
振り返るまでもない。
父神、イザナギの降臨だった。
その声には、怒りさえも凍りつくような、底知れぬ静寂が宿っていた。
それが、俺の知る最後だった。




