第一部 後半 プロローグ
「くだらないくだらない。あー、実にくだらない」
白髪の青年は、机に足を乗せ、椅子に全体重預けながらゆらゆらと動く。
「生きる意味だとか、生きる理由だとか。どうせ死ぬんだから、そんなものを探したって無駄だろうに」
青年の周囲には縦型の水槽が立ち並び、そこには体操座りで丸まった少年少女が浮かぶ。
「長音寺も、佐夜鹿も、雀居も、教楽来も、異能に理由を求めるから死ぬんだよ」
青年は手に取った紙をテキトーに破き、空中にばら撒く。
「人間に生と死があるように、絶望と希望は所詮表裏一体の関係。つまり、異能者になるのは人間である以上当たり前なんだよ」
白髪の青年は虚空に向かって、諦念を交えながら、うわごとのように続ける。
「百道様、いつものやつですか?」
メガネをかけた女が、百道と呼ばれる青年の横に座る。
「皇后崎か。そうだよ、いつものやつさ。いつもの失望ってやつさ」
近くにあったグミを乱雑に掴み取り、口の中へとこぼしながら放り込む。
「人類ってやつはさ、どうも救いようがない。学習能力も記憶力もないから、同じ過ちと罪悪をずっと繰り返す。バベルの塔もそうさ。あれには高い建物を建てちゃならないという教訓が聖書に書かれてあるのに、東京タワーとかスカイツリーとかを建ててる。戦争だって、繰り返してはならないという教訓があるのに、今でも引き起こしている国がある」
百道、皇后崎の背後には、数人の異能者の影が指す。
「全く救いようがない。だが、歴史を繰り返す愚かしさには拍手喝采を贈るとしよう」
馬鹿にしたように笑いながら、ゆっくりと手を叩く。
「そんなどうしようもない人類諸君。僕が責任を持って、滅ぼしてあげよう。何、一度滅んでも、うじのように湧いてくるんだろう?だって、そういう習性の生き物なんだからさ」
そう言いながら、拍手をどんどんと早くする。
「撲滅して、掃滅して、殲滅して、絶滅して、全滅させてあげるよ」
椅子から勢いよく立ち上がり、ふわりと百道は空中に浮く。
「『ニグレド』の諸君、滅ぼそう人類を。そして終わらせよう、何度でも。種の本能とやらに抗おうじゃないか、こんなくだらない生物は歴史を綴ることすら烏滸がましい」
百道は嗤う。
空中でクルクルと回転しながら、そして上を向きながら両手を広げる。
「さぁ、始めよう。ここからが本番だ」




