表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅葉-くれは-  作者: 菊池まりな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/154

第24話 呼ばれし理由

闇は、夜の森を静かに侵食していた。

秋祭りの賑わいが嘘のように消え、ざわめきも笑い声も、ここには届かない。


氷川美奈は、足を止めて深呼吸した。

心臓の鼓動が早すぎて、呼吸が乱れている。

──紅葉を探さなきゃ。

その一心でここまで来たが、森の奥に踏み入るごとに、自分がなぜ導かれているのか分からなくなっていく。


ふと、風に混じって聞こえた。

歪んだ笛の音。

秋祭りの囃子に似ているが、調子外れで、不気味に伸びては途切れる旋律。


(紅葉……)


美奈の耳元に、誰かの囁きがした。

──こっちだ。

紅葉の声に似ていた。だが、確信は持てない。

足は自然と、囁きに導かれる方向へと進んでいた。


その先に現れたのは、見覚えのある人影だった。

「……美奈さん?」


松明の明かりに照らされたのは、古沢透住職だった。

彼もまた、この森に足を踏み入れていたのだ。

「あなたも呼ばれたのですか」

「呼ばれた……?」


古沢の眼差しは、どこか諦観を帯びていた。

「秋祭りの夜、この森は“誰か”を呼ぶ。失われた者を求める人間を。……そして、連れていく」


美奈は息を呑んだ。

「紅葉がいなくなったのは……そのせいですか?」

「……分からない。ただ、20年前に失われた子どもも、同じ秋祭りの日だった。君の友人だけが例外ではない」


古沢の言葉に、美奈の頭に冷たい霧が広がった。

「じゃあ、紅葉は……」


「生きているかもしれない。だが、その呼び声に応えた者は、皆帰ってこなかった」


そのとき、背後から枯葉を踏む足音がした。

振り向くと、そこに立っていたのは春香だった。

紅葉の母。

乱れた髪も気にせず、必死の形相で美奈に駆け寄る。


「美奈ちゃん……紅葉を見たのね?」

「……はい。でも、すぐに……」


春香の震える手が、美奈の肩をつかんだ。

「教えて。紅葉はどこにいるの。──あの子を呼ぶ声が、私にも聞こえるのよ」


笛の音がまた、森に響いた。

今度は三人の耳に、はっきりと。


古沢は低くつぶやいた。

「……やはり、あなた方母娘は“選ばれた”のだ」


美奈は、喉が渇いて声が出せなかった。

紅葉が消えたのは偶然じゃない。

──この森に“呼ばれる理由”が、紅葉にはあった。


そしてその影は、いま、美奈と春香にも迫っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ