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紅葉-くれは-  作者: 菊池まりな


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第29話 疑念の声

人垣の中央で告げられた祐真の言葉は、重く、村全体を凍りつかせた。

──二十年前にも、同じことがあった。

その瞬間、春香の胸に鋭い痛みが走る。

「美桜……」無意識に娘の名を呟く。


彼の言葉の中に、長年求め続けてきた真実の断片が潜んでいる気がした。だが同時に、それは「なぜ今まで黙っていたのか」という新たな疑念を生む。


横に立つ美奈も、血の気の引いた顔で祐真を見つめていた。

「……駐在さん、どうして今になってそんなことを思い出したんですか?」

美奈の声は震えていた。恐怖と怒り、そして裏切られたような思いが入り混じっていた。


祐真は目を逸らし、短く言葉を繋ぐ。

「……ずっと、思い出したくなかったんだ。あの日のことを。俺にも……責任があるから」


春香の胸は激しく波打った。

──責任。

彼は何を知っている? 何を隠してきた?

娘を失った母として、祐真の沈黙は許しがたく感じられた。


「あなたは……知っていたのね? あの日、美桜がどうして消えたのか、本当は……!」

春香の声は張り裂けるように響いた。


周囲の村人たちも息を呑み、空気が一層重く沈む。

美奈がそっと春香の腕を支え、震える声で言った。

「紅葉が……紅葉まで同じように“呼ばれた”んだとしたら……。

 祐真さん、あなたは最初から……この森のことを知っていたんじゃないですか?」


祐真は答えなかった。答えられなかった。

沈黙が何より雄弁に「彼が隠しているもの」の存在を告げていた。


春香の胸に、怒りと絶望が渦巻いた。

「二度も……私の娘を……!」


夜の森から吹き込む冷たい風が、まるで彼女の嘆きを嘲笑うかのように木々を揺らした。

ざわざわと葉の擦れる音は、不気味な囁きに変わって、三人の耳にまとわりついた。


美奈は思わず春香の手を握りしめる。

彼女の心臓は激しく打ち、頭の奥で声が響く。

──紅葉も、美桜も、この森に呼ばれて消えた。

そしてそのすべてを、祐真は知っている。


疑念と恐怖が二人の胸を締めつけ、逃げ場のない闇の中へと引きずり込んでいった。


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