表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

1話 中章2

中学生に入り、私は空手部に入った。

やりたいことも特になかったため、せっかくならば鍛えた体を使ってやろうと思った。

そこからとんとん拍子だった。

一つ上の先輩を倒し、二つ上の先輩を倒し、ついには部長すらも軽々と倒していた。

そんなこんなで大会出場者には必然であったが、団体戦は先輩達を出させてほしいとの要望があり、私は個人戦のみの出場となった。

「はじめ!」

審判の一声で試合は始まり、対戦相手の動きを待つ。

「やぁぁぁぁ!」

気合いと共に相手は蹴りを繰り出すが、私は構えも取らずに思った。

『遅い、あまりにも遅すぎる。これでは、殺してくださいと首を差し出しているのと変わりはない』と。

構えを取らなければ、相手に哀れみすら覚える。ここまで酷い武術家はかつてないだろう。

いや、私には資格すら備わっていなかったのだ。何せ、私は部活に入る前から"拳は使わない"という傲慢を続けていたのだから。

そんなことを考えながら、半身を開いて蹴りをかわし、反撃を一瞬で終わらせる。刹那の間に距離を詰め、顔面に蹴りを叩き込む。他の人間には見切る事はできなかったのか、場外に吹っ飛んでいく様を誰もがあんぐりと口を開けながら見ることしかできなかった。

「し、試合終了。修多羅砕破選手、優勝」

歓声は起きなかった。

無名の選手が、最有力の優勝候補を圧倒せしめたというのに、誰もそれを喜ばなかった。

「終わった…か」

全くもって虚しい勝利。

そんなことを思いながら、私は初めての大会を終えた。

それから2年の歳月が経ち、気づけば出る大会の全ての優勝トロフィーが所狭しと部屋に並んでいた。それは輝かしい栄光ではなく、人を蹂躙したという結果だけを示していた。

「いらない…な」

そんな思考がよぎる。

だが、同時に私は思う。

多くの人間がこれを取るためだけに努力を続けているというのに、私はその努力を無に帰しているのだろうか。

「そして、私は今これらを不要だと…。あはは、なんて酷い人間なんだ」

もう、苦しかった。

だが、その苦しみから私は逃げられなかった。

「修多羅君!君は素晴らしい!校長として鼻高々だよ!」

校長は私にそんなことを言う。

それはそのはずで、私が優勝することによって学校がどんどんと有名になっていくからだ。

これほどの凄い選手がこの学校にいると。

「やめたい」

その一言を紡ぐ勇気すらなく、私はダラダラと部活を続けた。

だが、中学3年の地方大会の決勝にて、歴史的大敗を私は味わうことになった。

「初め」

いつものように、審判が掛け声をする。

数秒。私は構えも取らず待つ。

そして、相手は宣う。

「やめてください」

「…は?」

あまりにも突飛な状況に、私は理解ができなかった。

「何を言って」

体を動かそうとすると、相手はすぐさま膝を降り、頭を地面に擦り付ける。

そう、それは土下座だった

「あなたと戦った人はみんな入院します。その後、誰もが競技を続けることをやめると言います。お願いします、私はまだ空手を続けたいんです。あなたのような化物と、私みたいな人間は戦いたくないのです」

相手は涙を浮かべながら、必死に嗚咽混じりに訴える。

その時、私は涙に打たれるわけでもなく、静かに拳を下ろして、ポツリと呟いた。

「そうか…、私は"化物"に成り果てたのか。そうか、だから父さんは」

父はあの時、理解をしてしまったのだ。

自分の手で、娘を化物にしてしまったことを。

そして、それによってやがて孤立してしまう瞬間が訪れることを。

「………」

審判の方を向いても、土下座をする対戦相手に哀れみの視線を送っていた。

「私だけだったのか。これに気づけていなかったのは」

見上げれば周囲も対戦相手に同情を示していた。

こんな化物と戦うなんて可哀想だと。

「あははッ、ははは、ハハハハハ」

乾いた笑いが溢れ出し、その声は空虚に会場に響き渡った。

「あはははは…、はぁー」

相応しすぎる末路に笑いを抑えられなかったが、深くため息を吐いてそれに折り合いをつける。

心の準備は済んでいるのを確認して、ゆっくりと静かに膝を折る。

「降参です。降参します」

それが、私の最初で最後の黒星だった。

大会を終えた後、私は空手部の退部届を即座に出した。校長や部長からかなり引き留められたが、拳を振り上げてそれらを黙らせた。

「最終的に、こんな使い方をするなんてね」

父に勝利し、人を蹂躙し、慈悲を懇願され、最後は手段として使う。

「ふ…、人間として終わってるな」

そんな自虐をしながら淡々と日常を繰り返していると、ふとした瞬間に図書室が目に入った。

「本でも読むか」

そんな気持ちになり、図書室へ入る。

そこでは誰もが本に夢中であり、私のような異物が入り込んだところで誰も気にしない。

「あ、この本」

それは『英雄シリーズ』として最近一気に広まった作品であり、その第一作は賛否激論を巻き起こした問題作でありながら、本屋大賞を受賞している。その本の名前は『英雄の証明』。

「私はどっちになるんだろうか」

問題作という文言に惹かれ、静かにその本を開く。結果を言えば、ビターエンドだった。

簡潔に言えば、周囲に持ち上げられた勇者が魔王を倒す。だが、そんなよくある物語の中で、ある人間が勇者に対して言及していた。

「その勇者は元はただの人間であり、英雄という称号はただ人々が貼り付けるフィルターのようなもの。故に、英雄なんてそもそも世に存在しない」と。

物語を通した作者の持論には納得はするものの、理解を示す事は非常に難しかった。

「うーん」

私がそれを初めて読んだ結果、わからないだった。賛否激論とあるが、私はそのどちらにも偏ることができなかった。

それを踏まえれば、私はこれを傑作と手放しで評価できるものじゃなかった。

だから、私は決めた。

評価をどちらかに傾けられるように、図書室のすべての本を読もうと。

それから、私は今まで鍛錬に注いで時間を本に捧げだ。

読んで、読んで、読んで、読み続けた。

その決意から1年が過ぎ、高校に入って数日した頃だった。千冊目の本を読もうと手を伸ばしたところ、横にいる女生徒と指がぶつかった。

「あ、ごめんなさい」

「いーよ、どうぞどうぞ」

横にいた少女は道場から何度か見たことがあった。確か運動場をぐるぐると走っていたような。

「陸上部の…人?」

「お、よくわかったね。修多羅さんみたいな有名人は私の事は知らないと思ってた」

「有名は有名でも、悪名だけどね」

そんな嘲笑を交えながら、言葉を吐く。

「まぁ、そんな有名人な修多羅さんは私の名前を知っているかな?」

「ごめんなさい。名前までは知らない」

うんうんと頷きながら、その少女は体を翻す。

「私の名前は闇無走(くらなし そう)だよ」

「闇無なんて、凄く珍しい苗字ね」

「そうだよね。大分方面の地名だってさ」

気づけば、私たち二人は図書室を出て、食堂で話していた。

それは私にとって、久しぶりの人間らしい会話だった。

「こう言っちゃ悪いけど、陸上部なのに本に興味があったのね」

「あはは、意外だよね。砕ちゃんの言う通り本に興味なんかないよ。でもね、なんか図書室に行かなきゃいけないような気がしてね。それでたまたま見つけた本に手を伸ばしたら…ね」

「まるで神様が引き寄せたみたいね」

走と話していると、時間の流れが穏やかに感じた。

彼女はまっすぐで、眩しいくらいに。

きっと、私が昔なりたかった“普通の女の子”なんだと思った。

そうして、走は初めての友達になった。

それから数週間、孤独だった時が嘘かのように私は彼女と過ごしていた。

幸せだった。とても。

だが、私は神にとことん嫌われているようで、こんな幸せは長続きしなかった。

「好きです…、付き合ってください」

それは放課後だった。

下駄箱に入れられた手紙に従い屋上へと向かうと、私を待っていたのは果たし合いではなく告白だった。

一流の格闘家と公言する気はないが、そう言った人たちは気配で人を探ることができる。

つまり、屋上の扉の向こうには数人の人が覗き見ており、何やらニヤニヤといやらしい笑顔を浮かべていたのだ。

「…くだらない」

嫌悪を通り越して、呆れ果てる。

「へ、返事を聞いていいかな」

悪戯で告白した男子生徒は演じる。

さも、修多羅砕破に恋した男の子のように。

「拳が欲しいなら口を開いていいわよ。扉の向こうの人間も含めてね」

「な、なんで」

「さっさと消えろ。目障りよ」

人間が誰かと知り合ったからと言って、そう簡単に変わるわけもなく、私はきつい言葉でその場を後にした。

その悪戯の翌朝、私はその報いを受ける。

「あんた、砕破でしょ」

朝の読書を邪魔してきたのは、偉そうな女子とそいつと仲良くしていた女子だった。

「成程ね」

「何よその態度。凄くムカつくんだけど」

「やめなって玲奈。こいつ空手で優勝とかしてるんだよ」

「どうせ中学とかの話でしょ?大したことないわよ」

「大したことないか試したらいいんじゃない?二発ぐらいは許してあげるわよ」

本を静かに閉じて、目の前の女を睨む。

いや、殺気を飛ばす。

「…ッ!こ、この辺で勘弁してあげるわ!」

有名になってからああいう手合いは少ないが、大抵は素人のためこうするだけでビビって逃げていく。

「はぁー、またか」

翌日。二人だった取り巻きが、五人まで数を増やしていた。今度は女子だけではなく、二人の男子が混ざっていた。

「なんのようよ」

なんらかの儀式をするように、修多羅の机をぐるりと囲む。だが何をするわけでもなく、ただじっと修多羅の一挙手一投足を見続ける。

「相変わらず癪に触る態度ね。調子に乗ってんじゃないわよ!」

「調子に乗るね。私読書しかしてないんだけど、具体的にはどう言うものを指すのよ」

「そうやって余裕ぶっているところよ」

「他には?」

「地味女のくせに、隼人を振ったこと」

「それから?」

「あとは……」

「あとは?」

「と、とにかく気に入らないのよ」

気に入らないか。

そんな私情で5人もついてくる人間がいるのを見ると、それなりにカリスマ性があると見るべきか、5人の馬鹿がいるだけなのか。

「んで、どうすんのよ」

「屋上についてきなさい!」

「やれやれ」

囲まれながら教室を出て、廊下を歩いていく。視界の端で心配そうな顔を浮かべた走が目に入った。

『心配しなくていい』

声は出せなかったが、パクパクと走に向かって口を動かした。

「さて、ここならあんたを堂々とボコせるわね。こっちは6人で、あんたは一人。どちらが勝つかなんて分かりきっていることね」

リーダーの女は胸を張り、始まってもない勝負に勝ち誇る。愚か者というのは彼女の代名詞として使えるな。

「はいはい、どうでもいいからさっさとしてよ。私、本の続きを読みたいのよ」

「くっ、その余裕な態度もすぐに崩れるわ!かかれ!」

周囲にいた人が一斉に走り、修多羅へと殺到する。

「はぁ、一発ぐらいはもらうか」

足の早かった男子が拳を振り抜き、修多羅の頬ねクリーンヒットする。

「当たった!?」

当たると思わなかったのか、その一撃はとても軽かったため。

「一発は一発。もらったわよ」

修多羅に反撃の大義名分を与えただけだった。

「はぁ!」

拳を目の前の男子に向かって振り抜き、顔面を見事に捉える。その男子は軽々と吹っ飛び、飛び降り防止の鉄柵に激突する。

「さて、次は誰かしら」

周囲の人間はわずかに怯むが、すぐさま突進をし始める。

「愚かね、全く」

近づく女子の顎を蹴り上げて浮かせ、その後ろにいた女子めがけて腹部を蹴り抜き飛ばす。

「この!」

二人目の男子は少し武術をかじっているのか、間合いをとりながら蹴りや拳を繰り出す。だが、それあくまでも護身の域を出ないため、元より殺法を習得している私の相手ではない。

「な、あ、あいつは少林寺拳法を小学生の頃から習っているのよ」

次々と向かいくる人間を薙ぎ倒し、後に残るのは狼狽しているリーダーの女だけだった。

「ご覧の有様だけど、私をどうするんだっけ」

「チッ、それなら最後の手段よ。出てこい!」

屋上の扉が開き、二人の男子生徒と走が現れた。

「…ッ!?」

「動揺したわよね!動揺したわね!キャハハッ!下調べはしておいたのよ、この女と仲良くしてるってね」

「砕ちゃん…、ごめん」

走をみると、足を引きずっていた。

足の骨が…、折れている。

「キャハハ…ハハハ…」

高笑いをしていた女だったが、目の前で放たれる怒気に思わず止まる。

「言葉を慎重に選びなさいよ。その言葉が最期の言葉になるだろうから」

イラつく修多羅は思いっきり地面を踏みつける。アスファルトはわずかにひび割れ、周囲に殺意を振り撒く。

「はは…、やっと余裕の態度がなくなったわね。だけど、こっちには人質がいるのよ。いくら怒ろうと、それがわからない馬鹿じゃないでしょ?」

目の前が真っ赤に染まる。

早くこいつを。早く目の前の奴らを。

粉々にしたい。

私の大切な親友を。親友の大切な足を。

「あぐッ」

修多羅の怒りは走の悲鳴によって遮られる。

「走!お前ら!」

「ハハハハハッ、いい気味ねぇ!一歩でも動けば大切なお友達をボコボコにしてやるわ。ほら、お前らやっちまえ!」

修多羅に殴られた復讐とばかりに、取り巻きは容赦なく修多羅をリンチし始める。

「やめて!砕ちゃん!反撃して!」

「うるせぇ!黙れ!」

「アアアッ!」

「やめ…あぐっ」

幼少の頃から肉体を磨きあげたとは言え、これだけ殴ったり蹴られたりされれば嫌でも傷はつく。

それでも打撲や擦り傷で高が知れている。

だけど、走は。

「ハハハッ。言い様ねぇ、調子に乗っているからそうなーー」

くそ、目が耳が。

もうダメ。

「砕…ちゃん。さい…」

霞ゆく視界の最中、走が手を伸ばすのが見える。

瞬間、ボキン。

走の腕が折られ、気絶するのが見えた。

「ーーーーー!」

ドックン。

声にならない絶叫が、全身を駆け巡る。

ドックンドックンドックンドックン。

巫山戯るな。巫山戯るな。

ドックンドックン。ドッーーー。

そうか、望むか。

ならば、もういい。

人間のフリはもうやめだ。

私に人間は向いていなかった。

化物になれというのならば、望み通り化物になってやる。

ドックン!ドックン!ドックン!

止まったはずの心臓の鼓動が再び動き出す。

「ぶっ殺してやる」

怒髪天。

突き抜けて怒るなんてどういうことだろうと思ったが、今ならばわかる。

怒りが角になって、額を貫くような感覚だ。

「死ねぇ!」

雄叫びと共に拳を振り抜き、殺到していた取り巻きを再び吹っ飛ばす。

「な、何ーー」

「目障りだ」

リーダー格の女が話すよりも前に、修多羅の拳が顔面を捉える。骨を砕く鈍い音を立てながら、屋上へと続く扉に叩きつけられる。

「つ、ツノがは、生えてやがる」

修多羅の額には立派な赤いツノが生え、体もわずかに赤熱する。

「殺す。全員殺す。何回でも何度でも殺す」

放たれる殺意は周囲を圧倒し、風景を捻じ曲げる。

「ひぃぃ、ば、化物」

「そうよ、私は化物なのよ」

ミシミシとアスファルトを踏み砕きながら、ゆっくりと男子生徒達に近づく。

「どっちかはわからないが、走を害したんだ。念入りにぶっ壊す!」

拳を勢いよく振り抜き、まさしく顔に命中すると言った時に、横から掴み止められる。

「よう、修多羅。元気そうじゃねぇか」

「言葉…か。邪魔しないでよ、殺すわよ」

「ハハッ、元気だな。いつもみたいに辛気臭そうな顔をしてないんだな」

「くッ!邪魔なのよ!」

拳を容赦なく薙ぎ払い、言葉を吹き飛ばそうとする。だが、言葉はそれらをひらりと避ける。

「元気なのはいいが、感情に呑まれるなんて、随分とらしくねぇじゃねぇか」

もういい。邪魔をするなら。

「お前を殺す!」

「かかってこいよ」

「ハァァァ!」

力強く握られた拳が勢いよく放たれる。だが、言葉は放たれる腕目掛けて拳を放ち、華麗に捌いてみせる。

「ガァァ!」

「ぐッ」

膝蹴りが勢いよく腹部に命中し、言葉は容赦なく浮かされる。

「いい蹴りだ。お前にも付き合ってもらうがな!『吹っ飛べッ!』」

瞬間的に修多羅の腕を掴み、言霊を勢いよく放つ。放たれた言霊で二人は上空へと飛ぶ。

「行くぞ!修多羅」

「くそがぁぁ!」

空中でもつれ合いながら回転し、二人で運動場への地面へと叩きつけられた。

「ハァハァ、言葉ぁ!」

「異能者同士だ。思いっきりやろうぜ」

修多羅は怒り、言葉は冷静に笑う。

夕焼けが二人を照らし、輪郭をゆらりと歪める。

二人の間を一陣の風が吹き、夕焼けが沈み、夜の帳が下りた瞬間。

「ハァ!」

「オオッ!」

二人は勢いよく激突した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ