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紅葉-くれは-  作者: 菊池まりな


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第25話 森の分岐

闇の中、三人を包むように風が吹き抜けた。

ざわめく木々の間で、かすかに紅葉の笑い声がした気がして、美奈は背筋を凍らせた。


「……紅葉?」


思わず声をかけるが、返事はない。

代わりに、笛の音が応えるようにひときわ強く響き渡った。


古沢住職が眉をひそめる。

「近い……呼び声が強まっている」


春香の目が爛々と光る。

「近いなら行かなきゃ……紅葉を連れ戻さなきゃ!」


「待ちなさい、橘さん」古沢が声を低くした。

「その呼び声に従って進めば、あなたも娘さんと同じ場所へ引きずり込まれる。二度と戻れぬ可能性が高い」


「分かっています」春香の声は震えていた。

「でも……母親が子を諦めてどうするんですか」


その一言に、美奈は胸を締め付けられた。

祭りの夜、紅葉と一緒にいたのに、最後の瞬間を見届けられなかった。

(あの時、私が引き止めていたら……)

罪悪感が喉に絡みつき、声にならない。


古沢は、美奈の心を見透かしたように視線を向けた。

「君もまた、呼ばれている。親友として──いや、“証人”として。森はそれを利用する」


美奈は拳を握りしめた。

「でも、私は行きます。紅葉を放ってなんておけない」


春香が美奈の手を強く握った。

「ありがとう、美奈ちゃん……」


住職はしばし沈黙し、やがて重々しく頷いた。

「ならば……せめて心構えを。呼び声に囚われれば、己を見失い、幻に飲み込まれる。正気を保てるかどうかは、自分次第だ」


三人は森の奥へと進む。

足元はぬかるみ、月明かりは木々に遮られ、光はほとんど届かない。

それでも、笛の音と、紅葉のような囁きが道しるべとなっていた。


──ここだよ。

──お母さん。

──美奈……助けて。


声は甘く、懐かしく、二人の心を抉った。

だが同時に、それが“本物の紅葉”かどうかは誰にも分からない。


森が裂けるように開けた場所に出ると、そこには分かれ道があった。

右の道からは紅葉の笑い声、左の道からはすすり泣く声が聞こえる。


春香が動けずに立ち尽くす。

「紅葉……どっちなの……」


美奈は唇を噛んだ。

一歩間違えば、森に喰われる。

だが、選ばなければ紅葉を失ったままだ。


古沢の声が響く。

「──ここから先は、あなた方が決めるしかない」


沈黙の中、風が強まり、紅葉の名を囁く声が二つに分かれて彼女たちを誘っていた。



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