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6話 前章2

学校からだらだらとバイクを発進させて、新宿方面へと向かう。

新宿は全国放送されるぐらいのかなりの大きい街だ。そのため、そこに近づけば近づくほど、人口密度は高まるはずなのだが、それとは逆にどんどんと人は少なくなっていき、目的地へと続く道へと曲がったときには、車どころか人が1人もいなかった。

「……"もう"か」

簡単に了承するんじゃなかった。

これだけ人がいないということは、銀鏡が《誘導》を使っている証拠であり、それは戦闘が始まっているという裏付けでもある。

「頭痛がしてきたな。1時間どころか、早急に行かなきゃダメだったんじゃねぇのかよ」

銀鏡は以前の戦闘で、どうやら攻撃能力を獲得したらしい。つまり、俺の補助という立場に甘えることなく、自分1人で解決できるようになったということだ。

仕事の先輩として成長してくれるのは純粋に嬉しいことだが、いなくなって寂しいと思うのは、内緒の話だ。

「おかしい」

そう、異能を発動していることは戦闘が始まっているということだ。発砲音が鳴り響いたり、建物が崩れる音が聞こえたりしてもいいはずだ。

だが、周囲の建物は黙りこくっている。

奇妙な状況に疑問を浮かべながらも、携帯で銀鏡に電話をかける。携帯を耳に押し当てながら周囲を確認していると、向かいの道のビル群の影から、ローブを被った3人組が目に入る。

2人は周囲を警戒しながら、奥の1人の手を背の高い方のローブが引っ張る。

自分たちは怪しいですと白状している3人組を注視していると、1人が何やらポケットをまさぐっている。

銃火器でも取り出すのかと思ったら、その手に握られていたのは携帯だった。

携帯の画面を見ながら周囲を確認すると、そのローブを剥ぎ、自分の顔を晒す。

「先輩ッ!」

お前かよ。銀鏡。

「はぁーー」

訂正、何も成長していない。

頭を抱えながらバイクを降り、道を跨いで銀鏡へと近づく。

「先輩、速かったですね」

「あぁ、まぁちと居づらくてな」

「なんの話です?」

「気にするな。で、そっちの2人は誰だ」

「私だよ」

手を引いていた方のローブが払われると、そこから千里さんが姿を現した。

「千里さんが自ら出しゃばるほど……ですか」

「あぁ、色々あってね」

いや、その色々を説明しろよ。

ツッコミだらけの現状についに負けてしまったが、その悔しさをため息で流して、現状整理へと取り掛かる。

「それで、そちらさんは?」

千里さんが自ら出てきて、異能を発動したのに警戒をするほどだ。

国賓か、それとも国家レベルの重要人物か。

今までやってこなかったが、状況を鑑みるとこの人物の護衛をしろということだろう。

「SPでもつけりゃいいのに」

「私もそうだと思うがね」

隠したはずの悪態はどうやら口から溢れてしまったようだ。

「ごめんね。でも、君はどんな人間にも負けないって聞いたから」

その歌うような美声と共に、ローブのフードだけをあげて素顔を晒す。そこにいたのは。

「…………誰だ、こいつ」

偉そうなおっさんでもなく、凄みのあるおっさんでもない。年齢が同じぐらいの、ちょっと面がいい少女だ。

「「「ええええええええええッ!」」」

俺のそんな間抜けな声に、2人どころか本人も驚いていた。

「こ、神代歌ですよ!神代歌!」

「はぁ?」

「なんでわかんないんですか!先輩は現代人ですよね?彼女を知らないなんて原始人なんですか?」

「ほう?殴られたいようだな」

「すんません、調子に乗りました。殴らないでください」

この少女は有名人なのか?

神代歌。神代歌………か。

「言葉君、ディーバって知っているかい?」

「歌姫って意味ですよね」

「それだよ」

いや、それと言われましても。

神代歌………。

ディーバ………。

いくら頭で検索をかけても出てこない。

「マジっすか先輩」

「言葉君、もっと世界に興味を持とう」

2人して残念な人間を見るような目で見ないでくれ。

「有名人だと自負していたけど、私もまだまだだね」

「気にしなくていいっすよ。先輩が原始人なだけですから」

「銀鏡、お前マジで後で殴るからな」

うーん、喉らへんまで出かかっているというか、誰かがなんか言ってたような気がする。

「ワンフレーズだけ歌ってもらっていいか。あんたの代表曲で」

「え、ええ。〜〜〜〜〜♪」

言葉のリクエストに応えるために、アカペラで歌う。

「あぁーーーーーーーー、思い出した。街で聞いたことある」

「そのレベルなんすね」

神代歌。ディーバ。

うん、インプットできた。

「で、この厳重な輸送はなんのためっすか。わざわざ顔合わせのためにじゃないっすよね」

「そうだ、こんなことしてる場合じゃないっすよ。先輩実は異能者がーーー」

ドォン!

銀鏡の発言を遮るように、両脇のビルが中腹から崩壊を始め、大きな破片が4人を襲おうと迫り来る。

「『止まれ』」

破片全てを視界に収め、言葉は言霊を放つ。

「追われてるなら追われてるって早く言ってくれよ。めんどくさいことになるだろうが」

「顔も知らない先輩のせいですよ!」

「2人とも喧嘩してる場合じゃない!言葉君、ここは1人で頼んでもいいか!銀鏡君は万が一のためにもらうよ」

「はいはい、後で聞かせてもらいますからね」

「先輩、頼みました」

やりとりが終わった頃には言霊の効力はきれ、ビルの破片は周囲に落ちていくが、その中に次々と飛び移る影が目に入る。

「そこか、『吹っ飛べ』」

その影めがけて言霊を放つ。

「何ぃ!?」

スピードに自信があったのか、影はそんな間抜けな声を出しながら、ビルを数棟貫きながら空中を舞う。

「『吹っ飛べ』」

跳躍すると共に自分に言霊を叩きつけ、ビル以上の高さを飛ぶ。

「『止まれ』」

自身、そして吹き飛んでいく人間に同時に言霊をぶつけて座標を固定化する。

「お前、異能者か?」

言葉のその質問に、その男は笑う。

「わかりきったことを聞いてんじゃねぇよ、"異能殺し"」

「それを知っていることは、間違いなく異能者だな」

異能が広まりきってない世間で、その二つ名を知っているのは異能者という狭いコミュニティだけだ。

「百道さんの言うことは間違ってなかった。神代歌を狙えば出てくると」

「百道さん?お前らの親玉か?」

「そうさ、俺らは『ニグレド』。世界に破滅をもたらす異能者達だ」

「…………」

自信満々にそう宣う異能者に対して、言葉は思わず黙り。

「ぷっ、ははは。おいおい、傑作だな。僕たちの夢は世界制覇すること!ってか?そんな年齢にもなって小学生みたいなこと言ってんのな」

腹を抱えながら言葉は嘲笑をする。

最初は大きかったその笑い声は次第に小さくなっていき、気が済んだ言葉は異能者を睨め付ける。

「なら、あるんだよな。俺に、異能殺しと呼ばれるこの俺に、勝てる算段が」

言葉から放たれる圧力で、世界は怯えるように振動を始める。

「あ、当たり前だろうが。そうじゃなきゃ、百道さんは俺を派遣させない。俺は期待の星と言われているからな」

異能者はわずかに気圧されながらも、強気な発言をする。

「そうか、なら見定めさせてもらうとしよう」

小さく息を吐き、目を閉じながら息を吸う。

「教えろ、テメェの名前を」

乱暴に吐かれる質問に、異能者は応える。

「俺の名前は反土(たんど)。よろしくはしないぜ、異能殺し」

「あぁ、それでいい」

名乗りが終わると共に、言霊の効力は切れて、2人は落下を始める。

数秒間。反土は笑い、言葉は冷徹な視線を浴びせながら、互いに落ち続ける。

「来ないのか?なら、俺からやるぞ」

ビルに沿うように落下していた言葉は、言霊で一瞬止まることによって落下のエネルギーをゼロにしてから、ビルの窓を足場にする。

「『身体強化』」

言霊による物理的な筋肉増加を行う。

一瞬で肉体は膨れ上がり、そして収縮する。

言葉がその場を踏みしてから反土へと狙いをつけて跳躍を始める。踏み締めたビルの全ての窓にひびが入り、踏み締めた足にどれだけの力が加えられているかを裏付ける。

迫り来る異能殺し。これだけでも大抵の異能者であればトラウマものであるが、反土はそれに対してニヤリと笑う。

「《反射》」

反土がそう呟くと、薄い透明な膜が出現する。

「…ッ!?」

止まれない言葉はそのまま膜に突撃する。膜は反土に到達するギリギリまで凹んだが、なんとか言葉の力を受け止める。

「許容ギリギリかよ。まぁいい、飛んでけ」

張られた幕は元に戻り、言葉を瞬時に吹き飛ばす。先ほど反土を再現するように、ビルをいくつも貫通しながら、地面に勢いよく激突する。

「なるほど、腐っても異能者か」

こうなってくると、銃火器の類は一切効かないだろう。相手の解釈によりけりだが、言霊を込めた銃弾でも返されたら溜まったもんじゃない。

「はぁー、いちいち考えるのめんどくさいな」

頭をボリボリと掻きながら歩いていると、目の前で異能を使って安全に着地をする反土が現れる。

「不死ってのは本当なんだな。普通であれば、さっきので即死だろ」

反土は驚いていたが、それに反して言葉はやけに冷静だった。

「はぁ、ただの出オチだな。何が追われてるだ、どう考えてもあの2人でも倒せただろ。いや、銃とか鞭しかできないから、相性としては悪いのか」

「なんだぶつぶつ言って。辞世の句でも読んでんのか?」

どうやらこいつらの組織では、俺は詩人で通っているようだ。

「めんどくせぇ、力押しさせてもらうぞ。『身体極化』」

言葉がその言霊を放つと、言葉に対して急激な身体強化を施す。その連鎖的な強化は百回ほどの筋肉増加と収束をしていく。

「話は聞いちゃいたが、オーバーフローができるなんてな。なんでもありかよ」

反土はその光景を見るまで、半ば信じていなかった。三種に大別される異能のうち、言葉の異能《言霊》は異質系に位置するが、オーバーフローが発動できるのは、本来は異常系の異能である。

文字通り命懸けの超倍率をかける奥義だが、不死の言葉であれば、そのリスクを容易に踏み倒せる。

「さて、予告しよう」

言葉は見せつけるように、反土に人差し指を立てる。

「1発で倒せるってか?俺も舐められたもんだな」

「舐めてんだよ」

そう言って、言葉は右腕に力を込めながらゆっくりと反土へと向かう。

「は、《反射》」

反土の前に現れた膜に対して、言葉は勢いよく突進しながら拳を突き出す。膜は再び強く凹み、言葉の拳は反土の目の前で止まる。

「ハハッ!なんださっきとーーー」

「なわけねぇだろう、馬鹿が」

そこからさらに突き出した拳は膜を軽々と破り、反土の顔面を正確に捉える。

命中した拳はメキメキと反土の顔の骨を砕きながら、遙か彼方へと吹き飛ばす。

豆粒のようになっていく反土に対して、言葉は胸から取り出した銃を構える。

「ダメ押しだ。『死ね』」

死の言霊を込められた銃弾は反土へ迫り、心臓に向かって一閃する。

即死級のダメージを2度喰らった反土は、力無く街へと落下していく。

「終わったな」

言葉は墜落する様を見届けた後、再びバイクへと向かって歩き出す。気づけば人がちらほらと出てきており、車も遠くから来始めている。

「見てたんかい」

そう思いながらバイクに跨ると、後ろから腰へと手を回される。

「歌さんは無事保護できましたよ、先輩」

「んで、どうすんだよ。今から」

「殲滅会へGOです」

「だよなぁー」

そのままバイクを発進させて、ビル群を後にする。景色が流れていくのを見ながら、俺はこう思った。

厄介ごとの匂いがする。と。

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