本編
適当です。
クオリティは期待しないでください。
西暦8814年。世界は神に見放された。
指先一つで国を吹き飛ばすような怪物が世界の中心に現れたのだ。
更にその怪物の体から、作り話でしか聞かないような異形の化け物が次々と生み出されていく。
人類はなすすべもなく、生きる場所を失っていった。
だが、ある出来事から、人類に救いの手が差し伸べられた。
魔力という特殊なエネルギーの覚醒である。
魔力は何に使うこともできた。まるで超能力のような超自然的現象から、重火器など物理兵器の強化など。
これにより怪物を容易く倒すことができるようになった。
更に怪物から取れる素材は、魔力が通りやすく頑丈で、武具としても重宝されるようになった。
だが素材を求めた人が帰ることのない人となった例も少なくない。
そんな危険と隣り合わせの生活が始まってから、およそ5000年が過ぎた。
新暦5529年。魔王と名付けられたはじまりの怪物は、倒しても倒しても500年の眠りの後に復活する。
12回目の誕生が世界に告げられ、安寧の終わりと絶望の始まりに、世界は暗かった。
しかし同時に、西方帝国から勇者の誕生が告げられる。
はじまりの怪物を倒す唯一の人物が、この勇者である。
世界は歓喜に満ちる。
勇者の活躍と安寧の復活を望み、人々は勇者を半ば信仰さえしていた。
しかしこうも言われている。
「勇者が死ねば、魔王の恐怖は永遠のものとなる」と。
過去に前例がないものの、いやないからこそ、そう伝えられてきた。
だからこそ人類は皆、勇者を信じるのだ。
更に勇者を手助けする者も、各地からやってくる。
魔法の扱いに長けたもの。補助に長けたものなど。
様々だがその者ら誰もが、同じ志を持って集まっていた。
護ること。それが勇者たちの使命だ。
守るため、護るために勇者は魔王を倒すのだ。
「『ドミナティオ』ッ!」
一閃。二足歩行のヤギのような化け物が縦に真っ二つにされる。
飛び散る血しぶきの中、剣についた血を払い、鞘に納めた。
「これでここらへんのは全員倒せたかな」
「お疲れ様ですブレイブさん。回復魔法かけますね」
魔王誕生後、国や自らの意思によって勇者の下へ5人の英雄が集まった。
『聖女』ベネット・ルミエール。
『拳王』王勝鳳。
『賢者』アルチーナ・ヴァルプルギス。
『忍』皇桜花。
『絶壁』アイギス・テナ・ロブスト。
勇者を含めたこの6人が、現在魔王を倒すべく旅をしている。
今ここは、各地に突如現れた『ダンジョン』という怪物の巣窟。
勇者一行は自らの成長のために、ダンジョンを攻略しているところだ。
「あとはダンジョンボスだけだ! 気合い入れて行くよ!」
「おうヨ!」
勇者の発破に元気よく答える王勝鳳。
少し進んだ先の突き当りに、身長の10倍はあろう扉があった。
勇者たちが扉の前に立ち、手をかざすと、招き入れるようにゆっくりと扉が開く。
「ここのボスはジェネラルオーガですぞ。力は強いが遅いのでな。ブレイブと王をメインにそれ以外は後ろで補助に徹するであります」
「了解だアイギスさん! 王くん! 細かく動いて撹乱して倒すように!」
アイギスの助言を聞いてすぐ、勇者と王勝鳳がボス部屋の奥へ走っていく。
闘技場のような円状のフィールド。その奥に佇むジェネラルオーガが、侵入者に反応して巨大な棍棒を構えた。
勇者と王勝鳳がジェネラルオーガと接触する直前、ベネットやアルチーナが魔法を唱え、勇者ら2人に筋力増加など数多くの補助をかける。
「『ドミナティオ』ッ!」
「でぇぁぁああっ!」
ジェネラルオーガが大きく振りかぶると同時に、2人も攻撃を仕掛ける。
オーガの攻撃が2人に当たる直前、2人とオーガの棍棒の間に、透明な障壁が出現した。
結果オーガの攻撃は当たることなく、2人の攻撃がオーガに直撃した。
『UUGAAAAA!!!』
傷をつけられたことに怒ったのか、オーガが雄叫びをあげ、突進してきた。
「任せるのであります! 『身代』! 『堅壁』!」
空中で無防備な2人の前に、スキルによって瞬間移動したアイギスが盾を構えた。
オーガは、不落の城壁にぶつかったかのように大きくのけぞり、たじろぐ。
その隙を見逃さず、着地した瞬間に王がインファイトを仕掛けるべく走り出した。
「『双拳昇華〈紅蓮〉・〈白蓮〉』『魂削混拳〈鳳凰〉』ッ! 『奥義〈百花繚乱〉』!」
白い炎を拳に纏い、腕が増えて見えるほど速い連撃をオーガの腹へ打ち込んでいく。
オーガは体勢を戻す事もできずに、連撃の終わりに合わせて吹き飛んでいった。
『GRUU・・・』
打撃の影響か四肢の骨が折れ壁際に座りっぱなしになってしまうオーガ。
なんとか立とうとするが、力が入らず立つことができずにいる。
次第に動きが小さくなり、息絶えた。
オーガの体は少しずつ光の粒子となり、ブレイブらへと漂い吸収された。
心なし力が向上したような感覚があると、ブレイブはオーガがいたところへ近づいていった。
「ドロップは源石と首飾りか。うん、ラッキーだね」
「首飾りはたしかレアドロップでしたな! 豪運でありますなブレイブ殿!」
オーガのいた場所には、赤く光る球体の鉱石と、牙があしらわれた首飾りが落ちていた。
そのドロップ品を確認し、ブレイブたちは街へと引き返した。
「じゃあ反省会だ。今回は近距離の王くんが基本的にアタッカーとして動いてたけど戦っててどうだった?」
「まぁあんま動いた感じしなかったナ。向こうの動きが遅かったのもあるがアイギスが上手く守ってくれたのも助かっタ。ただ、補助組がもうちょいしっかりかけてくれればアイギスの負担も少なくなったんじゃねぇかとも思ったナ」
ダンジョンから最寄りの街へ帰り、適当なレストランで食事をとる。
ブレイブから話が始まり、王勝鳳が簡単に感想を述べた。
「でも私としてはそこまでの攻撃でもなかったのでありますぞ」
「いいのじゃアイギス。今回は儂が効果時間を重視して補助をかけてしまったからの。あまり大きな効果にはならんかったのじゃ。予想よりもかなり早く決着がついてしまったから儂もそう思ってたのじゃよ」
アイギスのフォローもあったが、アルチーナが反省を示し、頭を下げた。
「まあ明日は魔王城へ出発だ。死んでしまうことだけは絶対に無いように、慎重に行こう」
その後は次の魔王戦への対策と確認をし、床へ就く。
翌日。諸々の準備を済ませ、ついに魔王の住む城へ旅を始めた。
旅路自体はあまり時間のかからない道であったが、魔王城に近づくにつれ、より強い魔物が増える。
休憩を挟みながら足を進め、2日が経った後に、魔王城をその視界に捉えた。
「明日、魔王城に入る。準備は怠らないでね」
緊張を顔に見せ、ブレイブは端的に言葉を掛けた。
アルチーナによる認識妨害の魔法を確認したあと、他のメンバーも簡単に設置したテントに入り、夜明けを待った。
魔王城攻略の当日。テントを片付けた勇者パーティー一行は魔王城の門の前に立っていた。
『ここより先は魔王様のおわす城。 我らは魔王城の侵入者を殺すための門番なり。通すことはできぬ』
『貴様らがもし、通ると申す無礼者なら、それ即ち魔王様への侮辱である』
門を通ろうとすると、横に設置されていた人の形をした牛のような2対の像が動き出し、行く手を塞いだ。
するとブレイブが剣を掲げ名乗りを上げる。
「我らは魔王を討伐せし者! 世界の意思より選ばれし勇者である! 行く手を阻むこと、主の意思に反すると同義と受け取り制裁を下す! 命惜しくば道を開けよ!」
勇者の口上を聞き門番は、容赦なく持っていた武器を振り下ろした。
わかっていたかのようにアイギスが前に出て、盾を構えると攻撃を受け止める。
「『堅壁』!」
「助かったアイギス! 『ドミナティオ』ッ!」
アイギスの後ろから出てきたブレイブが門番の一人を切り払おうとする。
しかし刃は通らず、剣が弾かれてしまうが、門番をよろめかせることには成功していた。
「後は任せロ! 『奥義〈針砕虚空〉』!」
反動で弾き飛ばされたブレイブと変わるように出てきた王勝鳳が拳を突くと、一瞬門番の動きが止まる。
すると門番の体は途端に風船のように膨らみ、血飛沫とともに爆散した。
「何回見てもとんでもない光景じゃな。ま、こんな感想言えるほど気も抜けんがのう・・・『テンペスト』」
大きな技を放った王勝鳳を狙ったもう一人の門番が斧を大きく振りかぶろうとする。
斧が当たるかと思った瞬間、アルチーナの魔法により、竜巻に呑まれた門番は、全身を切り刻まれ、息絶えた。
「ルーチェの魔法もなかなか凄惨ですよ? 人のこと言えませんね」
「るっさいのじゃベネット。儂の魔法のほうが圧倒的に美しかったろ」
頬を引きつらせながらアルチーナに注意するベネットだったが、アルチーナは駄々っ子のように認めなかった。
「とりあえず門番は倒せた。ありがとうふたりとも。ただ、ここから先は魔王城の中だ。気を付けて進もう」
アイギスらと共に戻ってきたブレイブがパーティー全体に声をかけ、歩みを進める。
開いている門をくぐると、城の全貌を見ることもなく全員の視界が光に包まれた。
「全員警戒ッ! すぐに迎撃できるよう体勢を整えてっ!」
何らかの攻撃だと直感的に感じたブレイブが咄嗟に声をかける。
光が収まると、どこかもわからない広い空間に出る。
壁はなく、足元の床が周囲の地平線の先まで続く、ただただ広い空間に出た。
「全員いるね。まだ、警戒は解かないで。アイギスさん、結界を」
「はっ!『無間』」
音もなく、風もない。だがその不自然さが妙に不気味に感じる。
一番初めに異変に気がついたのはアルチーナだった。
途端に顔が青ざめ、落ち着かない様子を見せる。
「ッ!? ブレイブ! 逃げるぞッ! 『テレポーテーション』ッ! ...なっ!? 発動しない!?」
「どうしたんだルーチェ! なにかあったのか!?」
いつも冷静なアルチーナがひどく混乱したように慌てているのを見て、ブレイブが警戒を強めながら問う。
だが、アルチーナから返ってくる言葉はなかった。ただ沈黙を貫くよう、動きで伝えてきた。
不自然なアルチーナの行動にブレイブは再度問おうとするが、アルチーナの必死な表情に素直に黙った。
『|謌代′鬲泌鴨繧呈─縺倥l繧九b縺ョ縺御ク莠コ縺励°縺�↑縺�ス・�・�・縲よョ句ソオ縺�縲ゅ□縺後∪縺√√>縺�よ�縺梧ィゥ閭ス縺ョ蜑阪↓遲峨@縺乗カ医∴繧医�(我が魔力を感じれるものが一人しかいない・・・。残念だ。だがまぁ、いい。我が権能の前に等しく消えよ)』
なにもない空間から響く理解不能な声。しかし何を話しているかわからないものの、頭の中へ直接響くように意味だけが伝わってくる。
「待て! 名乗りもせず襲う者それ即ち蛮族と同義! 我は勇者ブレイブ! 貴様は何者だ!?」
不気味な声にブレイブは一瞬たじろいだが、負けじと声を張る。
その問いの答えは、絶望と共に返ってきた。
『|蜷阪r閨槭%縺�→諢丞袖縺ョ縺ェ縺�よュサ縺ォ繧�¥繧ゅ�縺ォ謌代′蜷阪r謨吶∴繧九%縺ィ縺ッ鄒弱↓谺�縺代k縲ゅ@縺九@蜍��°縲よ�縺悟ョソ謨オ縲ゅ↑繧峨�蜷堺ケ励k繧ゅd繧縺ェ縺励よ�縺悟錐縺ッ繧「�昴じ�昴ヨ繝シ繧ケ�√蛛牙、ァ縺ェ繧区э諤昴�繧ゅ→荳悶r隱ソ蠕九☆繧玖�シ√謚オ謚苓劒縺励¥邊帶ク��邉ァ縺ィ縺ェ繧九′縺�>��(名を聞こうと意味のない。死にゆくものに我が名を教えることは美に欠ける。しかし勇者か。我が宿敵。ならば名乗るもやむなし。我が名はア=ザ=トース! 偉大なる意思のもと世を調律する者! 抵抗虚しく粛清の糧となるがいい!)』
ア=ザ=トース。現代の魔王と同じ名であり、そのもの。
想像もしていなかった突然の戦いに、困惑してしまい反応が遅れたが、すぐに立ち直り指示を出した。
「アイギスさん! 結界を解いて全員に防御の加護を! ルーチェ! 索敵お願い! ベネット! 闇耐性の加護を! 桜花は隠密でア=ザ=トースの情報を取れるだけ! 王くんは僕と待機! すぐに攻撃を叩き込めるように溜めといて!」
ブレイブの指示そのものは完璧だったと言うほかない。
しかし結果はあまりにも残酷なものだった。
『|莉イ髢薙r菫。鬆シ縺励☆縺弱◆縺ェ縲りイエ讒倥⊇縺ゥ鬆ュ縺ョ縺ェ縺�ヰ繧ォ縺ッ縺�↑縺九▲縺溘h縺�□縲ゆサ翫�縺昴l縺悟多蜿悶j縺�縺」縺溘′縺ェ縲�(仲間を信頼しすぎたな。貴様ほど頭のないバカはいなかったようだ。今はそれが命取りだったがな。)』
突然目の前に現れた異形の存在。
どこまでも黒い塊とも形容すべき例えがたい存在が姿を表した。
『|縺セ縺壹�荳莠コ縲�(まずは一人)』
響くその言葉に慌てて仲間の様子を見ると、アイギスの姿が消えていた。
ブレイブが怒声をあげると、その答えはあまりにも簡単に返ってくる。
『|雋エ讒倥�莉イ髢難シ溘縺薙l縺ョ縺薙→縺具シ�(貴様の仲間? これのことか?)』
黒い塊の外に吐き出されるようにして飛び出した小さなナニカ。
左手だったそれの血だらけの薬指には、汚れながらも輝く銀の指輪が光っていた。
その左手がパーティー内唯一の既婚者であるアイギスであることを嫌にも証明していた。
「ア=ザ=トース!! 許さない・・・。絶対に許さない!!! 『権能行使・能天使』!」
悲しむことさえできない大きな怒りの感情がブレイブを支配する。
仲間への指示さえ忘れてア=ザ=トースへと光り輝く剣を振るうが、その刃が届くことはなかった。
「ブレイブ殿! 待つであります! 私はまだ生きていますぞ! 正気に戻ってください!」
振り切る寸前で止められた剣は、先ほど死んだかと思われたアイギスの首筋で止まっていた。
その左手は手首から先がたしかになく、止血の処理もされているため、先程の魔王の行動がフェイクだったこと、アイギスが生きていることがわかりブレイブは安堵する。
ブレイブはすぐに剣をおろし、アイギスに背を向けて改めて魔王の姿を探そうとしたとき、ベネットから叫ぶ声が聞こえる。
「ブレイブさん! 後ろ!」
その声に慌てて振り返ると、脇腹に激痛が走る。
『|莉慕蕗繧√″繧後s縺ェ縲るィ吶○繧九°縺ィ諤昴▲縺溘�縺�縺後√ヰ繝ャ縺ヲ縺励∪縺」縺溘°縲�(仕留めきれんな。騙せるかと思ったのだが、バレてしまったか。)』
すぐ近くにあったアイギスの姿が溶けていき、人の形に変形したア=ザ=トースがブレイブの脇腹を突き刺している。
幸いなことに怪我自体は浅く、動ける程度の怪我だったが、騙されたという事実に、ブレイブの怒りがより大きなものとなる。
「ブレイブさん回復します! 『権能行使・大天使』」
もはやブレイブを止めることは不可能とわかったのか、ベネットは先の怪我を癒すことに力を注ぐ。
『|蠑ア縺吶℃繧九り�繧峨�豁サ繧帝∈繧薙□縺九ょ窮閠�□縺ィ縺�≧縺ョ縺ォ閾�羅縺�縺ェ(弱すぎる。自らの死を選んだか。勇者だというのに臆病だな)』
再度剣を振りかぶるブレイブだが、ア=ザ=トースに触れる前にすべてが弾かれる。
弾かれるたびにより強く剣を振るが、そのすべてがア=ザ=トースの触手によって弾かれる。
最後には剣が砕け散り弾き飛ばされてしまい、ブレイブは感情がなくなったかのように呆然と立ち尽くす。
顔もないア=ザ=トースからどこか嘲笑したかのような声が漏れると、その手をブレイブの首へと延ばした。
「・・・ッ!」
ア=ザ=トースの触手がブレイブの首へと巻き付く寸前で、様子を見ていた桜花が、咄嗟に腕を引っ張り、回避させた。
「王さん、私はブレイブさんの回復に徹します。その間、足止めだけでも可能ですか?」
「わざわざ聞くナ。ブレイブのためだろ? 命なんて惜しくねえサ」
桜花によってベネットのもとまでつれてこられたブレイブへ治癒を施している間、王勝鳳がア=ザ=トースへ近づいていく。
『|蜻ス縺ェ縺ゥ諠懊@縺上↑縺�ス・�・�・縺九る囂蛻�→邊九′繧九ょシア蟆上↑繧ャ繧ュ縺御ス輔r縺ァ縺阪k(命など惜しくない・・・か。随分と粋がる。弱小なガキが何をできる)』
「お前を止めるんだヨ。悲しいか俺じゃ力不足かもしれねぇがナ。ここから先には行かせねえゼ? 全力で抗ってやル」
両方の拳に漆黒のオーラを纏わせゆっくりとア=ザ=トースのもとへ歩く。
ア=ザ=トースが触手を伸ばそうとした瞬間、王勝鳳がア=ザ=トースの背後から拳を振るう。
他の誰かが見れば、いつの間にか背後に回られた王勝鳳の姿を確認するまもなく、全身の原型を止めないほどの連撃を食らっていただろう。
「!? なんでダ・・・!? なぜわかっタ・・・!?」
『|驕�>縲よ�繧呈ュ「繧√◆縺�↑繧我ク迸ャ縺ォ雉ュ縺代k縺ェ(遅い。我を止めたいなら一瞬に賭けるな)』
ア=ザ=トースへその拳が届いたかと思った瞬間、寸前のところで別の触手に掴まれてしまう。
拳が砕かれる音が聞こえ、王勝鳳に苦しげな表情が見えるが、取り繕うように反応速度の速さを問い詰める。
しかし答えは残酷だった。自慢のスピードを罵られ、敵からのアドバイスすら貰ってしまう始末。
自分が進んできた道をすべて否定されたような、絶望感に苛まれる。
「王さん! しっかりしてください!」
突然かけられたベネットの声に、また拳に力が入る。
『|迚�焔縺ァ縺ゥ縺�☆繧区ー励□�溘繧ゅ�繧�享縺。縺ェ縺ゥ隕九∴縺セ縺�(片手でどうする気だ? もはや勝ちなど見えまい)』
「勝ち負けじゃねえヨ。ブレイブのために全力で時間を稼ぐだけダ」
使い物にならない右腕を垂らしながら、精一杯の構えを取る。
魔王は依然として油断したような様子であり、どこかこちらをバカにしているかのような雰囲気もあった。
王勝鳳は残る力を振り絞り、魔王へ殴りかかった。
結果はわかりきっていた。魔王に髪を掴まれぶら下がる、全身を脱力した王勝鳳の姿が、最後には残っていた。
両方の拳は握ることすらできないほどひしゃげ、足もあらぬ方向へ曲がっている。
だがその表情は状況に反して希望に溢れていた。
「王さん、ありがとうございます。お陰でブレイブさんの治療、終わりました」
魔王が身体を大きく広げ、王勝鳳の全身を包むように咀嚼しようとする寸前、ベネットからの言葉に弱々しく手を振った。
その光景が王勝鳳の最期だった。
完全に魔王の体内へ消えた王勝鳳は、魔王の咀嚼に合わせ、魔王の口であろう隙間から血を吹き出し、肉塊へと姿を変えていく。
すると魔王の姿が次第に変わっていき、大きな肉塊だったその姿は、王勝鳳を食べきる頃には13歳ほどの少年になっていた。
「貴様らの言葉なら第2形態とも言うべきか。さて、仲間を犠牲にのんびりと回復していた貴様に、いったい何ができる?」
「・・・」
倒れていたブレイブが立ち上がり、ゆっくりと魔王へ近づいていく。
言葉はなく、ただ何かを決心したように表情を変えることもない。
腰の剣が砕け散ったことを思い出し、手に魔法で顕現させた新しい聖剣を握ると、まっすぐに魔王へ構えた。
「何も言えないか。生を諦めた人間とはどこまでもつまらんな」
魔王が人間のようにため息をつく仕草をする。
しかし、その嘲笑に近い表情は、すぐに驚きに変わった。
「『権能・黎ノ大罪〈憤怒〉』」
ブレイブが振るう、真っ黒なナニカを纏った剣が魔王の首があった場所を通る。
反射的に避けていた魔王は、自分のしたことが信じられないかのような表情を見せた。
「復讐に身を堕としたのか? 使命を忘れ黎の力を借りるとは。短気なガキだ」
「先程までの余裕はどうした魔王。黎の魔力にいつになく慌てているな。これが弱点なのか?」
反対に表情を一切変えず絶え間なく剣を振り続けるブレイブ。
躱し続ける魔王も、次第に表情が苦しくなっていった。
「全く慣れない運動をすると腹が減る。鬱陶しいネズミでも一匹いただこうか。害獣だ。命の価値も軽かろう?」
なにかを見つけたのか魔王が気味悪く笑うと、いつの間にかその右手は桜花の腹を貫いていた。
「油断したな。貴様の隠密は完璧でない。何も果たせず終わるのはさぞかし悔しいだろう。なぁ?」
「アザトースッ! 貴様ッ! どこまで俺達を馬鹿にする!? その右手を離せッ!」
勇者の剣から逃れるように一瞬で距離を取ると、桜花の腹に突き刺さっている右手を引き抜く。
次にその右手が巨大化し、倒れようとしている桜花を掴み上に掲げる。
勢いよく握りしめられた指の隙間から血飛沫が爆ぜ、その血を浴びた魔王はこれまでにない恍惚の表情を見せる。
「良い、絶望の味だァ・・・! 力が溢れてくる・・・!」
「『権能・黎ノ大罪〈憤怒〉』ッ! 『グラディアス・ヴィクトリア』ァ!!!」
勇者の先程までの落ち着きはもうそこにはなく、怒りに身を任せたように魔王へ近づき、剣を振るう。
魔王はその速さを避け切れず、その剣は魔王の首を引きちぎるように切り裂き、その頭を空高く跳ね上げる。
魔王の顔は驚きに満ち溢れていた。
剣を振り切ったブレイブが、倒れていく魔王の身体を確認し、剣を鞘へ仕舞う。
「俺の勝利だ。
・・・なんて、思っているのだろうなぁ? あまりにも愉快だ。勇者よ」




