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紅葉-くれは-  作者: 菊池まりな


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第31話 禁忌の記録

夜のざわめきが落ち着いた後も、春香と美奈の胸には重苦しい疑念が残っていた。

紅葉が消えた理由。二十年前の美桜の失踪。そして、村の子どもたちを繰り返し襲った不可解な出来事。


「……やっぱり、調べるしかない」

春香が小さく呟くと、美奈もうなずいた。

「住職さんなら、何か知ってるかもしれません」


二人は夜道を並んで歩き、村の外れにある寺を目指した。石段を上ると、闇に包まれた本堂の明かりがかすかに見えた。


戸を叩くと、しばらくして古沢透が姿を現した。

深い皺を刻んだ顔は蝋燭の明かりに照らされ、不気味な陰影を帯びている。


「……橘さんか。こんな夜更けに」

「住職さん……どうしても、知りたいんです。美桜のこと、紅葉のこと、そしてこの村の……森のことを」


春香の切実な声に、古沢はしばし黙し、やがて二人を本堂の奥へと招いた。


畳の上に座らされると、古沢は古びた木箱を持ち出してきた。中には、黄ばんだ古文書や過去帳の束が収められている。


「……ここには、この村で記録された“失踪”の事例が残っている」

古沢の声は低く、重く響いた。

「美桜ちゃんの時だけじゃない。この村では、古くから“子どもが呼ばれて消える”出来事が繰り返されてきた」


春香の手が震えた。

「やはり……」


古沢は過去帳を開き、古い筆文字をなぞる。

「……享和三年、祭礼の夜に童子一名失踪。その後、発見されず」

「……大正十一年、秋祭りの夜、幼子二名行方不明」

「……昭和四十八年、同じく祭礼の晩に少女一名……」


美奈が思わず声を上げる。

「全部……祭りの夜……!」


春香は胸の奥が冷え切るのを感じた。

美桜も、紅葉も、例外ではなかった。


古沢は目を閉じ、低く告げた。

「“森の神”が、祭りの夜に子を求める……そう言い伝えられてきた。

 呼ばれた子は二度と戻らぬ。……それが、この村に伝わる禁忌じゃ」


「神……?」

美奈の声が震える。

「じゃあ紅葉は……神に奪われたっていうんですか?」


古沢は答えなかった。ただ、炎に照らされた顔に深い影を落とし、沈黙を保った。


春香は奥歯を噛みしめ、瞳を燃やした。

「……神だろうと何だろうと、紅葉は返してもらう」


その声は、恐怖を押し殺した母の決意だった。

だが、古沢の沈黙が暗に告げていた。

──禁忌を破る者には、更なる代償が待つのだと。



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