5話 レーゾンデートル 1
証明しろ、存在を。
忘れるな、私はそこにいる。
「くそ!やられたッ!」
銀鏡の報告を聞き、千里は受話器を叩きつける。
「二人も異能者が出現したとなると、報告に上がっていた敵対組織というやつか」
ここから渋谷は遠くない。
とりあえず、構成員をまとめて銀鏡君のところに送らないと、彼女が死んでしまう。
「くっそ」
所長室を急いで出て、目の前に止まってエレベーターへと乱暴に乗る。緊急用のボタンを押すと、エレベーターは急速に動き、目的地の階まで即座に移動する。急いで廊下を歩き、作戦司令室へと向かう。
「総員、今から作戦行動へと移る。内容は……」
そこで、私の言葉は途切れた。
出そうとした人名がうまく出てこなかった。
「確か………」
いや、殲滅会の構成員の一人で、異能者だったはずだ。おかしい、全員覚えているはずなのに、一文字も出てこないだなんて。
「異能者が出現したんですか!」
一人の構成員の発言により、千里は巡らせた思考を現在に揺り戻す。
「そうだッ!出現したのは……」
話しながら、千里は自身の異能を起動する。
それは、《千里眼》。
わずかな記憶を頼りに渋谷へと視界を移すと、ビルの屋上で戦っている二人がいた。
「渋谷だ。渋谷で二人の異能者が出現している!総員、戦闘配備だ。久々の言葉君がいない戦場となるッ!私も後で行く!君たちだけ死なせたりはしないさ」
長らしい指示をした後、千里はすぐさま踵を返し、言葉へと電話をかける。
「言葉君。まだ異能者とは戦ってないかな?」
頼む。まだ、戦闘はしてないでおくれ。
『ええ、"まだ"ではありますが』
「そうかい。実は、こっちに異能者が2人出現した」
『2人!?』
驚くも無理はない。
異能者は基本群れないはずだ。
「どうやら、相当な手練れのようだ。君には早急に戻ってもらいたいのだが……」
『……なるほど』
なんだ?やけに、タメがあったような。
『目の前のやつ倒してから、すぐにそっちに向かいますよ。何、2時間ぐらいで行きますから』
「……そうか、ならば私たちは2時間持たせるとしよう」
携帯を切って、深呼吸をする。
「2時間か………」
それほどまでの損害は。
どれだけの人が死ぬ。
構成員のほとんどが無能力者だ。
「くそ、彼に依存しているのがこんな形で返ってくるとは」
壁を破って嘆いていると、背後に一人の男の影がさす。
「千里さん、僕が出ますよ」
「椎原君か」
「僕の異能で彼が戻ってくるまでの時間稼ぎぐらいはしますよ」
「できるのかい?」
言葉君に依存していたせいで、椎原君には実践の経験が全くと言っていいほどない。それに、《千里眼》で見ているのに、敵の異能がわからない。
「できるできないじゃなくて、やらなくちゃいけないんですよ。これは清算なんですよ。僕達が彼に押し付けたものの」
「だけど、彼のように不死では……」
「死なないからと言って命を賭けさせていい理由にはなりませんよ。そして、死ぬからと言って、命をかけちゃいけない理由もない」
一言一句、正論だ。
何も反論の余地はない。
だが。
「私は組織の長として、君たちを死なせるわけにはーー」
「何言ってるんですか」
椎原はポケットに手を突っ込みながらくるりと千里に背を向ける。
「まだ死んだわけじゃないのに」
「ま、まて!どこに行く気だ!」
「出撃するんですよ。言ったでしょ、時間稼ぎをしてくるって」
笑いながら歩いていく彼の背を、私は呆然と見るしかなかった。
椎原恒喜。
親からこの名前をもらってから、僕は平凡な人生を送っていた。
いや何、両親を目の前で亡くして異能を発現させたりしたけど、そんな話は割愛させていただく。暗いだけだしね。
歴木言葉。僕は彼を殲滅会の入り立てから知っている。つまり、先輩という訳だ。
彼は千里さんが直接スカウトしてきた大型新人で、訓練や何やらを色々すっ飛ばして実践投入された。
そして、生き残った。
現場にいたわけじゃないが、画面越しに見たその光景は僕は一生忘れないだろう。
敵の血、味方の血、その両方を浴びて血だらけになりながら、その死体の上で黄昏る彼を。
僕は平凡であるため、彼のように語彙が豊富な方ではないが、直感的に思ったことは、それが強さという概念とはまた別種の異様なものだと。
死ぬことを大前提な戦い方をしながら、それでも生き残ってしまう。彼は不死体質と言っていたが、そんなものはこの世で聞いたことのないものだ。
おそらく、異能による作用の影響と思う。
だけど、それが一体なんなのかわからない。
中学以前の話を聞いても、覚えてないの一点張りで聞くことはできなかった。
だが、思う。
どんな地獄を味わえば、それほどの異能を発現することができるのか。
想像を凌駕する遥かな地獄の上で、奇跡のようなバランスで生きているんだろう。
それほど、彼の精神性と異能はあまりにも乖離し過ぎている。
なぜなら。
地獄の中で、英雄的善性を育めるはずもない。
だから、僕は彼に言わなければならない。
「お前は、誰だ」と。




