2話 後章2+終わり
「生き返るだと!?お前は『言霊』の異能者じゃねぇのかよ」
「うるせぇよ。殺し屋なら、依頼通り俺を殺してみせろよ」
「い、いけ!お前ら、あいつを止めろ!」
言葉はニヤリと笑いながらゆっくりと歩く。
「聞こえていると願うが、今からちょっと痛いことをするぞ」
迫る拳を半身を開いて避ける。
すかさず、片手で小手を握って外側に捻って体制を崩し、もう片方の手を上に被せることで横に転がす。
「小手返し、ってね」
「チッ、妙な技使いやがって」
「合気道だ。異能でもなんでもない立派な体術だぜ」
「なら、これならどうだ」
一瞬で言葉の周りをぐるりと囲み、一斉に襲いかかる。
「学習しねぇな。『止まれ』」
言霊と共に、人々の動きがピッタリと止まる。
「クソクソクソ!」
「手は全部か?なら、これで終わりだな!」
停止した人々をすり抜け、踏ん反り返る長音寺へと手を伸ばす。
「クソが!」
長音寺の前蹴りが言葉の顔面を見事に捉え、言葉は自分の勢いで吹き飛ぶ。
「俺が戦わなきゃならんとは。クソ中のクソだ」
「なんだよ、後ろに引きこもるだけの雑魚じゃねぇのか」
チッ、油断しちまった。
まさか蹴りをもらうとは。
「クソが!なんで俺様が手を汚さなきゃなんねぇんだよ」
「どれだけの物量を操ろうとも、所詮は有象無象に過ぎないんだよ。そんな紛い物は、所詮本物に負けるんだよ」
「うるせぇんだよ、クソがぁ!」
長音寺は激情のまま、群衆をかき分けて言葉へと突進する。
「クソクソうるせぇんだよ。指揮者なら、もっと的確な言葉をするんだな!」
迫り来る長音寺の手を払い、腹部への重い一撃を入れる。
「ガハッ」
怯んだ隙をすかさず逃さず、長音寺をアイアンクローで捕える。
「さぁ、付き合ってもらおうぞ。『吹っ飛べ』」
言霊を自身に叩きつけ、長音寺と共に空中へと放り投げられる。
「クソ!助けろ!お前ら、俺を助けろ!」
「地上ならまだしも、空中なら操れる人間なんていないだろ?」
言葉は器用に体勢を変えて、拳を力の限り握る。
「オラァ!」
言葉の拳は長音寺の胸部をとらえ、勢いよく地面へと吹き飛ぶ。
「ば、馬鹿が。有利をなくすとはな」
「誰がそんなこと言った」
言葉は瞬時に長音寺の着地点へと移動していた。
「『身体強化』」
肉体を強化しながら勢いよく旋回し、繰り出された回し蹴りが長音寺の背中を捕える。
「ぐがぁ」
ボキボキと骨が粉砕する音を立てながら、長音寺は再び空中へと飛んでいく。
「お前は無関係の人間を巻き込んだ。その報いを受けてもらう」
深く深呼吸をしながら、吹き飛ぶ長音寺へと銃口を向ける。
「馬鹿が!地上でそんな呑気なことしてんじゃねぇぞ!」
近づいてくる人々に一瞥しながら、冷静に言霊を放つ。
「『止まれ』」
渋谷スクランブル交差点の空域を含めて、言葉以外の全てを停止させる。
その間、実に1秒。
「『死ね』」
全てが静寂に包まれる中、銃弾は空気を切り裂きながら死を運ぶ。
「じゃあなクソ野郎。テメェは地獄行きだ」
放たれた銃弾は見事長音寺をとらえ、脳天を綺麗に撃ち抜く。
「クソ…が…よ…」
脳天を貫かれた長音寺は抵抗することもなく、そのまま地面に叩きつけられる。死体となった長音寺の表情は絶望に染まっていた。
「ふぅ…、終わった」
その場で倒れ込み、大の字に体を開く。
「つ、疲れた」
異能の反動だろうか、体が動くことを拒絶している。
「先輩、大丈夫っすか」
「大丈夫じゃない」
「あと、交通の邪魔っす」
「え?」
周りを見ると、車はクラクション鳴らして、人々は言葉達を指差しながら携帯を向けていた。
「ほら、肩貸しますから」
「へいへい」
銀鏡に肩を貸してもらいながら、渋谷のスクランブル交差点を後にした。
その翌日。
「言葉君。呼び出された理由がわかるかなぁ?」
「皆目見当もつきません」
俺は再び異能殲滅会の所長室のお呼び出しとあいなった。
「皆目ねぇ」
千里は言葉の目の前にどかりと座りながら、始末書を数枚言葉に向けて置く。
「異能者の死体処理はしょうがないにしても、ビルの破壊に多数の被害者への記憶処理。極め付けは君たちが交差点に乱入したせいで、ネットで大炎上しているじゃないか」
「へー、そんなことなってたんすね」
言葉は始末書に目をうつすこともなく、ただ天井をぼーっと眺める。
「聞いているのかな?君が起こした惨事の話なんだが」
「惨事も何もいつものことじゃないですか」
「いつものことだって?」
千里はプルプルと震えながら拳を机に叩きつける。
「よくわかった。君のような人間にはたとえ時代にそぐわずとも、痛みによる学習が必要なようだな」
机の下からずるりと極太の鞭が取り出し、勢いよく振り下ろす。地面はわずかに削られ、その威力を知らせる。
「君がいつものことだと言っているがな、少しは私を含めた裏方の苦労も知りたまえ!」
怒りのままに鞭は振り下ろされる。が、言葉はそれをすんなりと避ける。
「前線で命はってんすから、少しは大目に見てくれたっていいじゃないですか!」
「その大目というのが問題なのだよ」
その後避けたり叩かれたりしたが、千里さんの怒りが収まる気配を見せなかったため、殲滅会からバイクで逃走した。
「痛ってぇ。ったく、思いっきりやりやがって」
「自業自得ですよ、先輩」
「いつの間に乗ってきたんだ、後輩」
「先輩が焦ってエンジンかけ損ねたところからです」
そりゃ、あんな鬼の形相で追いかけられたら焦るに決まっている。
「先輩、今日は仕事ですか?」
「いいや、今日は何もない」
「じゃあ登校するんですか?」
「いや、学校はサボる予定だから、行きつけの喫茶店行く予定」
「先輩行きつけの喫茶店とかあるんすか!初耳っす!」
「そりゃ言ってないからな」
「私のこと嫌いですか」
「いや、言う必要ないだろ」
くだらない会話をしながら、くだらない時間が過ぎる。平穏とは短いものと知りながら、享受できるだけありがたいものだ。
「じゃあ行くか?」
「いいんですか!やったー!」
二人を乗せたバイクはそのまま大都会の喧騒と消えていった。




