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紅葉-くれは-  作者: 菊池まりな


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第50話 呼び声の在り処

ラボのモニターに映し出された“祠”は、赤い光に包まれていた。

だがその光は暖かさを持たず、血のように濃く、ねっとりと画面の奥を滲ませていた。


美奈が息を呑む。

「これ……見覚えがあります。紅葉と一緒に、ここで写真を撮ったことがあるんです。

 秋祭りの前の日に……森の中の祠で」


春香の手が、わずかに震える。

「祠……まさか、あの“消えた子たち”が最後に目撃された場所……」


祐真は無言で映像を見つめ続けていた。

画面には、赤い光の奥で、無数の影が蠢いている。人の形をしているようにも、枝や根のようにも見える。


やがて、画面の中でカメラが動き、視界の端に一瞬──白いワンピースが映った。

春香が反射的にモニターに手を伸ばす。

「紅葉……!」


しかし次の瞬間、モニターは一斉に消え、ラボ全体が闇に沈んだ。

機械が停止したような音が響き、冷たい風が背中を撫でる。


「電源が落ちた……?」

祐真が呟く。


その時、足元から「ざり……」と音がした。

三人が一斉に下を見ると、床の亀裂から黒い根のようなものが這い出してきていた。

まるで意思を持つかのように蠢き、春香の足首に触れようと伸びてくる。


「逃げてッ!」

祐真が春香と美奈を抱えるようにして扉へ走る。

背後で金属音が響き、ラボの天井から粉塵が降り注ぐ。


外へ出た瞬間、三人は湿った夜気に包まれた。

森はざわめき、風が渦を巻く。


春香は膝をつき、荒く息を吐いた。

「……今のは……あの根……まるで生き物みたいだった……」


美奈は顔を青ざめさせながらも、震える声で言った。

「祠へ、行かないといけません」


祐真が眉をひそめる。

「何を言ってる、あそこは封鎖区域だ。入れば……」


「紅葉が、そこにいるんです!」

美奈の叫びが夜の森に響く。

「夢で見たんです。紅葉が、祠の前で……“まだ間に合う”って。

 あのラボの映像も、全部、導いてる……」


春香は顔を上げた。

その目は涙を含みながらも、どこか決意に満ちていた。

「もし紅葉が……あの祠にいるのなら……私、行きます」


祐真は二人を見つめ、しばらく黙っていた。

やがて、懐中電灯のスイッチを入れる。

「……わかった。だが、俺が先に行く。二人は後ろを離れるな」


三人は再び、森の奥へと足を踏み入れた。

夜の闇が、まるで生き物のようにまとわりついてくる。


やがて、祐真の耳に──微かな鈴の音が届いた。


「……この音……」

20年前と同じ、あの秋の日に聞いた音だった。


「お姉ちゃんが呼んでるの」──美桜の声が、記憶の奥から蘇る。


森の奥で、赤い光がまたひとつ灯った。

それは祠のある方向。

呼ぶように、誘うように。


祐真は拳を握った。

「行こう……あの祠の“正体”を確かめる」


春香と美奈は頷く。

三つの光が、夜の森に吸い込まれていった。


そして、森の奥で何かが微かに笑った。

それは人の声にも、風の音にも聞こえた。


> ──おかえり。



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