第42話 罪の記憶
──夕暮れの川辺。
祐真の足首を、冷たい水が掴んでいた。
いつの間にか川は膝まで迫り、流れは強く、彼の身体を向こう岸へと引きずろうとしている。
向こうには幼い美桜が立っていた。
薄桃色のワンピースが風に揺れ、あの日と同じ笑顔を浮かべている。
「祐真おにいちゃん……早く来て。あの子も待ってるから」
美桜の隣には、もう一人の影が揺れていた。
長い黒髪に浴衣姿──紅葉だ。
「……お兄ちゃん、私もいるよ」
二人が手を差し伸べる。
だが、祐真の胸は鋭く痛み、呼吸が苦しくなる。
──そうだ。自分は、あの日。
「……俺が……目を離したから……」
二十年前、彼は美桜と遊んでいた。
声に誘われて石碑に手を伸ばす彼女を止められなかった。
ただ呆然と見ていただけで、次の瞬間には消えていた。
「俺は……お前を守れなかった……」
川の流れが強まり、足元の泥が崩れていく。
罪悪感が全身を縛り、心臓を締めつける。
「また……同じことを繰り返すのか……紅葉も、俺が……」
その時──耳に届いたのは、現実の森からの声だった。
「祐真さん!!」
それは春香の必死の叫びだった。
「あなたは悪くない! あの日、美桜は“呼ばれた”の! 誰のせいでもない!」
次に美奈の声が重なる。
「紅葉を助けたいなら、今ここで立ち止まらないで!」
声が川辺の幻覚に響き渡り、景色が揺らいだ。
夕暮れの空がひび割れ、赤黒い影が水面から這い出そうとする。
「……そうか……」
祐真は唇を噛み、握りしめた拳を震わせた。
「俺はずっと罪に縛られてた。でも……守れなかったからこそ、今度は守らなきゃいけないんだ!」
その瞬間、川の中に沈んでいたはずの足が解放され、水流が霧散した。
幻の美桜と紅葉の姿は悲しげに揺らぎながらも、祐真を見つめて微笑んだ。
「……ありがとう……」
声が消え、幻覚は崩れ落ちる。
祐真は荒い息を吐きながら、現実の森へと引き戻された。
──そこでは、春香と美奈が影の圧に押し潰されそうになりながら、必死に彼を呼び続けていた。
祐真の目に炎のような決意が宿る。
「今度こそ……俺が二人を、紅葉を、美桜を……救う!」
その声に応じるように、石碑の赤い光がさらに強く脈打ち、影が悲鳴を上げた。




