4話 前章2
私は今日もいつも通り登校する。
いつもの通学路に進み、いつものメンバーと共に。
「砕ちゃん、おはようっ!」
「おはよう、走。今日も元気ね」
走の誘拐から数日経過した現在。
私は、走に会うたびに少しばかり緊張する。
言葉には事前に聞いているが、走は忘れさせた異能の記憶を完全に取り戻しており、私たちが殺し合っていた出来事も思い出していると。
言葉は「恐らくは…」などと濁してはいたが。
「おはよう、修多羅」
「あ、言ちゃん!おはよう!」
割って入るように来たのは、もちろん言葉だ。
男装の麗人とでもいうのだろうか、女子でありながら男のような格好している。制服もスカートではなく、ズボンを履いている。
「おはよう、言葉」
少しの違和感を感じる。
私は、言葉とこうやって通学路を歩いたことがあるのだろうか。
いや、そもそも学校に毎日来ていた人間だったのだろうか。
「修多羅、俺の顔に何かついているか?」
「いや、相変わらず綺麗ね。女の私でも嫉妬するほどよ」
「そんなことないよ。修多羅も綺麗だよ」
「心にもない事を」
「本心だよ」
こうしてくだらない会話をしつつ、私たちは今日も学校に登校する。言葉は窓際に座り、私はその隣へと座り、走は言葉の前に座る。
「今日もいい青空だね」
爽やかな笑顔で窓の外を見ながら、短い髪を風に揺らす。気持ちよさそうに風を浴びるその姿に、クラスメイトは釘付けとなる。教室の外にも群がるようにずらりと女子は並び、その光景に男子は静かに嫉妬する。
「きゃー!言葉さん!」
黄色い歓声に微笑みながら手を振る。
応えられた女子たちはあまりの興奮に鼻血を吹き出し、バタバタと急いで廊下へと走っていった。
「人気者ね、言葉」
「そんなことないよ。普通に過ごしているだけさ」
「普通に……ね」
まるで、芸能人が普通の学校に転校してきた初日のような、そんなお祭り騒ぎだ。
「修多羅も俺に夢中になってくれていいんだよ?」
言葉は修多羅の顎を指でなぞりながら少しだけ持ち上げる。
「嫌よ。私はあなたよりも、読書をするのに忙しいんだから」
バックから本を取り出して、飛び出た栞から本を読み始める。本の名前は『英雄の原罪』。
英雄の証明の次作。英雄シリーズの二作目に当たるものだ。150周読んでも面白さがわからなかったため、とりあえずそれは棚上げして、シリーズを読破することにした。
「修多羅はずっとおんなじ本を読むだけだと思ったけど、そうじゃないんだね」
「半年以上読んでいたからね、流石に飽きたのよ」
言葉の声にも耳も貸さずに、修多羅は本の文字列を目で追い続ける。
それに面白くないと感じた言葉は、修多羅の肩を叩こうとする。
キーンコーンカーンコーン。
「ふわぁーあ」
ホームルームのチャイムが鳴り、白水が大欠伸をしながら教室へと入る。
「はーい、ホームル………ムするぞ」
なんだろう。
白水先生が言葉の方を見て少し固まったような。
「全員座れよー」
白水先生の気だるげな声にクラスメイトは応え、おとなしく全員が席へと座る。
「あい、今日は三点ほどお知らせがある。まずは………」
こうして、今日も学校が始まる。
いつも通り騒がしい?朝が来て、いつも通り本を読んで、いつも通り先生のだるそうな声を聞く。
だが、そんな日常にも違う所があった。
「修多羅ー、闇無ー、職員室にくるよーに」
「…!?」
私は急に名指しされたことに反応できず、驚いているだけだったが。
「はい」
走はすぐに答えた。
「修多羅ー、わかったなー?」
「はい」
「じゃあ、おわりー。委員長ー」
「きりーつ、れーい、ちゃくせーき」
委員長の号令が終わった後、すぐさま白水は教室から出る。私と走に来いとハンドサインをしながら。
「行こ、砕ちゃん」
「うん」
言葉の方向を見ると、視線に気付いたのか、にこやかな笑顔で手を振られた。
2人で廊下へと出る。言葉を一目見ようと集まった女生徒を力づくで退かせながら進む。
廊下をしばらく歩き、階段を1階分降りると、走が口を開いた。
「ねぇ、砕ちゃん」
「………うん」
緊張感のあまり、ドックンドックンと心臓が脈を打つ。まるで、今から事件の犯人だと指摘されるような。
「言ちゃんって、歴木言葉って…………、⬛︎⬛︎じゃなかった?」
「え?」
走が話したことが、なぜかノイズが入ったように聞こえた。
「だから、⬛︎⬛︎じゃなかった?」
「…………?」
走はその後何度も同じことを言ってくれたようだが、私の耳は何を言っているかわからなかった。
「………わかった。気にしないで」
「………ええ」
私は異能が話題に上がらず、胸を撫で下ろした。
「私が………」
走はぶつぶつと言いながら足早に歩く。
その後ろを修多羅はなぞるように歩く。
どこか気まずい状況になっていたが、気づけば職員室の前へと着いていた。
「失礼します」
走がコンコンと2回ノックしてから、2人で職員室へと入る。
「おーい、こっちだぞ」
白水先生が連なる机の列の奥から手を振り、私たちはその近くへと机の合間を縫いながら歩き、白水先生に促された椅子へと座る。
「はい、呼び出された理由がわかる人ッ!」
白水先生は勢いよく手を上げて、私たちの反応を見る。だが、知らないテンションの高さについていけず、私たちは即座に反応ができなかった。
「まぁわからねぇよなぁ。お前らにプリントを運んでもらおうと依頼したくってさ」
白水は山盛りのプリントを2人分に分けるが、修多羅には山を手渡し、走には山の一枚目を渡す。
「あ、はい」
受け取ったプリントを見ると、そこにはクラスの生徒一覧がずらりと並んでいた。
生徒一人一人ずつに項目があり、そこには○×が書かれていた。どうやら、このプリントの山の中から、生徒に何を配るかを書いているようだ。
「これは………」
「夏休みの宿題の出来をもとにした、復習のための課題リストだ」
「課題……リスト………」
私の項目を確認すると、横にはずらりと×が並んでいた。
「私のはないようですが」
「あぁ、お前はない。だが………」
「だが?」
横を見ると、そこには顔を歪ませた走がいた。
走の項目を見ると、横にはずらりと○が書かれていた。つまり、フルで課題が課されているわけだ。
「修多羅、お前は先に行け。俺は不出来なこの陸上おバカに用がある」
「あ、はい」
走と目が合うと、彼女は目配せをする。
「後でね、砕ちゃん」
「ええ」
プリントの山を抱えながら、そのまま職員室を後にする。
「……………」
違和感。違和感。
この三文字が朝からずっと頭をよぎる。
だが、明白な理由もなく、日常との明確な差異がない。ように感じる。
だが、磨き上げた武道家としての勘が違和感を感じさせる。
「おいおい、おいおいおいおい、おいおいおいおいおい。雀居の姉貴よぉ、あんたの《詐称》は完璧なんじゃねぇのかぁ?」
教室へと向かう廊下に歩みを進める。すると、角のすぐそばで壁に背を預ける男子生徒がいた。
「誰よ、あんた」
「おいおいおい、人様に名前を聞くのは自分から名乗ることが常識ってやつじゃあないのかねぇ。いやいや、人間でもない奴に、異能者に、常識云々を問う方がおかしいのか」
ケッケッといやらしい笑い方をしながら、その男は片手で自分の顔を覆う。
「あと2時間ってところか。時間稼ぎはしなきゃなんねぇからなぁ、不安材料は消しとくべきか」
なんだこいつ。
一体なんの話をしているんだ。
「何かわからないって話のようだなぁ?まぁいい、それでいい、それがいい。でも、それ以上理解されるとこっちが困る。だから、死んでくれ」




