6話 幕開き
熱狂しろ、渇望しろ。
盲目であれ、暗愚であれ。
それが相応しい末路だ。
ワーッ。ワーッ。
開演時間に近づくにつれて、観客はその熱量をあげる。中心に広がるステージの上に立つ人物を、今か今かと待ち侘びる。
その舞台は、日本武道館。
アーティストやアイドルが目指すべき地点と定める場所であり、自身のキャリアの最終地点に多く選ばれる場所でもある。
そんな夢の舞台に、彼女は姿を現す。
ドンッ!
開演時間一分前。轟音と共に周囲を照らしていた照明は落ちて、あたりは一筋の光すら通らない暗がりへと変わる。
そんな最中、微弱な機械音がステージ中央から武道館にこだまする。
やがて、その音は人々を熱狂させ、その姿を目撃せんと視線を集める。
その視界の先に、現れたるは。
「あぁぁぁぁぁぁぁッ!」
おおおおおおおおッ!
その叫びに、観衆は応える。
それに応え、右手をあげる。
照明はステージ中央を照らし、現れたのは黒衣を纏った女の子。
そう、ディーバとまで言われる神代歌だった。
「〜〜〜♩」
余計な言葉、余計な反応。
それら一切許さないというように、開演時間と共にディーバは歌い始める。
照明は中央の彼女だけを照らし、楽器などの彼女以外の音は最小限に抑えられる。
それらもまた、余計な演出。
何にも迎合しない、何にも頼らない。
圧倒的な歌唱力だけがその場を支配し、観衆を殴りつけるような歌声が響く。
熱狂していた観衆も、皆が唾を飲み、ただその歌唱力に圧倒される。
「〜〜〜〜〜♪」
酔いしれよう。今だけは。
感じよう、この全身で。
目指してきたステージで、終焉を演じられる。
どれほど遠く、こがれてきたものか。
「〜〜〜〜♪ッ!」
聞いて、私の歌を。
知って、私の声を。
見てて、私の姿を。
「〜〜〜〜〜ッッッ!♪」
歌は、全霊で歌う。
時に儚く、時に鋭く、時に重たく。
歌がディーバたる所以は、作詞者が伝えたい120%のことを、歌唱力だけで理解させる。
人々はそれらに強く惹きつけられ、耳を奪われるような感覚を得る。
まさしく、アーティスト界の怪物。
その怪物が放つ、命を削るような絶唱。
「〜〜〜〜〜♪ッ!!」
その姿に魅せられ、奪われる。
3時間という限られた時間はいつの間にかすぎ、汗だくのディーバが口を開く。
「皆さん、次が最後の曲になります」
人々は驚愕を隠せなかった。
ライブ中に一言も話さなかった彼女が、歌声以外の声を聴かせなかった彼女が、それだけを喋った。
「聞いてください。⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
いいんだこれで。
これで、ようやく終われる。




