5話 レーゾンデートル5
「『インストール』+『ラーニング』」
言葉は二つの言霊を口にして、ゆっくりと教楽来に向かって歩く。
「ハハッ、馬鹿がっ!テメェも忘れやがれッ!」
教楽来は出力を最大にして忘却を発動する。
それは一秒で記憶喪失を引き起こすものだが、言葉は涼しげに歩き続ける。
「修多羅、お前は校舎に逃げてろ。俺はこいつぶっ殺すから」
「あ、あんた勝てるの?」
「信じろよ、勝算は大アリだ」
ゴキゴキと首を時計回りに回しつつ、言葉は教楽来を睨め付ける。
「お、お前ッ!なんで効いてないんだよ」
「効いてるさ、しっかりな」
「はぁ?」
言葉はそう言いながら、教楽来に構わず歩き続ける。
「さっき言霊を使ったろ。あれは、お前の忘却対策だよ」
ラーニングで異能による記憶の忘却速度を学習して、インストールによって現在の自分の知識をそっくりそのまま入れる。
それらは人間であれば情報攻撃に等しいものであり、普通であれば脳の過負荷のストレスで死んでもおかしくない。
だが、言葉はそれらを鼻血を出すだけで耐える。
「不死身ってのは実に便利だな。こんな強引なこともできんだからよ」
「テメェ、化け物か」
「化物が化け物って言ってんじゃねぇよ。ったく、どいつもこいつも自分が最強だとでも思ってんのかね」
言葉は教楽来とのある程度の距離を詰めて、ゆっくりと非天無獄流の構えをとる。
「『再現』、修多羅砕破」
言霊による異能発動によって、この瞬間言葉は修多羅砕破と同格の殺法家に成り代わる。
「なんのつもりだ!」
「お前、修多羅に負けそうだったから異能を発動させたんだろ?」
言葉はニヤリと笑いながら、教楽来を煽る。
「なんだと?」
「白々しいな。ったく、どんな敵がいるかと思ったら、俺がいない時にコソコソするばかりか、負けた要因にも気づかない間抜けだったとはな」
「訂正しろ!俺は負けてない!」
「ならかかってこいよ三流格闘家。お前の相手は一流の紛い物で十分だ」
「あまりイキがるなよ、負けた時は恥だぞ」
「ごちゃごちゃ抜かしてんじゃねぇよ。さっさとかかってこいよッ!」
互いに構えをとって、一瞬の静寂が訪れる。
そこに一陣の風が吹いた時、先に教楽来が拳を振るう。
「オオッ!」
拳は勢いよく振るわれ、言葉に命中する。
「ハハッ、大したことねぇじゃねえか」
「おいおい、それは自己紹介か?」
教楽来が放った拳は、見事に言葉の掌の中に収まっていた。
「なッ!?」
「驚き方まで三流かよ、雑魚だな!」
勢いよく言葉は距離を詰めて、教楽来の鳩尾へと膝蹴りを入れる。
「ガハッ」
「痛いか?だが、お前に受けたみんなの屈辱は、こんなもんじゃねぇだろうがよ!」
勢いよく言葉は地面を踏みしめて、全身の力を練り上げる。
「非天無獄流・四壊波星ッ!」
放たれた拳は速く、一瞬で教楽来の四肢を撃ち、教楽来は無防備に空中へと浮く。
「続いて、非天無獄流・二牙白胴ッ!」
右足に全体重を乗せながら蹴りを放ち、そのまま回転して、左足の踵で教楽来の顎を蹴り上げる。
「ブボッ!」
「まだまだぁ!おらよッ!」
空中でさらに体勢を変えて、教楽来の胸を蹴り飛ばす。吹き飛ばされた教楽来は、全身を削りながら運動場を滑る。
「ば、ばがなぁ。こ、この俺が」
「負けを想像できないのか。そうか、お前は修多羅に対して偉そうに講釈を垂れていたよな。戦場でいちいち考える必要がないとか。お前が言ってる戦場はなんのことかわからないしどうでもいいが、負けを想像できない雑魚に戦場を語る資格はねぇよ」
「な、なにいっでるんだ!戦場は勝つか負けるだろうが!」
「はっ、つける薬が見当たらねぇほどの馬鹿だな。生存戦略って四文字が入る時点で、勝ちとか負けとか関係ねぇんだよ」
「うるせぇ!黙れぇぇぇ!」
「思考放棄か。ザマァねぇな、『止まれ』」
「は?」
走っていた教楽来の動きは、言葉の言霊によって瞬時に固められる。
「お、お前ッ!拳法だけで、闘うんじゃ」
「誰がそんなこと言ったんだよ。これだからバカは困るぜ」
胸ポケットから銃を取り出して、どうでも良さそうに片手で銃を構える。
「な、や、やめ」
「『死ね』」
撃ち出された絶殺の凶弾は、教楽来へと迫り、見事その脳天を貫いた。
「はぁーあ、疲れた」
夕焼けに向かって息を吐いた後、この後のやるべきことを思い出し、それに辟易しながら歩き始める。
「言葉、やったわね……って、どこに行くの?」
「あぁ、ちょいと渋谷にな」
「何しに行くのよ」
「あぁ、ちょいと蘇生にな。ったく、どこまでも迷惑かけるなあいつは。『吹っ飛べ』」
ため息混じり言霊を使い、瞬時にその場を飛び去る。
「はぁー、絶対後始末やらせるからな」
その固い意志ともに渋谷へと勢いよく着地する。
「ふぅー、着いたー」
「言葉君!」
「言ちゃん!」
「え?」
気づけば、なぜか2人から抱きつかれた。
「えーっと、なぜに?」
「心配したんだから!」
「よく帰ってきた!」
怒るか褒めるかどっちかにしてもらいたい。
「あー、後でいくらでも聞くんで、ちょっと離してください」
2人を無理やりひっぺがして、渋谷のスクランブル交差点を渡り、ハチ公前へと足を向ける。
辺りを見渡してから、あたりをつけたベンチに腰を下ろす。
「はぁ、泣いてんじゃねぇよ。『銀鏡鈴鹿』」
言葉がその空白に対して、ポンと手を置く。
すると、そこから号泣しながら抱きつく銀鏡が姿を現す。
「せ、先輩ぃ〜」
「あーもうー、どいつこいつも」
抱きしめるのが世間的に流行っているのだろうか。全く、少しいなくなったくらいで大袈裟な。
「私頑張ったんです。すごく」
「ああ、そうらしいな」
「だから褒めてください」
「よくやった、後輩」
「ダメです!頭を撫でてください」
「はいよ」
俺はハチ公の像を前にしながら、後輩の頭を撫で続ける。もしかしたら俺の後輩は犬なのではないか、そんなふざけた思考をしながら、俺は銀鏡の気が済むまで撫でさせられた。
無論、その後筋肉痛になった。




