Gloroa Sacrificii 番外編 「欲」
食欲。性欲。睡眠欲。
三大欲求とすればこのあたりだろうか。
庇護欲。財欲。生存欲。承認欲。感楽欲。怠惰欲。支配欲。自由欲。知識欲。
この世には数多くの欲がある。
それに人は、欲に生き、欲に溺れ、欲に死ぬ。
この男は特に庇護欲に生きていた。
妻子がいる。
そういえばわかるだろう。
自分がどうなっても、妻子を守れればそれでいい。
妻子が笑顔ならどうなったっていい。
行き過ぎた欲とは時に被害すら出すことは、皆よく知っていることだ。
男は、妻子を守るため、戦っていた。
何と戦っているのか、そんなことを聞くのは野暮というものだ。
男は、自分が死んでしまえば妻子に笑顔はなくなると信じていた。
死んではいけないと。
しかしまあ、なんとわかりやすい。
現実は非情だ。
男は死ぬ。
そう運命づけられている。
男もそれとなく感づいてはいた。
帰りたい。妻と子に会いたい。
何度この言葉を飲み込んだかわからない。
何が何でも生きてやる。
四肢が欠けようと生きてやる。
恥ずかしい男だ。
一時とはいえ組まれた味方を見捨てるというのか?
自問自答を繰り返す。
結果はわかりきっていた。
自分では勝てない。当たり前だ。
ならば勝てる人に託す。
自分は逃げればいい。
世界一のアホだな。
保身に走ろうとまで考えているとは。
しかし心の奥底はお人好しだったようだ。
死にそうになる味方を庇い死んだ。
鳩尾に突き刺さるナニカ。
抵抗の暇さえない連撃。
自分が強くなるため繰り返した鍛錬とは何だったのだろうか。
いっそ笑ってしまうような仕打ち。
妙に人間に似た生々しい歯を見つめながら、最期に考えていたのは誰のことでもない。
私の人生は報われたのだろうか。
妻を、子を。国を守ろうと足掻いた自分の人生は正しかったのだろうか。
そんなことだ。
物語の登場人物のような台詞に自分でも笑みがこぼれる。
笑ってしかいないな。
諦めではない。
しかし打開策があったわけでもない。
得も言われぬ不思議な感情の中、男は目を閉じた。




