2話 中章1
翌日。
千里さんから事件の解決を求められてたため、俺は学校を見事にサボり、昨日飛び降りが起きた現場へと足を運んだ。
「まぁ…ないよな」
人が死んだことを証明する血痕が広がっており、その周囲を警察のキープアウトのテープが囲んでいる。
「失礼しますよ」
異能者が起こす事件をそのまま異能事件と呼ばれているが、異能事件に関しては俺に捜査権が与えられている。
千里さんがどうやら事前に手を回してくれていたのか、本来現場検証しているはずの警察が綺麗さっぱりいなくなっている。
「と、捜査の前に」
血痕に向かって、両手を合わせて目を瞑る。
この行為は記号的にやっているものだが、やらないよりはマシだろう。
「って、なんでお前もいるんだよ」
「先輩が行くとこには私がいなきゃいけないんですから。必要なんでしょ?」
「今はいらねぇ」
「そんなこと言ってると何かあった時に誘導出しませんよ?」
「それで困るの俺じゃなくてお前だからな」
血痕が道の真ん中ではなく、ビルにかなり近い場所についている。
「飛び降りたのではなく、崩れ落ちたと言うのが正しいのか?」
屋上まで移動はさせられるが飛び降りまでさせることのできないのか、できないからわざわざ気絶させているのか。
「わからねぇが、どっちみち飛び降りる前に止めればはっきりするか」
「次は100人目ですよね」
100人目。そして、事件が起きて100日目。
そう、犯人は99日間休むこともなくせっせと人殺しに励んでいるわけだ。特定できないのは異能者であることと、場所も被害者も完全にランダムであることが原因だろう。
「案外狡猾と言うか、いやらしいですよね。その人の生活圏でもない場所に、それも区や市をわざわざ跨いでますからね」
「警察も国民全員監視できるわけじゃねぇからなぁ」
つまりは一般人にはできないと言うわけで、特定できるのは必然的に異能者か異能者の関係者であることは絞れる。
「だが、何の為だ?」
いちいちわからない。
異能を世間に知らしめたいのであれば渋谷の109とかで飛び降りさせるはずだし、異能者を炙り出すにしても無差別すぎてわからない。
「所詮は馬鹿だと言うわけか」
「わかりきったことを言ってどうしたんですか」
「……いや、数少ない友人を頼ろうかなってな」
「私も頭いいですけど」
「あれそうだっけ?」
「忘れたんですか!?かの有名な私立大学の心海大学で心理学専攻してるんですよ!」
そういえば、こいつ大学生だった。
「はいはい、すごいすごい!」
「どれだけすごいかわかってないですね。心海大学は偏差値が70を超える超がつくほどの難関校で、かの有名な大学教授の幸神教授が………」
自慢げに語る後輩を背に、俺は大通りへと歩みを進める。先輩らしく後輩の話は聞いてやるべきだが、そんな時間は今はない。
「うわぁ」
曲がり角が近くにあったせいなのか、小学生の男の子が俺にぶつかってきた。ぶつかってきたなどと被害者ぶったが、即座に手を引いたおかげで尻餅をつかせることはなかった。
「ありがと…、って、マジか」
男の子は言葉を見上げ、目を大きく見開く。
「こんなことで、こんな退屈な仕事で、こんなふざけたことで、まさかこんな大物が釣れるなんて!」
「大物だと?どう言う意味だ」
男の子は貼り付けたような歪な笑顔でこう言う。
「お前が異能殺しという意味だよ」
「なんだと?」
この小学生、異能者なのかよ。
「って、先輩何してってなんで人がいるんですか。私今、《誘導》を発動しているのに」
「ビンゴかよ」
チッ、小学生といえど異能者であれば。
「餓鬼だな、異能殺し」
小学生はそのまま二人に背を向け、小柄とは思えないほどの速度で走り出した。
「逃げた!?待て!」
速い。あまりにも速すぎる。
追いかけているのにどんどんと背が遠ざかっていく。異常系の異能者か?
だが、さっきあいつはこんな退屈な仕事と言っていた。
であれば、銀鏡と同じ異質系のはずだ。
「くそ、このままじゃ突き放される。『身体強化』」
言霊の対象を自分自身に変えて、身体能力を無理やり上げる。筋肉を爆発的に増やして、一瞬で収縮させる。
「これ筋肉痛ひどくなるからやりたくねぇんだがな!」
ミシミシと全身から鈍い音を立てながら、一歩踏み出す。その一歩は爆発的な速力を生み、先ほどの速度とは二倍ほどの差を生む。
「待ちやがれ!」
「なんと、これについてくるとは。じゃあ、これはどうかな」
小学生は近くのビルへとドロップキックをする。封じられた自動ドアは蹴破られ、警報がビービーとけたたましく鳴り響く。
「くそ、待て!」
「待てと言われて待つ奴がいるかよ」
小学生が階段の方へと走っていき、言葉もその背を追う。
「ハァハァ…、この器も限界か。小学生はやはり持たないな」
「やっとだ。追いついたぞ!」
息切れを起こした瞬間、言葉は小学生の背中を掴み上げ、近く踊り場へと叩きつける。
「さぁ!吐いてもらおう…は?」
拳を振り上げようとしたまさにその瞬間、目の前から小学生の姿が消えていた。
「どこだ、どこに行った」
懸命に探していると、近くの窓から小学生の影が上から通り過ぎるのが見えた。
そして、反射的に言葉は言霊を発動させる。
「『吹っ飛べ』」
自分の体で窓ガラスを破り、落ちていく小学生を捉える。
「『止まれ』」
地面スレスレに止まった小学生を横目に、そのまま自由落下して地面にヒビを入れる。
「痛ってぇ」
骨やら何やらが飛び出ているが、今はそんなものを気にしている場合じゃない。
「さてと」
10秒たったため、停止の言霊が自動的に解除され、小学生はそのまま地面に倒れ伏す。
「……そういうことかよ」
冷静になって小学生の体を見ると、体のあちこちで内出血が起きていて、足の骨がズレていた。
「火事場の力を発動させて、無理やり逃げていたのかよ」
つまり、こいつは当事者じゃない。
ただの被害者というわけか。
「ハァハァ、先輩。捕まえましたね」
「遅かったな。いや、こいつは犯人じゃない」
「犯人じゃない!?」
「あぁ、そうだ」
これは失態だ。
無関係な人間を巻き込んじまった。
「『眠れ』」
治癒の痛みで起こさないように、麻酔をするように眠りを深くさせる。
「重ねて、『治れ』」
小学生の体から傷が消え、歪んでいた下半身が元に戻る。
「この子の住所を調べて送ってこい」
「えー、私がやるんですか」
「頼んだ。俺は行かなきゃいけないとこがあるんでな」
「ちょ、先輩!」
犯人に顔が割れた。
一刻も速く解決しなきゃまずい。
「チッ、頼りにしてるぞ。雄也」




