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1話 後章2

さて、情けない回想は以上になる。

ただでさえ恥を晒しているというのに、ご丁寧に回想とは恥の上塗りである。

んな事はどうでもいい。

ここまでくれば割り切るしかない。

運命として受け入れるしかない。

俺と彼女は。

歴木言葉と修多羅砕破は。

敵同士であると。

「私の異能は『修羅』。目覚めたてだからあまりわからないけど、体感は超肉体強化って所かしら」

「違うな。ざっくり言えば、『修羅』という概念生物への置換って所だろ」

「…ッ!?」

死んだはずの言葉はゆらりと立ち上がる。その顔には迷いが晴れており、目には眼前の敵を見据える。

「生き返りってわけね。どんだけサンドバックになりたいのよ」

「まぁタネも仕掛けも回数もわからんが、とりあえずサンドバックにはならねぇよ」

呂律は回る。頭も回る。

うん、万全だ。

「そう、出し惜しみをしないのね。だったら、私も本気を出してあげるわ」

深呼吸をしながら、修多羅はゆっくりと静かに構える。

空気を払い、音を奪い、力は収束する。

(かみ)など非ず…、現世に広がるは無間の地獄…。望み歩むは修羅の道ッ!」

「…ッ!」

放たれるプレッシャーで頬がだらりと汗がこぼれ落ちる。どうやら、"本物"のようだ。

「あんたが普通じゃないのはよくわかった。そして、簡単に壊れないことも。だから、私も武術家ではなく異能者として、父の編み出した殺法の非天無獄流で戦ってあげるわ」

修多羅の殺意が場を圧倒し、風景は捻じ曲がる。普通の人間では生きてはいけない状況下、言葉は笑いながら言葉を吐く。

「来いよ、先手は譲ってやる」

アニメや漫画の如く、手のひらをクイクイと曲げて挑発をする。

「いいわ、その挑発乗ってあげる」

踏み出した一歩は強烈であり、勢いで地面の一部が盛り上がる。その突進は1秒にも満たない刹那であり、修多羅を認識して口を開こうとした瞬間、彼女はすでに技の準備を終えていた。

「非天無獄流・破岩一掌ッ!」

修多羅の掌底が言葉の胸へと命中し、胸から全身へと衝撃が伝播する。その衝撃は外に逃げる事なく内側で爆発し、言葉の肉体を四散させる。

「『吹っ飛べッ!』」

放つ言霊で修多羅を校舎へと吹き飛ばす。

「重ねて、『治れ』」

言霊を瞬時に叩きつけ、四散した肉体を修復させる。

「速すぎるだろ」

そう呟いた瞬間、校舎から一筋の光が一閃する。

「…ッ!」

「非天無獄流・二牙白胴」

「『吹っ飛べッ!』」

放たれる言霊に再び吹き飛ばされるーーと思われたが、修多羅は地面に足を突き刺し、それを阻止する。

「な、力技すぎるだろ」

「これで決着よ。非天無獄流・六昆星乗」

顎を鋭く殴り飛ばし、無防備になった所に四肢の関節を同時に撃ち抜く。

「チッ、『止まーー』」

「喰らえッ!」

瞬時に回転し、鳩尾へと肘鉄を入れる。

そのダメージは内臓に蓄積され、噴水のように血を吐き、ひび割れた隙間から血が漏れ出る。

「殺法とはよく言ったものだな。殺しが恐ろしく効率化されてやがる。おかげで、修復が間に合ってねぇよ」

「見る限り、その再生って痛みが伴っているのよね。そんな軽々と立ち上がれるようなダメージじゃないはずだけど」

「ハァハァ、死んでも替えが効くからな、生きている限りは立ち上がらせてもらうさ」

「私にイかれているって言ってたけど、あなたの方が余程じゃない」

「ハッ、お互い様だな」

俺の予測が正しければ型の数は間に合ってはいないが、まぁ及第点ということにしておこう。

追加は食らいながらでもやってやる。

「いくぞ、修多羅」

「…ッ!?あなたまさか」

その構えは修多羅が魅せたものと同じだった。

空気を払い、音を奪い、力を収束させる。

「『非天無獄流・破岩一掌』」

放った一撃は不完全だった。

言葉では肉体が追いついておらず、その反動で掌ごと欠損する。

だが、それは確かな質量は持っており、修多羅に打撲痕を作る。

「ふっ、私に殴り合いをしようだなんて、いい度胸しているじゃない!」

「あぁ!そうだなぁ!」

拳を振り上げ、再び衝突する。

「ハハハッ、アハハッ、アハハハハハハ」

「いい顔してんじゃねぇか!修多羅ぁ!」

二人は笑い合いながら殴り合う。

空気が爆ぜ、地面は割れ、大気は震える。

互いに同じ拳法を繰り出し、刹那に等しい時間で殺し合いを続ける。

一見、互角の勝負にも見えるが。

「チッ、ついてこい俺の体!」

言霊で補正しているとは言え、技の冴えが追いついていない。肉体強度が足りていないから、反動もあって修多羅に簡単に砕かれる。

「だから!だからなんだ!」

「いい気合い。だけど、これで終わりよ!非天無獄流・郝冥九光」

言葉の体に九つの穴が開けられる。そのどれもが神経の重点を狙っており、一切の動きを封じる。

「マジ…か」

「死になさい、言葉」

修多羅は手を手刀へと変え、腕に極限まで力を加える。

「非天無獄奥義・十握剣」

音速にも等しい9回の斬撃によって、言葉の肉体は九分割される。残る一撃は貫手であり、静かに言葉の胸へと入れられた。

「ガフッ…、強すぎ…だろ」

「これでも生きてるの?もう仕留める手がないんだけど」

勢いよく手を払い、言葉をゴミのように運動場へと撒く。

「ここまできたら、もうやるしか…ねぇ」

不完全な腕でポケットから銃を取り出し、這いつくばりながら銃を修多羅に向ける。

「やっと使うのね」

修多羅は銃を見るなり、両手を広げる。

「ほら、撃ちなさいよ」

慈愛のような笑顔と全身から放たれる殺気。矛盾したその状況に混乱しつつも、唇をかみながら言葉は銃口を向ける。

「………ッ!」

指先をトリガーまでかけ、震えながらも照準を修多羅に合わせる。

「撃ちなさいって」

「ッ、黙れよ」

「撃ちなさいって言ってるのよ!」

「黙れって言ってんだよ!」

しっかりしろ、歴木言葉。

撃たなきゃいけないんだよ。

じゃないと、修多羅が人殺しを。

「う、うおおお『死ーー』」

「やめて!」

その声は、二人の間を切り裂いた。

「来たのね、走」

声の主は走だった。

足を引きずり、腕の痛みに耐えながら、這いつくばるように修多羅の前へ立つ。

「もう、やめて。もう、やめようよ。体をそんなにボロボロにさせて、学校こんなめちゃくちゃにして、もう十分でしょ!いいから、一緒に謝ってあげるから。帰ってきてよ!」

「退きなさい。私はあなたを傷つけた連中を殺さなきゃいけないし、その前に邪魔をするこいつを殺さなきゃいけないのよ」

チッ、やっぱりとまらねぇか。

「退け!走って人!俺がこいつを倒す!」

「五月蝿い!今砕ちゃんと話してるんだから!黙ってて!」

「は…はい」

走は深呼吸をし、再び修多羅へと目を向ける。

「まずは怒ってくれてありがとう」

走は律儀に頭を下げて、そこから再び言葉を紡ぐ。

「でも、砕ちゃん。怒りを言い訳にして、自分を壊そうとするなんてやめて」

「何を言って」

図星を突かれたのか、修多羅は少し動揺をする。

「死んじゃ嫌だよ。砕ちゃん」

「くっ、五月蝿い五月蝿い!私はもう化物なのよ!もう人間になんかなれないのよ!」

薙ぎ払いで風圧が起こり、飛び散った石が走の頬を掠める。

「なら、何で泣いているの」

「はぁ?何を言ってーー」

「気づいてなかったのかよ。お前、発現直後から血涙を流してたぞ」

「そんなわけーーえ?」

修多羅が地面に目を落とすと、ポタポタと涙で地面がわずかに湿る。

「どうして、何で」

「砕ちゃん」

走は近づき、ゆっくりと修多羅を抱きしめる。

「何を」

「振り解かないでね。今、腕が痛いのを我慢しているんだから」

「…どうしてそこまで」

「友達だからだよ」

「なんでよ…、なんでなのよ」

安堵共に、ツノは引っ込んでいき、赤熱していた体は人間の体へと戻る。

「はぁ、終わったかぁ」

誰にも理解されない人間と誰からにも理解することのできない人間を、人は押し並べて化物と呼ぶ。走がいる限り、修多羅が自ら修羅になる必要もないだろう。

「全く、とんだかませ犬だな」

ジジっと脳にノイズのようなものが走り、視界がだんだんと揺らぎ始める。

「少し…寝るか…」

泣きながら抱き合う二人を見ながら、俺はその場で失神した。



後日。

「…んが」

起きたらすでに時刻は19時を指しており、完全に夜だった。

「はぁ、またか」

どうやら、また1日寝通してしまったようだ。

「やっと起きたのね」

「お前、何でいるんだよ」

あの後、修多羅はいつも通り登校していた。というよりも、この問題が学校でばれることがなかった。

「流石というか、何というかだな」

それとは裏腹に、修多羅をいじめていた奴らは入院を余儀なくされており、1年間は身動き一つ取れないそうだ。覚醒後の修多羅の姿がトラウマとして残っていることもあり、ベッドの上でひたすら震える毎日だそうだ。

「まぁ、因果応報だよな」

「何のことよ」

「気にしなくていい。んで、体はどうだ?」

「業腹だけど、あなたのおかげで何もないわよ」

リストバンドに言霊を付与をすることで、異能の発動を抑制させている。前例はなかったから少し不安だったが、うまく行ったようでよかった。

「それ、絶対外すなよ」

「わかってるわよ」

いつもの調子。いつもの会話。

これだけで、命の張る甲斐があった。

「で、何でいるんだよ」

「走を待っているのよ」

「闇無さんか」

傷を治した時に軽く話したが、太陽のような明るさで目が潰れるかと思った。名は体を表すというのは本当なんだな。

「二人とも仲良いね」

教室の扉をゆっくり開きながら、走は二人に話しかける。

「陸上部終わったの?」

「うん、今日もハードだったよ」

修多羅は荷物をまとめ、走の横へと移動していく。だが、二人はいつまで経っても帰ろうとせず、じっと言葉を見つめる。

「な、何だよ」

「何してるのよ。帰るわよ」

「……わかった」

三人で一緒に教室を出る。

そこには化物などおらず、3人の友人がいた。

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