2話 後章1
肉体操作。
そう仮定すればで考えれば妙に納得する。
口調や表情などはただの筋肉運動のため、いくらでも誤魔化しようがある。
表情を操作しないで落としていたのはやつの趣味というわけか。
「仮定としては十分だな」
思考を整理しながら、部室棟を後にする。
外はすでに夜の帷が降りており、時刻は19時を過ぎている。
「そろそろ向かうか」
どこにいるかわからない以上、当てもなく彷徨うしかない。雄也でも特定ができないのなら、俺でも特定は難しいだろう。
「どーすりゃいいんだ」
夜空を仰ぎながら歩いていると、気づけば渋谷のスクランブル交差点へと着いた。
渡ろうとした瞬間に赤信号へと変わり、交差点の目の前で足を止めた。
プルルルル。
信号を間抜け面で待っていると、ポケットから着信を知らせる振動がなった。
「はい、言葉」
「俺だ!雄也だ!」
「どうした、珍しく大声をあげて」
「どうした、じゃあねぇよ!周りをみろ!」
「周り?」
後ろにはたくさんの人がいて、目の前には交差点が広がる。今日は珍しく、車通りが少ないのか、20時だというのに車の通りが一切ない。
というよりも、背後から話し声もなく、深夜のように妙に静かだ。
「んで、要件はなんだよ」
「要件か、よし言ってやろう。お前、今渋谷にいるだろう」
「ああ、渋谷にいるぜ」
「渋谷のスクランブル交差点にいるだろ?」
「交差点にいるな」
「だろうな」
雄也は一息ついて言葉を吐く。
「交差付近にいた全員がご丁寧に整列をしているぞ。つまり、そこに異能者がいる。そして、お前を狙っているぞ」
「何!?」
「ご明察。まぁ気づくのが遅かったがな」
背後から勢いよく蹴られ、おぼつかない足で崩された体勢を戻そうとする。体勢を立て直して周りを見渡すと、交差点の真ん中へと立っていた。
「二度目ましてか?いや、あえて初めましてと言っておくべきだろうか」
群衆が道を開くと、そこには人を椅子がわりにする男がいた。
「テメェか、今回の犯人は」
「犯人?犯人…、犯人ね。いや、俺としては事件じゃなくて仕事だったからな」
「人を殺すのが仕事か」
「おいおい、同じ穴の狢だろ?そんな憎まれるような目で見られる覚えはないけどな」
「まぁ、人殺しに良いも悪いもないな」
チッ、ギリ銃の射程外だ。
仮に打てたとしても、他の人間を巻き込む。
「異能殺しさんよ、敵としてお前に塩を送ってやるよ」
「何?」
「異能戦において、後手に回るのは悪手だぜ?」
男が指を刺した瞬間、交差点にいた人々が我先にと言葉へと殺到し始める。
「なっ!?」
「誰も一人しか操作できないなんて言ってねぇんだよな」
言葉に近づいた一人目の男は顔を苦痛に歪めながら、すまないと口パクをしながら言葉の頬を見事に殴り抜く。
「ぐっ」
言霊を使うか?いや、相手は一般じ…。
「ガハッ」
次々と人々が殺到し、言葉を一方的に撲殺せんと殴り続ける。
「ははは、無様だな。守りたい人間に殺されるなんてな」
「死体も確認してねぇのに、勝手に殺してんじゃねぇよ。『吹っ飛べッ!』」
周囲にいた人々は言霊の力によって、竜巻に巻き上げられるように空中に散らばる。
「やはり命が惜しいか、お前も所詮は人殺しだな」
「お前と一緒にするんじゃねぇよ」
そろそろか。
「『止まれ』」
全員が地面に激突するスレスレに、停止の言霊を叩きつける。範囲を広げた分2秒ほどの効力しかないが、人々を落ち着けるには十分な時間だった。
「チッ、やるじゃねぇか」
「異能殺し様なんでね」
付けられた打撲痕は時間経過とともになくなっていき、やがて普通の肉体へと直っていく。
「名を聞こうか、指揮者」
「俺か?俺の名前は長音寺だ」
「そうか、なるべく覚えといてやるよ」
「なんだ?もう勝った気でいるのか?」
「負けたことはないんでね」
ガンマンのように素早く銃を抜き、長音寺に向かって銃を構える。だが、その間を人々が割り込む。
「チッ」
「もう少し遊ぼうぜ?異能殺し」
くそ、どうする。
「おいおい、固まっていいのかよ。お前の敵は、前だけにいるわけじゃねぇんだぞ?」
後ろから手を伸ばされ、構えていた銃は見事に奪われ、すかさず言葉に向けられる。
「チェックメイトだな。人生初の敗北を刻んでやるよ」
「チェックメイト?今、そう言ったのか?」
「あ?どう見てもお前の詰みだろうが」
「これが?この状況が?そうか、そうか。あはははははは」
夜空を見上げながら、言葉はゲラゲラと笑う。
「おいおい、敗北を目の前にして頭がイカれちまったようだな」
ため息を吐きながら、長音寺は手渡された銃を言葉に向かって構える。
「ここだぜ、脳天を打つならここだ」
言葉は満面の笑みで眉間の間を指差す。
「気持ち悪い野郎だな。さっさと死ね」
放れた銃弾は言葉の眉間を貫き、言葉は満面の笑みを浮かべながら後ろにばたりと倒れる。
「はぁ、殺せたら殺せってわけだが、案外わけなかったな。雑魚すぎて話にならない」
「それは自己紹介か?」
「は?」
脳天を撃ち抜かれたはずの言葉はゆらりと起き上がり、銃痕は塞がって額から銃弾が言葉の足元へと落ちる。
「生き返った…だと」
「死体も見てないのに、勝手に殺すなって忠告したよな」
ゴキゴキと首を鳴らし、ポキポキと指を鳴らす。
「さぁ、第二ラウンドと行こうぜ」




