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3話 前章1

英雄は見つかる。

英雄であるが故に。

「あぁー」

7月某日。

すでに夏休みに突入しており、普通の高校生は恋に遊びに大急ぎであろう。まさしくリアルを充実させることに躍起になっている頃だ。

そんな時節だというのに。

「あぁーーー」

俺は行きつけの喫茶店で、椅子に全体重を預けながら、間抜けな顔で、回り続けるシーリングファンをただ目で追いかけていた。

「ひっでぇ顔だな、坊」

臆面もなくそんなことを言うのは、喫茶店の経営者である美人姉妹の片割れである闘華さんだ。

「さっきまで仕事してたんすから、疲れてるに決まってるでしょ」

「せっかくの夏休みだってのにな。勤勉に働くことを褒めるべきか、学生なら遊べと注意すべきか」

ほんの1時間前まで激闘をしていた。以前戦った長音寺のような嫌味ったらしい異能者ではなかったが、そうじゃなかったとしても異能者と言うのは厄介なのは変わらない。

「死んだのも五回ぐらいか」

「なんか言ったか?」

「いや、今日も働いたなぁって」

「ずっと気になるが、お前なんの仕事してんだよ」

「人助け」

「またか」

疲労を誤魔化すためにも、目の前に注がれたコーヒーに口をつける。

「相変わらず美味しいっすね」

「まぁな。これでも世界選手権で4位に入賞したんだぜ?」

「なんの?」

「コーヒーソムリエ」

「それ美味さ関係なくないですか?」

「あるさ。舌が肥えてる証拠だからな」

「そんなもんすか」

それにしても、この店に来て毎度思うことは俺のような餓鬼が来るような場所じゃない。

机や椅子。コップや皿まで同じ色で全てが統一されている。

まさしく、経営者が描いている世界を再現していると言えよう。

「俺も母さんの紹介じゃなければ入らなかったもんな」

「そもそも紹介じゃねぇと入れねぇよ。私は反対なんだがな、紹介制」

喫茶店で紹介制というのは採算が取れるのかと思うが、四年以上も通っているため、問題はないんだろう。

「まぁそのおかげでこうやってゆっくりできるからいいですよ」

「まぁ、それが目的でもあるからね」

「あ、お姉おかえり」

「星華さん、お邪魔してます」

「いらっしゃい、言ちゃん」

目を奪うような容姿と服に似合わず、両手には中身の詰まった買い物袋を持っていた。

「買い物帰りっすか」

「そうよ、それよりも」

「それよりも?」

「学校はどうしたのかな?」

「夏休みっす」

「闘ちゃん、ほんと?」

「おそらく」

「そう、ならサボりじゃないのね」

毎度の如くここにサボりにきているため、こうやって確認を取るのが恒例となってしまっている。いや、真面目に学校行けよというツッコミが入りそうだが、行くのがめんどくさい。

「言ちゃん、ご飯のリクエストある?」

「なんでもいーー」

「なんでも?」

「あ、サンドイッチでお願いします」

「わかった」

いつか彼女できた時に、なんでもいいというのはダメということで、こういう注意が増えた。

「でもここ店ですよね。店員のおまかせとか言えるはずですよね!」

「やめとけ、お姉というか私も含めてだがお前の姉みたいなもんだと思っているし、お姉はこうだと決めたら曲げねぇよ」

「うぐぅ」

文句を言うのを諦め、椅子に全体重を預けて店内BGMに耳を傾ける。

「はぁー、なんもしたくない」

異能事件はたびたび起こっている。

というよりも、ほぼ毎日起こっている。

だから、俺は睡眠不足だ。

「そして、栄養不足でもあるわよ」

「あ、サンドイッチ」

「これである程度は補えるはずだから、たくさん食べるようにね」

死なない体になって気づいたことは、睡眠も栄養も致命的に足りていなくともいずれ復活するということだ。だから、そういう人間らしいことがおざなりになってしまう。

「美味い」

「ありがとう」

千里さんにとっては不眠不休で働ける都合のいいコマというわけだ。まぁ、利害の一致があるからそこに言及はしないが。

「これ何か特別なもんでも入ってるんですか?」

「愛、かな」

「ベタですね」

サンドイッチは20切れほどあったはずなのに、ペロリと平らげてしまった。これが紹介制でもやっていけるほどの腕前なのだろう。

「食べるとは思ったけど、今日買った食材の半分も食べられちゃったな」

「肉に魚に野菜に卵。坊もこんだけ食えばしばらく持つだろう」

「闘ちゃん、栄養ってしばらく持つものじゃなくて毎日摂取するものよ」

「善処します」

「坊、それはしないやつのセリフだ」

くだらない会話をしていると、カランと来客を知らせるドアのベルが鳴る。

「闘華ちゃん、星華ちゃん久しぶーーって、言葉君じゃないか」

「葬さん、久しぶりです」

葬さんはタクシー運転手をやっている人で、ここの常連の一人でもある。

「大きくなったねぇ」

「やめてくださいよ、1ヶ月でそんなに変わりませんよ」

わざわざ隣の席へと座って、俺を頭を撫で回す。まるで親戚のおじさんのようだが、別に血のつながりはない。

「いやいや成長期なんだから、1ヶ月もあれば10センチぐらい伸びるんじゃない?」

「いや、流石にそれはないっす」

ボサボサになった頭の整えて、改めてコーヒーを飲んで一息つく。

「そういえば、奥さんの寧々さんとはどうです?」

「寧々ちゃん?元気にやってるよ。そういえば、それの修理に来いって言っていたよ」

葬さんが俺のポケットを指差す。

そう、二人は俺がどんな仕事をしているかを知っており、使っている銃は寧々さんのオーダーメイドだ。

「ぶっ壊してから来るんじゃなくて、ぶっ壊す前に来いってさ」

「いや、そんな時間ないっすよ」

「そう。じゃあ寧々ちゃんにここに来てもらうように言っておくよ」

「それはあたしが嫌だ」

「あはは、闘華ちゃんは相変わらず寧々ちゃんのこと嫌いだね」

「嫌いっていうか、食器をぞんざいに扱うんだよ。鉄じゃねえんだからもっとちゃんと扱って欲しいんだよ」

プルルルル。

くだらない会話を繰り広げていると、ポケットの中の携帯が振動する。

「はい、言葉です」

『今日、補習なんだが』

「失礼します」

『おい!来ないとお前卒業できなーー』

白水先生の小言を遮るように瞬時に携帯を切る。

「言君」

「はい」

顔を上げると、そこには地獄の閻魔も裸足で逃げ出すような表情をした星華さんがいた。

「私が何を言いたいかわかるわよね?」

「わ、わかりますよ。わかりますから、その顔やめて」

「さっさと行く!」

「は、はい!」

テキパキと荷物をまとめて喫茶店のドアへと向かう。だが、行ったところで補修という地獄が待っているため、足取りはおぼつかない。

「坊」「言ちゃん」「言葉君」

三者三様の呼び方に、俺は振り返る。

「「「行ってらっしゃい」」」

俺にとって、ここは溜まり場のようなものだが、一種の自宅のようなものでもあるだろう。だから、俺はもそれに応える。

「行ってきます」

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