4話 後章2
「さて、言えよ。お前が選んだゲームで戦ってやるよ」
この空間に引き摺り込まれた時点で、俺の勝てる確率は1%も存在しない。だが、何かしらのルールの穴はあるはずだ。それをつければ、勝てるはずだが……。
「………今考えても仕方ねぇか。じゃあ、ポーカーで」
「ポーカーか、わかりやすくて良いね」
二人の間を割って入るように遊戯台が出現して、そこにはトランプが乱雑に置かれていた。
「シャップルはそれぞれやるとしよう。俺がやってから、あんたがやって良いぜ」
「ご丁寧にどうも」
寒水がやったあと、シャッフルを行う。
どうやら、トランプに何かしらの種があるわけではないようだ。
「イカサマはやりながら確認するしかないか」
「ちなみに、賭け金は名前に倣って、お前の魂だからな」
「良いのかよ、テメェの賭け金は一つしかないんだぜ?」
「それぐらいがちょうどいいハンデだろ?」
絶対勝てるってわけか。
いつ死ぬかわからない以上、俺もそれほど死んでやれねぇが、それまでにわかるか?
「じゃあ、勝負と行こうか」
トランプを中央に置いた瞬間、それぞれの胸元からチップが飛び出し、目の前に置かれる。
「さて、第一勝負だ」
トランプは上から10枚が浮き、それぞれの手元に5枚配られる。言葉の手元に来たのは、5と10のツーペアだった。
「交換の時はそのトランプを台に置けば勝手になるぜ」
「………へいへい」
一枚を台に置くと、すぐさま補充がされた。
「…………」
手元に来たのは5であり、フルハウスが完成した。
そこそこの役だが、おそらく負けるだろうな。
「あ、遅くなったが、交換は2回まで。そして、終わる時はコールでいい」
「………コール」
「僕もコールだ」
二人の宣誓が終わると、手元のトランプが飛び出して、中央に置かれる。
「僕は、3のフォーカード。歴木はフルハウスか。どうやら、はじめは僕の勝ちだ」
「ちっ、白々し……うっ」
なんだ。
甲高いファンファーレがなったと思ったら、魂を引き出されたような感覚があった。
「改めて見ると不思議だね。不死がやると、死ぬんじゃなくて意識の混濁……いや、消失するだけか」
最初でわかるとは思えないが、推測はある。どこにもタネがなかった。と言うか、イカサマが入る余地がなかった。
「領域効果ってところか」
「ご明察。伊達に死線をくぐってないね」
ニヤリと笑いながら、寒水は台に足を乗せながら踏ん反り返る。
「さて、続く2番」
再びトランプが配られ、言葉に来たのはKのフォーカード。
「……ッ!?」
事前に配られるのは不自然なカード。
だが、狙って出せるような役じゃない。
「交換は2回までだ。しねぇのか?」
「あぁ、必要ねぇ」
「そうか、よほどいいものが出たんだな。コールッ!」
「コールだ」
そして、並べられる。
「……っ!?」
言葉は驚かずにはいられなかった。
「ロイヤル…ストレート……フラッシュだと」
「Kのフォーカードか。なかなかだったね」
「クソがッ」
再び訪れる意識の消失。
「ハァハァ………」
体に手を突っ込まれて、直接引き抜かれるような感じだ。
「おいおい2番だぞ?息が切れるのが早くはないか?」
「クッソ……」
どうすればいい。
どうやれば勝てる。
「次、3回目だ」
トランプを受け取るが、言葉にはそれを確認するほどの体力は残っていなかった。
「ハァハァ………」
「うんうん、だいぶ効いているようだな。まぁ、長引かせてそのまま消してもいいけど、僕が決着をつけてあげよう。ベッド」
寒水の無慈悲な宣言が、チップを1枚から1000枚へと一気に増幅させる。
「なっ………!?」
「遊戯なんだから、賭け金は増えるに決まっているだろ。当然僕が親だからね、君にも同じ賭け金を張ってもらうよ」
「何!?」
言葉の側も一枚から1000枚へと増える。
「さて、コールだ」
「ぐっ」
何をやっても勝てないなら。
「………コール」
結果はもちろん寒水の勝利で終わり、言葉は瞬間的に1000回分の死が与えられる。
「ガッ」
言葉の意識は完全に消失し、その場で倒れ伏せる。
「まぁ、1000回も死ねばさしもの異能殺しも死ぬか」
寒水は欠伸をしながら手元でチップを弄ぶ。
すると、ドンと向かいの台から音が立つ。
「おや、早い復活だったな」
台に手をついて、這い出してきたのは、先ほど違った雰囲気を纏う言葉だった。
「『インストール』」
そう言霊を吐き、髪を勢いよくかきあげる。
「チッ、いやな寝覚めだな。俺は死んだつもりだったんだがな」
「おはようと言った方がいいか?」
「黙れ、クソガキ」
頭を抱えながら、椅子に全体重を預けて、台に思いっきり足を乗せる。
「そこのガキ、一回だけ遊んでやる。さっさと始めろ」
「はっ、クソガキって言ったことを後悔させてやるよッ!4回目ぇ!」
トランプを受け取る。
そして、言葉はトランプに目を落としながら呟く。
「チップは1000枚か。随分とさもしいんだな。ベッド!」
チップは倍の2000枚へと増える。
「何ぃ!?なんのつもりだ」
「黙れ。ベッド」
倍の4000枚へ。
「チッ、いちいち言わないと変更できないのかよ。ベッドベッドベッドベッド………」
そのあと、何十回もぶつぶつと言う。
すると、目の前には5000万枚ほどのチップが置かれる。
「こんなもんか?まぁこんなもんか」
「なっ、なんだ」
寒水は驚いた。
先ほどまでと打って変わっていることもそうだが、チップというのはいわゆる死ねる回数だ。相手だけがその対象であるが、歴木言葉はあと5000万回以上は死ねることになる。
「いちいち驚いてんじゃねぇよ。ほら、これが俺の役だ」
投げられたトランプ。
そこには、ロイヤルストレートフラッシュが描かれていた。
「おいおい!こんなのイカサマだろ?」
「あぁ、そうだが?それ、なんの確認だよ」
寒水は目の前で置かれた役に対して、全身から汗を噴き出す。負けるということは、5000万回の死に直結する。
だが、目の前にはワンペア。
領域効果で必ず勝てるということは、目の前のカードはブラフであって、ブタであるはず。
「必ず勝てるようになってんだろ?さっさとコールしろよ」
「ハァハァ………なんだ、なんなんだお前!」
「異能殺し様だ。以上、コールしろ」
「コ……、ココココ…………」
「ハハハ、鶏かよ」
嘲笑しながら、寒水の不様を指摘する。
「ハァハァ………コォ………」
寒水は窮地の経験が少なかった。
勝ちの盤面から圧倒的な負けの盤面にひっくり返されたこと、そして相手をはめるための逃げ場のない殺人が自分に迫ることを。
「あぁぁぁぁ」
寒水のそのうめき声と共に、周囲の領域が瓦解を始める。
「ストレスで死んだか。結構呆気なかったな」
ポケットに手を突っ込みながら、青空に向かって欠伸をする。
「さて、『英雄』。お前の役割は終わってねぇぞ。くたばってるんじゃねぇよ」
そう言い終わると共に倒れ伏す。
数秒後、言葉は瞬時に立ち上がる。
「ハッ!あれ、俺、生きてる?」
周囲を瞬時に見渡すと、そこは宗谷岬だった。
「あれ、終わった……のか?いや、そんなこと気にしている場合じゃねぇ。『吹っ飛べッ!』」
言葉は瞬時に踵を返し、自分に言霊を叩きつけて空を飛ぶ。
「待ってろよ、みんなッ!」




