2話 中章2
キーンコーンカーンコーン。
昼過ぎ、言葉の目的地は学校だった。
「今は昼休み終わったぐらいか」
校門を飛び越え、校舎に向かって大人しく登校…、するわけもなく部室棟へと向かう。
「何部にいるんだっけ」
コンピュータだが、パソコンだが、そんな場所だった気がする。
「っと、ここだ」
足が覚えるままに歩いていると、目の前には古びた看板にかろうじて新聞部と書いてあることがわかる。
部室の扉を開くと古びた新聞が部屋中に散らばっており、とても人が入り込めるような余地はない。
「まぁわざとそうしているんだったか?」
部室の奥へと入り、散乱した新聞を足で退かすと、そこには人一人分が入るであろう入り口が姿を表す。
「入るか」
音を立てないようにドアを閉め、下へと続く階段を下る。
「へぇくしょい!」
組織もそうだが、地下に秘密基地を作らないと死ぬのだろうか。
そんなどうでもいいことを考えながら下っていると、赤く錆びた扉が目の前に出現する。
する必要ないノックを二回して、その扉を開ける。
「邪魔するぞ」
その部屋には、一人の男が住んでいる。
一つのパソコンに向かってカタカタと文字を打っているように見えるが、その前にある無数のモニターに情報出力を行っている。
「邪魔するぞっていうのは、邪魔をする前のやつのセリフだぞ」
「一々こまけぇな」
「お前が大雑把すぎるんだよ」
歩みを進めようとすると、カランと足元から音がする。それはエナジードリンクの空であり、見渡せばそれらは部屋中に転がっていた。
「掃除しろよ」
「俺一人しかいないんだから、する必要がねぇんだよ」
「いや、俺が来るだろ」
「3ヶ月に一回ぐらいな」
わざとらしくエンターキーを押した後、座椅子をくるりと回し、男は言葉に向き直る。
「んで、またわかんないことでもできたか?言葉」
「あぁ、天災の出番だ。雄也」
「俺を未だ天災扱いすんのはお前ぐらいなもんだよ」
言葉の顔を見ながら片手でキーボードを打ち、言葉の近くにあったモニターへと画像を表示させる。
そこには、小学生を見下ろす言葉が映った監視カメラの映像と、その周囲には飛び降り自殺事件の新聞記事の画像があった。
「これだろ、俺に聞きたいのは」
「お見通しか、流石だな」
「まぁ、これでも情報屋だからな」
そう言いながら、二つ目のモニターに被害者の名前とその下に、飛び降り直後の死体の映像が映し出される。
「おい、雄也」
「偽善者のお前にとっては気分がいいもんじゃないだろうが、見てもらわなきゃ話になんないと思うからな」
目に入るのは安らかな表情とは言えないもので、そのどれもが絶望に染まった表情のまま死んでいる死体ばかりだ。
「胸糞悪い」
一刻も速く目を離したいが、雄也が何を伝えたいかわからない以上見続けるしかない。
だが、嫌悪感ばかりが先行して、何かを推理しようとする気も起きない。
「わかった、すまない。無茶をさせた」
雄也は死体の映像を引っ込めて、続いて新聞記事の映像へと切り替える。
「答え合わせは無理そうだからな。解答に誘導してやろうじゃないか」
「あぁ、助かるよ」
雄也は椅子から立ち上がり、言葉がいる場所へとゆっくりと歩く。
「大前提の話だが、残念ながら犯人は見つかっていない」
「…っ!?」
「かなりの広範囲の異能者なんだろうよ。どれだけ条件付けをやっても、100人以下に収まることはなかった。それだけ狡猾だということだ」
「そうか」
「さらに言えば、というかこれが一番の問題だろうな」
「なんだよ」
雄也は言葉の目の前に行き、言葉の胸に人差し指を当てる。
「これは、事件を騙るでかい釣り針だ」
「なんの話だ」
「犯人の狙いの話だよ。今回のはやり方的におそらく同一の単独犯の仕業だ。やり方があまりにも固定化されすぎてるからな」
犯人の狙い?
「おいおいわかっているだろ。この事件の全容を正確に把握して、解決できるなんて異能者しかいないんだぜ?つまるところ、異能者を炙り出そうとしているんだよ」
「なんのためだ?」
「それがわかってなんでわかんねぇんだよ」
雄也はやれやれと首を振りながら、どかりと椅子へと勢いよく座る。
「お前はなんで異能殺しって呼ばれてるんだっけ?」
「異能者を…、いっぱい倒しているから」
「なんでいっぱい倒しているんだっけ?」
「組織に所属してるから」
「じゃあ、他にお前のような人間はいるか?」
「いない。…………あ」
え?おい、ちょっと待てよ。
「異能殺しは異能者を殺して回る快楽殺人者ではなく、異能事件が発生すればすぐに駆けつける正義のヒーローと証明したわけだ」
「つまり?」
「お前は見事釣られたんだよ。一本釣りってわけだ」
となると、一刻も速く殺さないと。
「やめとけよ。もう色んな意味で手遅れだ」
「なんでだ?」
「犯人の言葉を思い返してみろよ」
こんな"退屈な仕事"で。
「仕事」
「そう。というわけで、今回の犯人は雇われ。つまりは後ろが存在するわけだ」
敵対組織が存在して、雇われているということは斥候に過ぎないわけで、斥候を殺したところで今この瞬間にも情報が共有されているため、殺したところで意味がないと。
「閑話休題。それは事件の背景であって、解決に関してはあまり関係がない。本題をそろそろ話そうじゃないか」
「そうだ、さっきの死体。あれはなんだったんだよ」
「そこそこ賢いと思ってたから、さっきの話し合いの中で答えが出てるものと思ったのだがな」
絶望に歪んだ顔の死体。
絶望に歪んだ…顔の…死体…。
「ヒントをくれてやるよ。敵の異能は精神を乗っとっているわけじゃない。精神を乗っ取るにしても、人間の火事場を意図的に出すことなど不可能だ」
「その根拠は?」
「パイロットを変えた機体が100%の性能を発揮することなんて、異能であったとしてもあり得ないんだよ。それに、異能の本質はなんでもありだが、ルールには縛られている。故に、精神操作なら精神操作しかできない。人間の火事場は脳のリミッターだからな」
人間の火事場は脳のリミッター。
絶望に歪んだ表情の死体。
「まさか」
「そう、敵の異能は肉体操作の異能だ」




