5話 レーゾンデートル3
「闇無、お前はどうやらこれが異常なことをわかっているようだな」
「はい、言ちゃんはそもそも女性じゃないですし、あんなに人気じゃないですから」
「まぁ、不良だからな」
「あはは、そう言ってあげないでくださいよ」
先ほどの笑顔から一転して、走は真顔となる。
「私、どうしたらいいですか」
手段がない。わからない。
この状況をひっくり返す手が。
「ちょっと待ってな」
白水先生はそう言いながら、携帯で誰かに電話をかけ始めた。
「千里先輩、久しぶりっす。え?今は話してる場合じゃないって?そんなこと言わないでくださいよ、緊急事態なんですから」
千里先輩?誰だろう。
「えぇ、敵は言葉の改竄が目的なんだと。え?そうじゃない?まぁいいや、走さんって人をそっちに行かせます」
え?どゆこと?
「え?戦闘中?誰とですか。敵はあの薄気味悪い格好をした言葉じゃないんですか?」
ドォン!その時、轟音が校舎中に鳴り響いた。
「あー、成程。どうやら、違うようですね。え?こっちにもいるのかって、どうやらそうなんじゃないーーって怒鳴らないでくださいよ。俺業界の人間じゃないんですから」
その後もぶつぶつと話をしていたが、折り合いがついたのか白水先生は通話を切って、私に向き直る。
「ということで、千里さんの所に行きなさい」
「わ、わかりました。って、どこにいけばいいんですか?」
「渋谷だよ。渋谷で先輩は繰り広げるみたいだ。そして、俺の予測だが」
白水は目を閉じながら、呼吸を整える。
「こういうのは看破されれば解除されるもんだ。行ってこい、闇無。俺はここにいなきゃいけねぇからな」
「は、はい!」
そのまま弾けるように、走は職員室を飛び出して、廊下へと爆走する。運動場へと目を向けると、そこでは修多羅が謎の男と対峙する。
「頑張って砕ちゃん。私は渋谷に」
修多羅の応援をしながら、学校を飛び出した。
「すまないな、電話は終わったよ」
千里は片手で鞭を操作しながら、迫り来る雀居の蛇腹剣を捌き続ける。
「なんで!斬れないのよ!」
「特別な鞭だからね、そんな鈍じゃ斬れないようになってるんだよ!」
防御に徹していた先ほどとは打って変わって、鞭を大きく動かして、勢いよく敵の剣を弾く。
「なッ……」
雀居は驚いた表情を浮かべながら大きくのけぞる……が。
「なんてねッ!」
《詐称》によって、仰け反ったはずの体は元に戻り、弾かれたはずの蛇腹剣は再び千里を襲おうとしていた。
「まぁだろうね」
千里はそれがわかっていかのように、その場から勢いよく飛び退く。
「なっ、なんでッ!完全に不意打ちだったはずでしょ!」
「普通はね。私の目にはそんな小細工聞かないのさ」
千里は異能によって、五秒後までのわずかな未来視が可能なため、蛇腹剣の軌道を完全に読み切っていた。
「チッ、お前も異能者かッ!どいつもこいつも目覚めてんじゃないわよ。異能者ってのは特別なものであるはずでしょ!世界から傷つけられた証拠で、優遇されていい人間なのよ!そんなぽんぽん生まれてきていいもんじゃないのよッ!」
「自分だけが不幸だと思っているのか?随分と花畑な異能者がいるもんだね。全く頭が痛いよ」
鞭で一通りの攻撃を捌いた後、千里は瞬時に走り始める。
「馬鹿ね!遠距離特化の人間が、近づいてんじゃあないわよッ!」
横に薙ぎ払われる蛇腹剣。
千里はそれを見ながら跳躍して、刃を紙一重で回避する。
「なっ!?」
「フンッ!」
走った千里はその場で急停止して、そのエネルギーを利用して鞭を繰り出す。素早く放たれた鞭は雀居の腹部に見事命中する。
「ガハッ」
「異常系の異能者に対して、速さで勝負するとは愚かだね」
痛みに悶える雀居に近づいて、その顔面に勢いよく蹴りを入れる。
「ガッ………」
雀居はたまらず吹っ飛び、手に持っていた蛇腹剣を手放す。
仰向けに倒れる雀居に向かって、千里は冷酷に銃口を向ける。
「これでチェックメイトだ」
そう言って見下ろす千里に対して、雀居は口の端を歪ませる。
「ハハハハッ。チェクメイトだって?追い詰められてんのはあんたらでしょ?」
「何?」
「問題だ、異能殺しは誰だ」
「誰ってそれは雀居君だろ。……ッ!?」
自分から口に対して言葉に、思わず驚愕する。
「おいおい、私の名前なんか呼んでどうしたんだよ。ほら、オリジナルがいたんだろ?」
なんでだ。どうしてだ。
こいつは偽物と知覚できているのに、本物であると錯覚を始めている。
「ハハハハハッ。⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎の存在が浮き始めたッ!これで忘却が終われば完璧だッ!」
ダメだ。こいつは殺さないと。
「いいのかよ。今の私は異能殺しだ。私が死ねば、真実は永遠に私のままだ」
「くッ………」
こいつの姿が、オリジナルであろう人物とダブり始めた。このままじゃ、私も異能に呑まれる。
「ハハハハハッ!私たちの勝ちだァ!」
「それを確信するのは速いんじゃないのかな」
「君は」
千里が後ろを振り返ると、肩で息をしていた走が立っていた。
「ハァハァ………誰だか知らないけど、言ちゃんを真似るなんて、奇妙なことしてくるたね」
走は息を切らしながら、されどゆっくりと雀居へと歩みを進める。
「何言ってんの、私が異能殺しよ」
「異能殺しは誰だか知らないけど、あなたは少なからず『歴木言葉』じゃない」
「何ぃ!?」
バリィン!
走の看破と共に、世界にガラスが割れるような音が響き渡る。
「なんで、異能が効いてないの」
「さぁ、私にもわかんない」
冷静に、冷酷に。
生まれてしたこともないような顔で、走は雀居の胸ぐらを掴む。
「な、何よ」
「私はさぁ、怒っているんだよ。言ちゃんと砕ちゃんは何も言ってくれないけど、2人をいじめているのは、あなたたちなんでしょ?」
「わ、私だけじゃない」
「でも、あなたはその1人なんでしょ?」
走は笑いながら、雀居に問いかける。
だが、その実笑ってはいない。
「あなたの馬鹿笑い、私は聞こえてたよ。異能者が優遇なんたらってさ。何、不幸自慢したいわけ?そんなことのためにあの2人を巻き込んだの?」
「無能力者が偉そうに語ってんじゃないわよ!こちらとら異能を発現するほどの絶望を味わってんのよッ!不遇を囲ってたんだから、優遇されるべきなのよッ!
「あなたのその幼稚な理由は至極どうでもいい。不遇を囲っているのなら不遇を押し付けた奴らに復讐すればいいだけで、優遇されるために、無関係な人間を巻き込んでいい言い訳にはならない」
胸ぐらを掴む力は一層に強くなる。
「そして、私はお前が嫌いだ」
「なんなのよ、あんただって幼稚な理由じゃないッ!」
「そう。だからお前と同じ理由で、お前を殺す」
そう言って、走は拳を握って慣れない殴る動作をする。だが、その拳は千里に握られる。
「何するんです」
「ダメだ、君のような子供がこんなクズと同じ立場になっていいはずがない」
千里はそう言って、雀居の額に銃口をぴたりとつける。
「や、やめろ!私はッ!」
「死ね、異能者が」
バンッ。
銃声と共に雀居は事切れ、周囲に残響を残す。
「終わった……か」
息を吐き切り、千里は空を見上げる。
「千里さん?でした…よね」
「いかにも、千里だよ」
「言ちゃんは、今どうしているんですか」
「あぁ、今確認するーー」
携帯を取り出して耳につけようとした所、渋谷の上空を流星が横切る。
「ったく、ヒーローは遅れるにも程があるんじゃないかね」




