表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅葉-くれは-  作者: 菊池まりな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/154

第93話 森が喰う夜

森の中は、夜の帳が完全に落ちていた。

 葉の隙間からこぼれる月明かりが、まるで血のように赤く滲んでいる。

 氷川美奈は、スマホのライトを頼りに細い獣道を進んでいた。


 春香と祐真が地下から戻らないことが気がかりで、ひとりで探しに来たのだ。

 けれど、歩くほどに空気が変わる。──重く、湿って、息苦しい。

 足元の落ち葉が踏みしめるたびに、奇妙な“ずれた音”が返ってきた。

 まるで地面の下に、別の何かが息づいているようだった。


「くれは……?」

 小さく名前を呼ぶ。

 その瞬間、森の奥から“カラ……ン”と鈴の音が返ってきた。

 ──遠く、しかし確かに、紅葉の髪飾りの音だ。


 美奈は息を呑んで走り出した。

 木々の合間を抜けると、小さな空き地が広がっていた。

 そこに、黒く焦げたような地面がある。


 かつて、秋祭りの夜に火が焚かれた場所──。

 あの夜、紅葉が姿を消したのも、ここだった。


 足を止めると、焦げ跡の中央に、白い布の切れ端が落ちているのが見えた。

 拾い上げると、それは紅葉の制服の袖口の一部だった。

 だが、その端には茶色く乾いた泥と、赤黒い染みが混ざっている。


 美奈の喉がきゅっと鳴った。

 と、その時、足元から“かさり”と音がした。


「……え?」

 地面の一部が、わずかに動いた。

 土が呼吸しているように、ゆっくりと盛り上がり、沈む。


 美奈は後ずさる。

 だが、すぐにその“呼吸”の正体が見えた。


 ──そこには、誰かの手があった。

 細く、土に爪を立てた小さな手。

 今にも何かを掴もうとするように、震えながら地上を探っている。


「……くれはっ!?」

 叫んで駆け寄る。

 だが、掘り返した瞬間、手はすっと引っ込んだ。


 同時に、足元の焦げ跡から赤黒い液体が滲み出し、土を染めていく。

 それは血のようでもあり、腐った水のようでもある。


 美奈は後ずさりながら、スマホを構えた。

 画面の光がかすかに照らし出したのは、焦げた地面の下に埋まる“何かの形”。


 ──人の顔。

 目を閉じたまま、微笑んでいる“少女の顔”。


 それを見た瞬間、胸の奥に焼け付くような痛みが走った。

 記憶の底で、誰かの声が囁く。


 > 「美奈、もし私がいなくなったら、森の中を探して。

 > でもね──“下”は見ちゃだめだよ」


 ──紅葉の声だ。


 美奈の唇が震える。

 けれど、逃げるよりも、確かめなければならないという衝動のほうが強かった。

 その手で、もう一度、焦げた土を掻き分けようとした──その時だった。


「美奈!」

 後ろから春香の叫び声が響いた。

 振り返ると、祐真と春香が懐中電灯を掲げて駆け寄ってくる。


 祐真は彼女の前に飛び込み、手を掴んだ。

「離れろ! そこは──」


 言い終える前に、地面が“ズズ……”と沈み始めた。

 焦げた土の下に穴があり、三人とも飲み込まれそうになる。


 祐真が美奈を抱えて後退し、なんとか崩落を逃れる。

 だが、ライトの先、崩れた穴の底には──


 白い布に包まれた、もう一つの“誰か”。

 そして、その胸元には、赤い鈴が二つ、揺れていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ