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地味な悪役令嬢は極寒の辺境で、誰よりも温かな愛を設計する  作者: 月雅


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第五話:温泉掘削と癒やしの空間


ザク、ザクと、凍土を穿つ音が静寂に響く。


私は雪深い平原の真ん中で、銀色の円盤をかざしていた。

かつて王宮の図書室で、古びた地質図を読み耽っていた時に得た知識。

そして、あの夜に持ち出した私だけの魔導ツールに蓄積された、地層透視の術式。

それらを組み合わせ、私はこの大地の「血管」を探していた。


「イリス、こんな場所で何をしている。また倒れるつもりか」


背後から、低い声が届く。

アレクセイ閣下だ。

以前、吹雪の中で領民のための長屋を建てた際、魔力を使い果たして彼に抱き上げられた記憶が脳裏をよぎる。

その時の彼の腕の温もりを思い出し、少しだけ頬が熱くなった。


「閣下、ちょうど良いところに。この地点の地下三〇〇メルの層に、大規模な熱源の反応がありますわ」


「熱源だと? まさか火山か」


「いいえ。高濃度の魔力を含んだ『温泉』です。ここを掘り当てれば、この街は変わります。この温泉の魔力を触媒に利用すれば、私の負担を抑えつつ、都市規模の熱循環を維持することが可能ですわ」


私は円盤を操作し、設計図を空中に投影した。

それは単なる浴場ではない。

湧き出す湯を都市の熱循環システムに接続し、街全体の石畳を常に温める「融雪都市」の構想だ。


「閣下、地中の資源は領地の所有物です。ですが、この熱を分配し、街を維持するための『熱変換術式』の構築は、私の知的成果物です。その使用権については、以前の契約通りに扱っていただきますわよ」


「ああ。貴様の頭脳こそが、この領地最大の財産だからな」


アレクセイ閣下は迷わず、騎士団に掘削を命じた。

数日後。

ぶわりと白い湯気が、冬の空を切り裂いて噴き出した。

辺境の冷たい空気が、一瞬で柔らかな湿り気を帯びる。

領民たちが歓声を上げ、湧き出た湯に手を浸して、その温もりに涙を流した。


私はその傍らに、小さな、けれど強固な石造りの「足湯」を即座に構築した。

かつて王宮の冷え切った廊下で、誰にも気づかれずに施していた維持管理魔法。

あんな虚しい仕事ではなく、今は目の前で笑う人々のために技術を使える。


「閣下も、いかがですか?」


私はブーツを脱ぎ、石の縁に腰掛けた。

アレクセイ閣下は少し戸惑った様子を見せたが、やがて隣に座り、大きな足を湯に浸した。


「……温かいな」


「ええ。地盤が温まれば、人の心も解れるものです」


「貴様はいつも、建物や地盤の話ばかりだな。だが……不思議と、俺の心まで設計し直されている気分だ」


アレクセイ閣下の視線が、私の横顔に注がれる。

以前、城の床暖房を完成させた時に見せたあの鋭い眼差しが、今はより深く、穏やかな色を帯びていた。

冷徹な辺境伯という噂とは裏腹に、彼の横顔は湯気に包まれて、ひどく優しく見える。


その頃、王都からは不穏な知らせが届いていた。

私が以前、管理を放棄した離宮では、暖房代わりの魔導具が暴走し、内廷費を底突かせているという。

贅沢な暮らしを維持するために無理な徴税を行い、王太子の周囲には不満の「悪臭」が漂い始めていた。


「あちらは勝手に冷え切っていればよろしいですわ」


私はお湯を軽く蹴り、小さな波紋を作った。

今、私の目の前にあるのは、凍てつく冬を楽園へと変えるための、温かな設計図だ。


「イリス。この街が完成したら……俺の隣に、貴様の席を永久に設計してほしい」


不意に重なった、アレクセイ閣下の言葉。

それは単なる契約の相談ではなく、一人の男としての、あまりに真摯な願いだった。


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