表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅葉-くれは-  作者: 菊池まりな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/154

第28話 駆け付ける影

村の広場に響くざわめきと、遠くから迫るサイレンの音。人垣を割って、制服姿の一人の若い警官が駆けつけた。

駐在所勤務の一ノ瀬祐真(28)。息を切らしながらも、鋭い視線で現場を見回す。


「皆さん、落ち着いてください! 一体何があったんですか!」


春香の震える声がその耳に飛び込む。

「……紅葉が……娘の紅葉が、森に……呼ばれて……!」


その言葉に祐真の心臓がどくりと跳ねた。

「呼ばれて」という響きが、脳の奥に封じ込めていた記憶を揺さぶる。


ざわめく村人たちの間から、美奈が進み出た。

「駐在さん……紅葉は、私の親友なんです。森に入って、戻ってこないんです……!」


祐真は頷き、冷静を装いながら現場の状況を整理しようとした。だが、春香の顔を見た瞬間、目の奥が灼けるような痛みに襲われる。


──20年前。自分もこの森で、数人の子どもたちと遊んでいた。

その中に、幼い春香の娘──橘美桜(3歳)がいた。


笑い声。落ち葉を踏みしめる音。

そして、不意に聞こえた「おいで」という囁き。

次の瞬間、美桜の姿は消えていた。


「……っ」

祐真は思わず額に手を当て、呼吸を乱した。

鮮明に蘇るあの日の空気。あの時、誰もが“遊びに夢中になっていただけ”と証言した。

だが本当は違った。確かに、美桜は“呼ばれた”のだ。


春香が駆け寄り、祐真の腕を掴んだ。

「祐真君……あなた、何か知っているのね? あの日のこと……美桜が消えた日のことを!」


村人たちの視線が一斉に祐真に注がれる。

彼は唇を噛みしめ、言葉を選ぶように低く答えた。


「……紅葉さんだけじゃない。二十年前にも、同じことがあった。俺は、その現場にいたんだ……」


ざわめきが広がる。

美奈が不安げに春香を抱きとめ、春香は蒼白な顔で祐真を見据える。


「美桜が……“呼ばれて”消えた、その真実を……思い出してしまったんだ」


祐真の言葉は、秋の冷たい夜風に乗り、重く森の奥へと溶けていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ