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3話 中章1

走!俺のせいで!

「し…か……さい!」

くそ!佐夜鹿!あいつ!

「しっ………なさい」

殺す。よくも俺の友達を。

殺す殺す殺す殺す。

「しっかりしなさい!」

バチン。

俺を現実に引き戻したのは、ビンタの音と張られた頬の痛みだった。

「修多羅?」

「しっかりしなさい!」

「なんで、ここに」

「そんなことは今はいいでしょ!」

気づけば、首だけで転がった位置から血の道ができていた。体は上半身だけ再生しているため、おそらくは這ってでも進もうとしたのだろう。

「そうだ、走が誘拐を」

「知っている、見ていたから」

「見ていた?なんでだ」

「さっき私があなたを目撃してしまったから、走と一緒に来てしまったのよ」

「そうか」

異能者には銀鏡の異能が効かない。

走は修多羅を追いかけてきたというわけか。

そして、この有様か。

「修多羅、お前は逃げてろ。俺はやつを」

「冷静になりなさいよ!あんた、その体でどうやって行くのよ!」

「そうだった、治さないとな。『治れ』」

言霊の多重発動に、戦闘のダメージ。

蓄積された事実に異能は嘘をつくことはなく、言霊での治癒は緩やかなスピードで再生を促す。

「はぁはぁ、待ってろ。すぐに」

「息切れしてるじゃない。そんな状態で助けられるわけないでしょ!」

「そんな悠長なこと言ってる場合じゃねぇんだよ!あいつが殺されるかもしれねぇんだろうが!」

「だからって、私に喚いても変わらないでしょ!」

遅い。再生が遅い。

もう足まで終わって飛び立っていい頃なのに、腰辺りまでしか再生ができてない。

「先輩!だいじょうーーって、修多羅砕破!?」

「先輩?言葉、誰よこの女」

「僕の大切な後輩です。って、ほらはやく紹介してくださいよ」

「なんの後輩なのよ」

「うーん、部活?」

「テキトーに嘘つくんじゃない。こいつ、帰宅部よ」

「帰宅部に入ってるじゃないですか」

「揚げ足を」

「あー、もううるさい。少し静かにしてくれ」

再生が終わり、ふらつきながらも立ち上がる。

立ちくらみで視界は僅かにぼやけ、血が出過ぎたのか血の気が引くような感覚がある。

「それでも、行かないと」

だが踏み出した足は空を切り、無様に体勢が崩れる。

「っと、だから無理だって言ってるじゃない」

「先輩、無理っす」

女子二人に両側から肩を貸される。

この状況であれば、誰でも意地を張るのをやめるだろう。

「延永先生のところに行きましょう。明らかに血が足りてませんよ」

「血だと?言霊で治している筈だが」

「異能は精神力。先輩が言った言葉ですよ。つまり、先輩の精神も悲鳴をあげているんですよ」

「んで、その延永とやらはどこにいるのよ」

「そういう時はタクシー呼び出すんですよ。ヘイ!タクシー!」

「それで来たら苦労はない。って、本当に来た」

止まったのは黒塗りの中型車であり、ドアには翼の絵が描かれていた。ボンネットには金敷と金槌の大きなシールが貼られていた。

「呼び出しどうも。って、両手に花だね言葉君」

「さっきぶりですね、葬さん」

「色々ありそうだね。まぁ乗りなよ」

促されるまま二人を後部座席に座らせ、俺は助手席へと座る。

「うん、それじゃあお客さん。目的地はどこだい?」

「銀鏡、頼んだ」

「はいはい、ここです」

銀鏡はポケットから紙を取り出し、葬さんに手渡す。葬さんは一通り紙に目を通して頷く。

「おっけ、ここだね。じゃあ、行くよ」

軽快にサイドブレーキをおろし、ギアをドライブへと入れて、素早くアクセルを踏む。

「言葉君、相変わらず頑張っているんだね」

「ええ、まぁ」

未だに体の完全な治癒は間に合っていない。現に、右足がまだ形をなしておらず、現在進行形で肉塊から指へと変わろうとしている。

「驚かないんですね」

「驚かないよ。僕もタクシー運転手の端くれだからね、こうやって何度も街中を駆け巡っていれば、君が戦っている所なんて何度も目にしてるよ」

何度も目にしているか。

銃を寧々さんに依頼をしているんだ。渡した人間がどんなことをするか気になるか。

「言葉君。黙っている僕が言うのもなんだけど、あまり二人を悲しませることはやっちゃダメだよ」

「無理ですよ。あの人たちは俺が何やっても心配しますから」

「誰のことがわからないけど、心配するのは言葉が自分を削るような真似してるからじゃない」

「自己犠牲は美しいと思いますけど、あまり良くないと思いますよ」

自己犠牲ね。

そんな美しい行為ではないと言うのに。

自己犠牲というのは、救う理由の持った人間が自分の信念を折り曲げてもやる行為。

俺がやっているのは救う理由もなければ、折り曲げるほどの信念もない。

「俺のは所詮自己満足だよ」

「いいじゃない自己満足。それで救われた人間が、少なからずここにいるんだから」

「私もっすよ、先輩」

そうこうしてるうちにタクシーはオフィス街へと入り、その中でも一際大きいビルの前へと止まる。

「場所はここだったよね」

「はい、ありがとうございます。料金はいくらですか?」

「いいよ、言葉君の知り合いからなんて貰えないよ」

「ちょっと、葬さん」

「いいんだ。僕も星華ちゃんも君からお金は受け取らないと決めているんだ」

「決めてるって確かにあの二人は受け取ってくれないですけど」

「君のお母さんには世話になったからね。本人にはできなかったけど、息子の君に少しでも返せたらってね」

「……わかりましたよ」

このままタクシーの外に出る。その頃には体の完全に修復し終えていたが、いまだに視界はぐらつく。

「私が肩を貸すわ。後輩さん」

「銀鏡です」

「銀鏡さん、道案内お願いするわ」

「って、修多羅さんも来るんですか」

「ここまで来たら行くわよ。文句はないわね、言葉」

「……いや、あるけど」

「よしないわね。行くわよ」

「あ、ちょ、道案内は私ですよ」

ビルの中へと進むと、案の定警備員がいるが、銀鏡が説明するとあっさり入ることができた。

「間違いじゃなければさ、ここって世界的有名企業の所有のビルだよな」

「そうですよ」

「なんでここに来たんだ」

「殲滅会への入り口があるからです」

「いや、なんでだよ」

「不知火さんという社長令嬢の方がどこからか先輩の行動を目撃したらしく、それに酷く感銘を受けて出資したそうです」

不知火?なんか、どこかで聞いたような。

「一般市民の私には縁遠い話ね」

「何言ってるんすか。異能者で先輩の関係者なら、いずれ知り得る事実ですよ」

待ち続けたエレベーターへと乗り込み、閉まるボタンと一階のボタンを銀鏡は数秒長押しする。エレベーターは数秒の沈黙の後、認識が終わったのか急いで扉が閉まり、一階からさらに下、地下へと降りて行く。

「地下か。いよいよ秘密組織っぽくあるわね」

「こんなことで驚いてちゃキリないっすよ」

エレベーターはチンと甲高い音を立てながら、扉をゆっくりと開く。

「やっと来たか、間抜け」

「準備がいいな、延永」

「ちっ、銀鏡そいつを医療室へと放り込むぞ。そして、嬢ちゃん」

「私?」

「あんた以外誰がいるんだよ。後ろを振り向いてくれ」

「は?」

修多羅が振り返ると、そこに千里がタバコを吸いながら立っていた。

「やっ、修多羅さん」

「だ、誰」

「ここの長さ。さて、所長室へと行こうじゃないか」

「え、ちょっと!」

有無を言わさず千里は修多羅の手を引き、所長室がある方へと進んだ。


私は何をしているんだろうか。

言葉が心配で無理やりついてきたが、まさか秘密組織の一番上の人に会うなんて。

「コーヒー、ブラックでもいいかな」

「大丈夫です」

カップに9割ほど入れられたコーヒーを私の目の前に置き、ニヤリと千里さんとやらが笑う。

「修多羅さん、まずフェアじゃないから言っておく」

「なんですか」

「私は君の敵だ」

「敵?どういう意味ですか」

「意味、意味か。それで言うなら、君は言葉君の温情で生きていて、私はその状況をあまり認められないという意味かな」

言葉の温情?認められない?

「それは、私の異能と関係あるんですか」

「あるよ。というか、それしか関係がない。君が異能に目覚めてしまった以上、異能者という化物として扱わなきゃいけない」

化物……か。

随分と懐かしい響きだ。

「それで、異能者だから生かすわけにはいかないと」

「そうだね。私たちは『異能殲滅会』。異能者を一人残らず殺すための組織だからね」

「……成程。そして、言葉は戦闘員として戦っている以上、例外という扱いになっているわけね」

「……まぁ、間違ってないね」

つまりは、戦闘員じゃなくなれば言葉を異能者として排除するという意味もあるか。

「腐った組織ね」

「率直な意見だね」

「そちらが敵だと言ったのよ。なんなら、今すぐ地図から消しましょうか?」

「やれるのかい?異能もなしで」

「勘だけど、あなたは無理でも他の人間なら殺せると思うわ」

「あはは、冷静な戦力分析恐れいるよ。でも、私がいる限り何度でも組織は作れるよ」

これ以上は平行線……か。

やる意味がない。

「それで、本題は?」

「本題?」

「わざわざ私に脅しをかけることと、言葉の立場を危ういと言って怒らせるために呼び出したわけじゃないでしょ?」

「なんと、見透かされていたか」

千里はコーヒーを少し飲んでカップを皿の上に置き、手を膝の上に乗せて、頭を下げる。

「どうか、力を貸して欲しい」

「なっ」

「言葉君を助けて欲しいんだ」

組織の長として、部外者を巻き込むのは最低の手段。最低な手段を取るためには、その人物にそれ相応の誠意が必要だと思っていた。

だが、修多羅の受け取り方は違った。

「なんで、なんで友達を助ける事をあんたからお願いされないといけないのよ!助けるに決まってるでしょ!」

「決まって……はないだろう。命をかけなきゃいけなーー」

「賭けるに決まってるでしょ!私は二人に命を救われたんだから」

「そうか、わかったよ」

そう啖呵を切ったものの、どうすればいいか全くわからない。いや、正確にはわかるけどそれは手段足り得るのか。

「まぁ憂慮するよね。異能の制御をやらないといけないんだから」

「それも、言葉の準備が終わる前迄にね」

「まぁやろうと思えばできるよ。君は異能をほぼ掌握できているからね」

「え?」

私は言葉の言いつけ通り、あの日から一度も異能を使ってはいない。故に、異能を制御できる道理などないはずだ。

「君が発現した『修羅』は異形系の能力だ。異形系に目覚める人間は、人でなくなりたいという願望からくる」

「それと制御と何か関係するの?」

「異形系の制御は、人であることを諦めないようにすることさ。君はすでに人の繋がりを求め、それを維持している。だから、条件は整っているんだよ」

存在ではなく、在り方というわけね。

異なるようで、同じような。

だが、異能のことはなんとなくわかった。

「それで、どうすればいいのよ」

「あとは出力調整さ。無論、私が手伝うよ」

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