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 山奥の高校でのんびりと暮らしていた少女には、この状況は刺激が強すぎた。数多(あまた)の刃が向けられ、少女は気が遠くなる。窮地に立たされると、人間声が出なくなるものだ。


「貴様!!何者だ!!」


  何者か、なんて答えられるはずがない。着物ばかりのこの空間に制服でいること自体、きっとおかしいことなのだ。少女は拳を握りしめ、俯くことしかできない。



「控えよ。その者は我が妻、うたである。無礼がすぎるぞ。」


 凛とした声が響く。少女は声の元を目線で追う。先ほどの麗しい青年であった。


「は、うた様でしたか……!?し、失礼いたしました!!」


 先ほど少女に刃を向けていた彼らは刃を仕舞うと、バタバタと立ち去っていった。少女は呆気に取られていた。助けてくれた青年にお礼を言わなければと、口をはくはくさせるが肝心な声が出ない。


「……あ、あの、私の名前、『うた』じゃないです。」

「知っている。」


 振り絞って出た言葉はすぐに否定される。少女は開いた口が塞がらないまま床に座っていた。青年は座ったままの少女に手を差し出す。少女はおずおずとその手を受け取り立ち上がり、制服についた汚れをぱたぱたと叩く。


「助けていただき、ありがとうございました。お礼をしたいところなのですが、ちょっと迷子でして………。必ずこのご恩は返します。」


 少女は命の恩人に、恩を返さないままいれるほど図太い神経を持ち合わせていなかった。青年はじっと少女を見ると、少女の顎にそっと指先を添え、自らの顔に近づけた。


「そうだな……。お前にひとつ、されど大きなお願いがある。」


 透き通るような声と目に狼狽えた少女は思わず目を逸らす。嫌な予感がする…と少女は後退りをするが壁に阻まれて下がろうにも下がれない。



 

「名を捨て、『うた』として生きていく気はないか?」



名も知らない青年の言葉に、すぐ少女は答えられなかった。それが、自分の人生を捨てる選択だと理解していたからだ。


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