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1話 前章 2

「ふぅ…、やっと終わった」

夜10時。俺は人殺しをした。

と言っても、依頼があった異能者をだ。

いや、人殺しをした事実は変わりはなく、大義名分があるからとそれを言い訳に使うつもりはない。

「死んだら地獄行きだな、俺」

出血に、返り血。

いろんな意味で血まみれだ。

「『治れ』」

俺の異能は《言霊》。

こうやって放った言葉の事象を現実に叶えられるもの。汎用性が実に高く便利だが、その分だけかなり制約はある。

まぁその実に便利な異能の甲斐あって、こうやって異能者の殺し屋をやっているわけだが。

「先輩。いつまでぼーっとしているんですか?」

「あ、あぁ銀鏡(しろみ)か。何でもねぇよ」

声の主は銀鏡鈴鹿だった。

異能者の殺し屋まがいでの相棒であり、希少な異能者の一人だ。

「またまた、そんな無愛想じゃこの可愛い後輩を惚れさせることができませんよ?」

「何でお前を惚れさせなきゃいけねぇんだよ」

『人に優しく、自分にも優しく。言葉はあまりにも自分にも厳しいから』

そうやって母さんに育てられたが、こうやって人を殺した後は心がささくれる。後、目の前の自称後輩がイライラするような人間でもあるのも原因だろう。

「はぁ、俺一人だけでもいいと思うけどな」

「なぁに言ってくれちゃってるんですか。僕の《誘導》によって、周囲の人たちがここにこないようにしているんですから」

「そうだったな」

「そうじゃないと先輩は今頃有名人ですよ。ただでさえ、『異能殺し』なんて二つ名をつけられているんですから」

誰が言ったか、俺はそんな大層なもので呼ばれているらしい。まぁほぼ毎日と異能者殺しをしているんだから、当然と言っちゃ当然か。

「銀鏡、後は任せていいか。俺は火燐さんに報告に行かなきゃなんねぇからさ」

「いいですよ。と言っても、死体処理はそもそも私の仕事ですし」

「そうか。じゃあ、頼んだ」

「気をつけてくださいねー」

殲滅会まで徒歩で2時間以上もするため、流石に馬鹿正直に徒歩で向かうわけにも行かず、貰い物のバイクで向かう予定だ。

そのバイクはもちろん駐車場にあるのだが、、、。

「はぁ、銀鏡は帰ったらぶん殴りだな」

10、いや12人ほどいる。

夜道でこれほどの人間に待ち受けられるなど、有名人になったと誇るべきか、それとも指名手配犯のようになったと顔をしかめるべきだろうか。まぁ、どっちだろうとやるべきことは変わらない。

「忠告しとくぞ、隠れていようと俺の異能は関係ない。茂みでひっそりと死ぬのはいいが、自分の尊厳を地に落としたくないのならかかってくるんだな」

わかるわけないと高をくくっているのか、それともそんなわけないと言う自信か。どちらでもいいが、さっさと済ませるほかない。

この手合いは、蹂躙すれば嫌でもわかるだろう。

「出てこないならいい。茶番につきあってやる気にもならないし、一人一人殺す」

胸元のポケットから銃を取り出し、近くの茂みへと銃口を向ける。

「『死ね』」

呪いと言霊と共に、銃弾は放たれる。

その銃弾は茂みに命中しただけで、暗殺者には一切の命中がない。、、、そんなわけがなかった。

「ぐわぁ!」

茂みの奥からたまらず暗殺者が飛び出る。

その体には無数の銃痕があるが、貫いた弾丸は放たれた勢いそのまま飛び出た暗殺者へと襲う。

「終わったな」

弾丸が唸る。眉間を貫く。沈黙。

これで死体は出来上がる。何度も見た光景だ。

「はぁ」

そして、ため息。

殺すたびにやるテンプレのようなもの。

「さて。撤退を薦めるが、死体を積み重ねたいならかかってこい。10秒、10秒やるよ」

撤退を薦める…か。

自分をあくまでも平和主義者と認識したいと言い訳に使うための前置き。撤退をさせたとしても、人数を増やしてくるから、そんな選択肢は最初からさせるつもりなんてないのに。

「10…9…8」

カウントダウンを始めるとともに、前と後ろの茂みから黒衣の男たちが現れ、手元の刃物を急所へと的確に投げる。

「軌道が馬鹿正直だな。暗殺者として正解だが、殺し屋としては失格だな」

視線を向けることもなく、刃物を素手で止める。だが、暗殺者は関係ないとばかりに右へ左へと体の軌道を変えながら言葉へと向かう。

「いい動きだ、俺じゃなきゃ殺せただろうな。『止まれ』」

暗殺者の刃が言葉の首元へと迫る瞬間、放った言霊でがっちり止められる。

「せっかくのプレゼントだが、刃物は俺には必要なくてね。返しておくよ」

止まった暗殺者の首元へと刃物を差し込む。止まった二人には出血はなくただ静かに命が散っていった。

「…なーー」

カウントダウンを始めようとした時、何かが視界の端を掠める。

「カウントダウンの必要はないぜ。部下は全員撤退させたからな」

駐車場の中央。つまり、何もないところから上着を翻しながら黒衣の男が笑顔を浮かべながら出現した。

「異能者か」

「びっくりしないんだな」

「この盤面で出てこない方が驚くけどな」

右手に刃、左手に銃か。

状況に合わせてスタイルを変えられる人間か。

「死にたいのか」

「まさか。ある程度勝てる自信があって、ここにいるんだよ」

「お前もこの世界の住人だ。2度も忠告しない」

「ハハッ、異能殺し様もお優しいことだな。そんなに冷酷に殺せるのに、いや"冷酷なふり"をして殺せるのに、殺しは嫌か」

「できるだけって話だ。だが、俺もお前もそれができないと嘆く立場にないからな」

「そりゃそうだな」

軽口を言い合う最中、二人は互いの死を願い合いながら殺気を放ち合う。かつてない緊張感に、風すらも息を呑む。

「殺す前に聞こう。暗殺者、名前を教えてくれ」

「いいぜ、冥土の土産に教えてやるよ。俺の名前は鹿喰(かじき)だ」

「鹿喰…か。覚えておくよ」

「ハハッ、もう勝つつもりか笑えるな」

「少なくとも負けたことはないからな」

「「ハハハハハハハハ」」

笑う。咲う。嗤う。

互いの傲慢さ。運命の愚かしさに。

「死ね!」

男は容赦なく銃弾を放つ。

だがーー。

「つまらない手だな!『止まれッ!』」

銃弾は止まる。

それがわかっていたかのように、瞬時に言葉の懐へと鹿喰は入っていた。

「これでチェックメイトだ!」

「ッ!」

言霊使いにとって話す余裕というのは1番大事なもので、それを奪われてしまっては異能を発動できない。しかし、ただの刃物であれば腕で止められると言葉は高をくくっていた。

だが、鹿喰の繰り出した刃は言葉の腕をすり抜け、骨をすり抜け、心臓だけを貫通する。

「ガフッ」

たまらず血を吐き、言葉は力なくその場で倒れる。

「俺の異能は《透過》。こうやって心臓を直で刺すことができるからな、懐に入った時点で俺の勝ちだったんだよ」

鹿喰は勝ち誇る。

如何に異能者とあれど、人であることは変えられないため、心臓を突き刺せば死ぬ。

そうやって今日を生き残れる。

しかし、それは前提が人であればの話で、普通の異能者であればと言うのが重要だ。

「異能者の悪い所…だな。そうやって自分の勝ちを確信すると、自分の異能の解説をし始める」

死体になったはずの言葉がゆらりと立ち上がる。

「は?はぁ?はぁぁぁぁあ!?」

流れ出たはずの血は跡形もなく消えており、貫通したはずの心臓は元に戻っていた。

「随分と愉快な顔をしてくれるじゃないか」

「お、おま、お前死んだんじゃないのかよ!おかしいだろ!何で生きてんだよ!」

「見ての通り生き返ったんだよ。俺は不死のようなものがあってね、かれこれ千回以上は生き返っている」

「な、何だよそれ。お前!一体何なんだよ!」

「ただの異能者だ。『死ね』」

動揺する鹿喰をよそに、冷酷に銃口を向け、銃弾を放つ。

「くっ!だが無駄だ!」

異能で銃弾を透過し、死の呪いから何とかすり抜ける。

「ハハッ、残念だったな。俺は死んでない」

「おいおい、解いていいのかよ。部下の死に様を見てなかったのか?俺の銃弾はお前を殺すまで止まらないぞ」

「何をーー」

それ以上鹿喰は言葉を紡げなかった。

避けたはずの銃弾が鹿喰の後頭部へと侵入し、眉間の間を貫いたからだ。

少量の返り血が言葉の顔へと飛び散る。

お前が殺したんだと裏付けるように。

「銀鏡、いるんだろ」

見つかっていることを想定してなかったのか、驚いたように茂みからガサガサと音が出る。

「い、いやぁ僕は悪くありませんよ。ちゃんと異能を使ってましたし」

「ほう、じゃこの死体の数はどう説明するんだよ」

「僕はしーーあいた!先輩!デコピンはやめてくださいよ!」

「とりあえず死体処理は頼んだぞ。向かってる道中でまた同じことあったら今度はデコピンで済まさないからな」

「いや、それは僕の異能の範囲がーーはいやります」

「頼んだぞ」

余分な戦闘を終えて、やっとの思いでバイクへと飛び乗る。

「日常茶飯事だがな」

辟易しながら、バイクのハンドルを握り、その場を後にする。

現在夜の11時。今日も俺の夜は終われない。

これでわかるだろう。

こんな仕事をし続ける限り、俺は不良を続けなければならない。

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