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紅葉-くれは-  作者: 菊池まりな


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第51話 封鎖された入口

夜の森は、まるで息をひそめていた。

梢の間を渡る風も止み、三人の足音だけが落ち葉の上で微かに鳴った。


橘春香は、掌に握った懐中電灯を強く握り直した。

隣を歩く氷川美奈の肩は、細かく震えている。

少し先を歩く一ノ瀬祐真は、無言のまま周囲を見回していた。


「この先に……何があるんですか」

美奈の声は囁きのように掠れていた。


祐真は答えなかった。だが、彼の表情には焦燥と不安が滲んでいる。

ただ一歩、また一歩と、何かに導かれるように進んでいた。


やがて、木々の途切れる場所に出た。

そこには、崩れかけた鳥居が立っていた。

朱塗りはすっかり剥がれ、苔に覆われた柱の根元には──

「立入禁止」の朽ちた看板が打ち捨てられていた。


春香の喉が、ごくりと鳴る。

「……ここ、昔、祠があった場所じゃない?」


祐真は鳥居の先に視線を向けた。

そこには祠などなく、代わりに黒い鉄の扉が地中へと続いていた。

扉の上には、「観測区域A」と白く掠れた文字がある。


「観測区域……?」

春香が読み上げる。

美奈は後ろに下がりながら首を振った。「いやです……なんか、気味が悪い……」


そのとき、祐真の足が止まる。

彼の脳裏に、ひとつの映像が閃いた。

──小さな子どもたちが、この扉の前で遊んでいる。

その中に、幼い少女。栗色の髪。笑っている顔。

「みお……?」

彼の唇から、その名が漏れた。


春香が顔を上げる。「今、なんて?」

「……いや。なんでもない。」


扉には錆びた南京錠がかかっていたが、

祐真が手をかけると、まるで意思を持つように──カチリと外れた。


同時に、春香の懐中電灯がふっと消えた。

一瞬、闇がすべてを飲み込む。


「祐真さん……?」

美奈の声が震える。

闇の奥で、低い機械音が響いた。


ガシャン──


鉄の扉が、ゆっくりと開く。

中から冷たい空気が吹き出した。

それは森の湿った匂いとは違う、機械油と鉄のにおい。


春香の胸に、はっきりとした悪寒が走る。

「……祐真さん、まさか……入るつもりじゃ」


祐真は静かにうなずいた。

「紅葉が、ここに呼ばれた気がする。

 そして、俺も……“ここを知っていた”気がする。」


森の奥で、風鈴のような音が鳴った。

それは遠い記憶を呼び覚ますように──

微かに、美桜の笑い声が重なった気がした。


春香は唇を噛み、覚悟を決めたように祐真の後を追う。

美奈も、震える手で春香の袖を掴んだ。


鉄の扉の向こう、階段が地下へと続いていた。

古いコンクリートの壁に、淡い非常灯のような光が点々と続いている。


「まるで……今も、誰かが使ってるみたい」

春香の呟きに、祐真は答えなかった。


階段を下りきると、そこに待っていたのは―

──錆びた扉と、壁に貼られたプレート。


> 【観測施設ラボ 第一区域】




そして、その下に掠れた文字で書かれていた。


> PROJECT RETURN




三人の間に、冷たい沈黙が落ちた。



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