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3話 前章2

喫茶店を後にして、駐車場に止めてあったバイクへと飛び乗る。

「はぁ、気が重いが行くか」

これでどこかにサボろうものなら、めんどくさいことに発展しかねない。学校なら白水先生に文句を言われるだろうし、喫茶店なら闘華さんから嘘を看破されて、星華さんから嘘を重ねたこと行かなかったことで雷が落ちることになるだろう。

「それは、流石に嫌だよなぁ」

ため息を吐きながら、バイクを発進させる。

「ん?」

なぜかずしりと重さを感じる。

疑問に思いながら振り返ると。

「やっ、先輩」

「何してんだよ、後輩」

「いやぁー、先輩を見つけたもんで」

見つけたからと言って、走っているバイクの後部座席にピンポイントで座れるのか。

「先輩、仕事っす」

「仕事?」

「仕事っす」

「いつから」

「今から?」

「はぁ?」

間抜けな声を上げていると、近くの建物をぶち破りながら、一人の女が姿を現す。

「あらぁ、こんなところで奇遇やねぇ。異能殺し」

その女は、佐夜鹿だった。

「おいおい、勘弁してくれよ」

辟易しながらも、エンジンを吹かして速度を一気に上げる。

「説明」

「はい、この前先輩がポカしたことで、殲滅会の存在が敵にバレました」

「それで!」

「そして、先輩と行動を共にしている非攻撃型の異能者である私に目をつけたそうです」

「つまり、あいつは」

「まぁわかりやすい刺客ですね」

「悠長に語ってんじゃねぇよ!」

一刻も早く逃げないと。

運転している以上両手が塞がっているし、明らかに不利だ。それに、おそらくあいつの異能は。

「『加速』や。それが推測できてたから逃げてんやろ?」

「なっ」

佐夜鹿はすでにバイクの横へと移動を完了しており、攻撃態勢へと移行していた。

「加速に耐えとる足や。ちと痛いで!」

佐夜鹿の足は見事バイクに命中して、その勢いでバイクは衝撃に耐えられず空中で分解する。

「チッ、貰い物なんだぞ」

後で別の説教が増えそうだ。

「『止まれ』」

散らばるバイク、二回目の強襲をやろうとする佐夜鹿、吹き飛ぶ銀鏡。

視界に映る全てを1秒だけ停止させ、運動エネルギーをゼロにする。

「大雑把な能力の割にテクニシャンやね」

「めんどくさいことさせてくれる」

「先輩ありがーー」

「後にしろ、お前は逃げろ」

「は、はい」

銀鏡は誘導を発動し、人々をこの場から引き剥がしながら走って逃げる。

「遅いなぁ、あれぐらいならすぐ追いつきそやけど」

「やらせると思うか?」

「まぁ、無理やろなぁ」

異常系の異能者だな。

段階的な話ではあるが、能力を発動すればするほど元の肉体は人間離れしていくため、強化幅は実質青天井。

「それに敵の刺客……か。普通の異能者じゃなさそうだな」

「あら、二回目なのに異能殺しからそないな評価をもらえるんや。嬉しい限りやね」

その言葉とは裏腹に、佐夜鹿はクラウチングスタートの姿勢をとる。

「来るかッ!」

「一速」

気づけば、俺の視界には吐血する血が映っていた。目を下に移すと、そこには鳩尾にドロップキックする佐夜鹿がいた。

「ガハッ」

「遅いなぁ!反応が!」

佐夜鹿は瞬時に着地を終え、回し蹴りで言葉の顔面を蹴り飛ばす。言葉は一切の抵抗もできずに、幾つもの建物を貫通しながら吹き飛ぶ。

「『治れ』」

断裂したあちこちを言霊で直しながら、すぐに立ち上がる。

「『吹っ飛べ』」

通ってきた穴を通り抜け、急いで元の場所に戻ろうとする。

「速く戻らねぇと」

「じゃないと、後輩ちゃんが狙われる…やんな」

「なっ!?」

「わかりやすくて助かるで。ほれ、耐えてみせぇ!」

上から降ってくる佐夜鹿に対応できず、なすすべもなく地面へと叩きつけられる。勢いで体は見事爆散し、残るは首だけとなる。

「よっと」

サッカーボールのように器用に足を使って言葉の首でリフティングを始める。

「あんたがこのぐらいじゃ死なんことはわかっている。はよ治しぃや」

ポーンポーンと的確に傷口だけを蹴りながら、軌道を山なりにしながら蹴り上げる。

「お前ら、何が、目的、なんだよ」

「追い詰められとんのに目的を探るんや」

「命の危機ってほどでもないからな」

「ぶっ壊れてんなぁ。いいで、それに少し応えたろうやないか」

言葉の首を両手で鷲掴みにして、目を見開きながら佐夜鹿は応える。

「復讐や。この世界は私らを蹂躙して異能者に目覚めさせたくせに、平穏というのを享受してる。私らはそれが許せん。なのに」

佐夜鹿は言葉に向かって頭突きをしてぐりぐりと頭をひねる。

「異能殺し、あんたが防波堤となっとる。異能者になっているあんたが、非能力者の盾となっとる。だから、まずはあんたを殺そうとしているわけや」

目の奥に黒い炎が見えるようだ。

「そうか、そうだったのか」

「答えい!異能殺しぃ!なんであんたはあいつらの味方をする!」

言葉はその問答に一切臆することなく言葉を紡ぐ。

「人を救うことに理由なんていらないんだよ」

「……は?」

それを聞いた佐夜鹿はポトリと足元に言葉を落とし、空を仰ぐ。

「あはは!あははは!あはははは!傑作!これは傑作や!私らの命が!血の滲むような努力が!そんなくだらないことで潰されているとは」

ゲラゲラと佐夜鹿は嗤う。

ひとしきり笑った後、佐夜鹿の顔には笑みが消えて、殺し屋の顔へと戻った。

「理由なんていらんか。まぁ理由としてはアリか」

そう言いながら、再び言葉を拾い上げる。

「だけどなぁ、それは偽善者の世迷言や。あんたがやってんのはただの自慰行為や!人を救いたいだけなら、大人しくゲームの世界でも救っとけや!」

怒りのままにサッカーのように蹴り上げ、再び吹き飛ばす。

「くだらない…か。だが、それでいい。『治れ』」

吹き飛びながら全身を生やし、体勢を整えてビルに着地をする。

「二速!」

「『肉体強化!』重ねて、『思考加速』」

ゾーン。

人間に備わっている超集中状態。それを言霊によって意図的に引き出すことによって、迫り来る蹴りを避ける。

「何ぃ!?」

「お前らの苦悩はわかる。とは言えないが、異能に目覚めた時点でそれ相応の絶望を味わったんだろう。だがな!それらは人を殺していい免罪符にはなんねぇんだよ。『吹っ飛べッ!』」

叩きつけた言霊で佐夜鹿は吹き飛び、高速道路を貫通しながら近くの車道へと激突する。

「や、やるやんか。これが異能殺しかいな」

「不満があるんだろ?なら、かかってこいよ」

こいつはここで、必ず殺す。

「言ちゃん?」

「は?」

背後から声がする。

それも、聞き馴染みのある声が。

「走、なんでここに」

「おいおい、敵に背を向けてええんかいな」

脇腹を横に薙ぎ払われ、言葉の体は見事に両断される。上半身は近くのビルへと激突し、下半身は漏れ出る血で走の顔面を汚しながら、走の後ろへと飛ぶ。

「ま、待て。そいつは関係な」

「関係大アリや。異能殺しの弱点としてなぁ」

「言ちゃん、死んじゃう」

「逃げろ!走!そいつはやばいやつだ!」

「何をーー」

走は佐夜鹿に気絶させられ、その後の言葉を言うことはできなかった。

「誘拐。とりあえず目的は達成できそやな」

「待ちやがれ!」

このままじゃ、走が。

「異能殺しともあろう人が冷静さを失うとはね。上半身だけのまんまで突っ込んでくるとは」

顔面を見事蹴り抜かれ、言葉の首は再び上半身からもげ吹き飛んでいく。

「ま、待て」

「じゃあな、嬢ちゃんをもらってくわ」

伸ばす手もなく、吐く言葉もなく。

ただ、俺は誘拐されていく様を見ることしかできなかった。

「くそぉぉぉぉ!」

言葉の絶叫は虚しく街中に響いた。

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