5話 レーゾンデートル2
「っと、着いた」
殲滅会から車で10分。
人通りが全く無かったため、とても来やすかった。
「うん?なんだ、あれ」
1人の人間が、2人の頭を掴みながら、ビルの屋上から飛び降りていたのだ。
「異能者2人のはずだよな」
3人は空中で揉み合う。
2人がどうにか掴まれていたのを逃れ、掴んでいた1人を地面へと叩きつけようとする。
「何ぃ!?」
すると、その1人は霧散するように消えた…と思ったら、2人の背後に出現して、銃を構えていた。
「間違いなく、あいつらは異能者だ」
3人を注視しながら、車を急いで走らせる。
そのまま見ていると、1人が銃弾を発射して、2人の脳天を見事撃ち抜き、さらにはそのまま死体の状態で叩きつけられる。
「勝った…のか?いや、負けた……のか?」
どっちが味方でどっちが敵かわからない。
そんな混乱をしていると、勝ちを確信したそいつの後ろに、死体となったはずの2人が出現した。
「事象の書き換え。異質系の人間か」
すると、その場にいたはずの人間が瞬時に透明となって、そのまま消えた。
残ったのは、その空白を見つめる2人だけだった。
「すげぇ戦いだ」
あれほどの戦闘を見て、そんな凡庸な言葉しか言えないのは、もはや特技と言ってもいいだろう。
いけない、こんな自省をしている場合じゃない。
「手を上げろッ!」
その場を後にする2人に対して、椎原は銃を構える。
「さっきのやつと違って、こいつは正真正銘の雑魚だな。俺はパスだぜ」
「身勝手だな、僕がやるのか」
「いいだろ?どうせ姉御の《詐称》によって、異能殺しの存在剥離は進んでんだろ?」
「まぁね。本来君の異能で済むんだけど、僕の異能を通さないといけないなんて、彼の存在感はまるで楔だよ」
俺を無視して会話をしてやがる。
弱者には興味がないってか。
「ここは僕がやろう。君は異能で歴木言葉に攻撃をし続けてくれ」
「あぁ、そうさせてもらう」
教楽来は椎原に一瞥してから、興味なさそうにその場を後にする。
「待たせたね、やろうじゃないか」
見逃すしか無かった。
たった一瞥されただけなのに、気圧された。
「お、お前らはなんだ」
「お前らはなんだ?なんだい、その質問」
雀居は腰に手を運び、空白を握る。
「…ッ!?」
その握った空白から飛び出してきたのは、蛇腹剣だった。
「屈辱だよ。これは異能殺しと接敵した時のために異能で隠しておいたのに、君のような平凡を絵に描いたような人間に見せることになるなんてね」
雀居が軽く振るうと、蛇腹剣は急速に加速していきながら、椎原の銃を握っていた腕を切り飛ばす。
「…っ!?」
痛い。
そう思う頃には、腕から血が飛び出して、焼けるような熱を帯びていた。
大量出血で熱が全身から引いていき、気を失いそうになる。
だが、椎原は唇を噛み切ってそれに耐える。
「叫ばないんだね。そこはちゃんとしているんだね」
「叫びてぇよ!だが、後輩が何百倍も痛い思いしてんだ。こんなんで泣き叫んでたら、笑われちまうぜ」
「ハハッ、いい覚悟だ……ね?」
雀居は話しながら疑問に思っていた。
放ったはずの蛇腹剣の鋒が一向に戻ってくる気配がない。
「ハァハァ……、いい顔だな。強者が弱者を前にして、不思議そうな顔をするのは気分がいいぜ」
椎原は全身から汗を滲ませながら、ニヤリと笑う。
「おまえ、異能者だったのか」
「そうだぜ、俺の異能は《遅延》。俺が触れたものは全て遅くなる。俺の異能は効果が単純な分縛りが緩いからな、後数時間は剣は戻ってこないぜ」
「数時間?数分の間違えじゃないの?あんた、大量出血している死にかけじゃない」
「いいじゃねぇか、数分はここに釘付けになってもらうぜ」
くそ、意識が飛びそうだ。
数分どころか、あと一秒も立ってらんねぇよ。
「ハハッ、死ぬ寸前じゃない」
「クッソ………」
視界に靄がかかる。
意識がもう。
「吠え面…かきやがれ……」
苦し紛れの悪態をついたあと、椎原は後ろに倒れ込む。異能の効果は失い、蛇腹剣は主人の元へと戻る。
「まぁあれだけ出血しといて、よく意識を保った方だよ」
椎原に背を向けて、そのまま歩こうとしたその時、その身を抱き抱える女性がいた。
「まだ生きている。こいつを、椎原を急いで運んでやれ」
「はい!」
その女は人に指示を出したあと、雀居へと無言で銃を放つ。雀居はそれに気づいて、剣で弾きながらそれらを避ける。
「随分と無礼なーーー」
「悪いが、私は異能者と話す趣味はない」
腰から鞭を素早く取り出して、近くの岩を砕く。
「だが、無礼だった。その点は認めよう。私も余裕がなくてね、全く組織の長として恥ずべきことだ」
上着を脱ぎながら、女は名乗りを始める。
「異能殲滅会の長、立花寺千里という」
「殲滅会の長……だって!?」
「あぁ、君たちが対決している組織の長さ。私を殺せば、実質勝ちだ」
千里はニヒルに笑いながら、鞭を勢いよく振り回す。鞭は乱軌道でありながら、千里が狙った対象物を的確に壊す。
「ハハッ!これは戦わない手はないわね」
「そうだろ、君らからしたら極上の餌だろ?」
睨み合いを続ける最中、千里はポツリと呟く。
「すまない、みんな。私が臆病なばかりに」
目を閉じて、繰り出した鞭を手元に戻す。
「さぁ、戦おうじゃないか」




