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紅葉-くれは-  作者: 菊池まりな


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第53話 再生の儀

ガラスの向こうで、少女は静かに立っていた。

まるで時間そのものが止まったように、呼吸の気配すらない。


「……紅葉……なの?」

春香の声が震える。

それは祈りにも似ていた。


少女は、微かに首を傾けた。

その仕草は、確かに紅葉のものだった。

けれど、次の瞬間──


ピシッ。


ガラスに、ひびが入った。

亀裂は蜘蛛の巣のように広がり、やがて──

バンッ!

鈍い音を立てて、ガラスが内側から破裂した。


破片が宙を舞い、冷たい風が吹き抜ける。

美奈が悲鳴を上げ、春香がとっさに腕で庇った。


割れたガラスの向こうから、紅葉が一歩、また一歩と歩み出てくる。

足元にはガラス片が散らばっているのに、血のひとしずくも落ちない。

その瞳は虚空を見つめ、唇がゆっくりと動いた。


「……お母さん……どうして、呼んだの?」


春香の顔から血の気が引いた。

「紅葉……あなた、なの? 本当に?」


紅葉の足取りは不安定だったが、その表情はどこか微笑んでいるようにも見えた。

「わたし、見つけたの。……帰る道を。」


「帰る道?」

祐真が低く呟く。


紅葉の視線が、ゆっくりと彼に向いた。

その瞳に、一瞬、違う何かが宿る──

「祐真くん……覚えてる? あのとき、あなたも“見た”よね」


「……なにを……?」


祐真の脳裏に、遠い日の光景が閃く。

夏の日、森の奥で笑い声が響いていた。

美桜が花を摘んで、祐真の方へ手を振っていた。

その背後に──“何か”が立っていた。


白い顔。

影のように揺らめく形。

耳元で囁くような声。


──呼んで、呼んで、もっと深く。


「……やめろ!」

祐真が頭を抱える。記憶が、波のように押し寄せてくる。

「俺は……見たんだ……あの日、美桜が“あの声”に呼ばれて……森に消えたんだ!」


紅葉が、微かに笑った。

「だから、戻ったのね。……あなたも、呼ばれたから。」


美奈は凍りついたように立ち尽くしていた。

「紅葉、お願い、もうやめてよ……私たち、ただ──」


紅葉の瞳が、ゆっくりと美奈を見た。

その瞬間、背後の機械が一斉に唸りを上げた。

赤い警告灯が点滅し、どこからともなく機械音声が響く。


“再生儀式 進行率92%。被験体同調を確認。

PROJECT RETURN 再起動。”




春香が叫んだ。

「紅葉! そこから出て! お願い、戻ってきて!」


紅葉の身体が光に包まれていく。

その姿は次第に透け、輪郭が揺らぎはじめた。


「お母さん、わたし、見たの。

 “森”は人を飲み込むんじゃない──

 帰らせようとしてるの。」


祐真が手を伸ばすが、届かない。

光が一瞬、爆ぜる。


次の瞬間、紅葉の姿は消えていた。

残されたのは、冷たく光る金属の円盤──

中央に、奇妙な刻印が刻まれていた。


『R-02 TACHIBANA MIO』




春香の手が震えながら、それを拾い上げる。

涙がぽたりと落ちた。

「……美桜……紅葉……いったい、何が──」


祐真はその刻印を見つめ、唇を噛んだ。

そして低く呟いた。

「……“リターン計画”……まだ、終わってない。」


蛍光灯が一斉に点滅した。

その奥から、もうひとつの声が聞こえた。


──“観測は、続行中です。”


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