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6話 前章1

ここから始まり、ここから終わる。

問題文は始まり、答えは裏付けされ始める。

さぁ、証明を始めよう。

私立 駒啼(こまねき)学園。

その学校には、不良として有名を馳せている特定人物がいる。

その名を、歴木言葉(くぬぎ ことは)

教師がネガティブキャンペーンをやっているおかげか、彼は大半の生徒から嫌われている。

だが、本人は評価を気にしている様子はなく、今日も元気に立ち入り禁止である屋上で寝ている。

キーンコーンカーンコーン。

チャイムが鳴り響き、授業開始の合図がされる。教室には当たり前に一人分の空席があり、担任はそれを見ながら少しため息を吐く。

その席の主人は屋上で横になっており、全身で日光を浴びていた。

「暇だ………」

何か趣味を作るべきだろうか。

似つかわしくないが、俺は仕事人間である。

学校以外のほぼ全ての時間が仕事である異能者殺しに費やされる。四年の月日も経つと人殺しには慣れるものだが、それ以外はこうやって呆けている時間がある。

つまり、手持ち無沙汰というわけだ。

「読書をそれにするか?」

毎度目隠し代わりに使っている本がある。

それは、修多羅砕破(すたらさいは)が貸してくれた『英雄の証明』という本屋大賞まで受賞した有名な本である。賛否激論を巻き起こしたその一作を皮切りに、その後四作ほどの書籍を出し、今では英雄シリーズと言われるほど有名なものである。だが、そのシリーズを読み終わった人間はみんな一様に同じ言葉を吐く。

『気持ちが悪い』と。

主人公の行く末に納得できない人間もいるらしいが、俺はそこまで本の登場人物に思い入れることはできない。

だが、これを紹介した修多羅は違うんだろう。

何せ、彼女は150周もこの本を読み続けているんだから。

プルルルル。プルルルル。

「………」

ポケットの中のスマホが着信を知らせる。

すぐさま取りだして、かけてきた人間の名前に辟易しながらも、通話ボタンをプッシュして電話に出る。

「はい、言葉」

「先輩、仕事です」

その声は、銀鏡鈴鹿(しろみ すずか)だった。

大学生という立場でありながら、高校生である自分の後輩だと言う。仕事という学校から強く乖離したルールということもあり、年齢差などというものは関係がないのだろう。仕事場においての経験がものをいうため、先にいた俺は彼女に先輩と言われているわけだ。

「切っていいか?」

『勘弁してくださいよ。千里さんに頼まれているんですよ』

「千里さんの直接指名か。弩級の案件かよ」

異能殲滅会という異能者を殲滅するという強い私怨が入ってそうな組織に、俺は戦闘員として所属している。今まで俺が1人でせっせと仕事をこなしていたが、前の戦闘で大幅な体制の変更があり、俺がやるのは指名依頼のようなものだけになった。旧体制では俺1人だけの死で事足りていたが、最近は構成員の1人2人は毎日死んでいる。

俺はこれが正解だとは思わないが、千里さんは死を背負う覚悟をしたのだろう。そう思い、俺は何も言えなかった。

「んで、どこに行きゃいいんだよ」

そんな乱雑な言葉で、言葉は銀鏡へと疑問をぶつける。

『やる気になって安心しました。場所は新宿になります。1時間後に落ち合いましょう。詳細はそこで話します』

そう言って、通話は向こうから切られて終わった。

「はぁー、仕事かぁ」

ここから新宿までバイクで10分ほどになる。

寝れはしないが、未だ横になることは許されるのかもしれない。

そんなくだらない思考をしていると、バンという音と共に、屋上の扉が開かれた。

「ゲッ」

俺は自分を人気者だと思ったことはないが、最近ある人物に執着されていてウザい時がある。

その人物こそ、今扉から歩いてきている男子生徒になる。

「やぁ、歴木君」

最近、俺に関しては不名誉な噂が立っている。

実は人助けをしているだとか、血みどろになりながらも人を守ろうとしたとか、人道支援をしているだとか。そんなフィクションのヒーローと同列に扱うのはやめてほしいのだが、その原因は目の前にいる男、雲林院万(うじい よろず)のせいである。

「今日も屋上で休んでいるのかい?」

「………あ、あぁ」

人に対して思うのは割と失礼だと思うが、俺はこの人が苦手だ。いや、厳密にいうとどういう接し方をしたらいいかわからないと言ったところだろう。

「どうしたそんな顔をして、悩みでもあるのかい?なら生徒会長である僕に、なんでも相談したらいいよ」

不良生徒と生徒会長。

学校という狭い社会の中で対極の存在であるはずなのに、彼は生徒会長という立場にそぐわず、こうやって俺と共に授業をサボっている。

「相談……ですか。いや、特になんもないっすよ。帰りたいなぁってだけです」

と言っても、30分後にここを出るのだが。

「担任にある程度の措置をしてもらっている以上、登校するという義理は果たさなきゃならないが、妥協案として屋上でサボることは容認されているが、何もすることがないから帰りたいってことね」

どうしてさっきの短文だけでそれらを理解しているのか。いや、知っているのか。

全くもって不明だが。

「まぁ、そうですが」

「することがない………か、ならば生徒会に入らないかい?」

「…………」

俺はこのセリフを何十回と聞いている。

夏休み明けから1日も欠かすことはなく、熱心に勧誘をしてくる。

そして、そのセリフに対する解答も決まっている。

「嫌です」

その四文字で事足りる。

そして、それに対する反応も。

「うーん、残念」

なんだ、この茶番は。

「本当に君を生徒会に入れたいんだけどね」

「なんでっすか」

不良だから入りたくないというわけではなく、単純に仕事と併用するのがきついという側面がある上に、生徒会の仕事がこの学校の特性上かなりの権力を持っているため、自由が効く。

つまり、生徒会長がサボっているのはその特権故になる。

そして、その自由の旗の下でこの男がどんな仕事を割り振るのかわからない。

「そんな秘密組織みたいなもの入りたくないっすね」

「秘密組織なんていうのは、学校に来ない君ぐらいなもんだよ。僕ら生徒会は、手広く仕事してるんだから。今頃は、生徒会の副会長と庶務がサボっている生徒がいないか見張りに行っているはずだよ」

「それ、教師の仕事だろ」

「本来はね。ただ、この学校は生徒の自主性に強く任せている学校だ。実際、本来退学処分されてもいいほど登校頻度が低い君が容認されているんだからね」

「……いや、それはわかるがな」

「だけど、僕は生徒にはそれぞれ希望する学校に行ってほしいからね、せっせと仕事をこなしているわけだ」

「俺はそうじゃねぇと」

「君は苦学生で、すでに正社員と言ってもいいような仕事場があるんだろう?だったら、無理に勉強する必要もない」

「まぁ最低限は必要っすけどね」

言葉そう言いながら、立ち上がり出口へと歩き出す。

「あら、サボりはおしまいかい?」

「いいや、仕事っすよ。そろそろ行かなきゃならないんで」

スタスタと歩きながら去ろうとする言葉に、雲林院も立ち上がってその背に話しかける。

「その退屈。もうすぐ消えてなくなるよ」

「は?」

「言葉君。君が、次に登校してくるのが楽しみだよ」

「何を言ってるんですか」

「文字通り、現状打破の話さ。君の欠伸をするほどの退屈は、もうすぐ無くなる。学校でも仕事でもね。随分と刺激的になるはずだから、多少の覚悟はしたほうがいいかもね」

「なんですか、占いでも始めたんですか」

「いやいや、そんな不透明で不確かな話じゃない。それよりもっと確実な話さ」

「なんからしくない言い回しっすね。何かの受け売りですか?」

「よくわかったじゃないか。これは知り合いの占い師の言葉でね、的中率100%の人間の言葉さ。この結果も、その人間が占ったものだからね、絶対当たるよ」

絶対当たる。

そんな占いはこの世にはありはしない。

だが、先輩の言葉と態度はそれを裏付けているように感じる。

「まぁ期待しないようにしますよ」

背を向けて手を振りながら、言葉は屋上を去る。雲林院だけとなった屋上で、彼は青空を見上げる。

(こう)、君の祈りは届かなかったようだ。彼は平穏とは程遠い立場のようだ。まぁ、僕らは彼に干渉することは叶わないけどね」

雲林院はそれだけを呟き、その場を後にした。

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