第20話 封じられた記憶
夜更けの本堂に、再び集まった面々。
住職・古沢透の低い声が、蝋燭の炎に揺れる空気を切り裂く。
「……橘家が抱えてきた因縁。祐真、そして春香。お前たちが立ち向かうべきものは、この村に根を張った“記憶の封印”なのだ」
その言葉に、春香は唇を強く噛んだ。
彼女の脳裏に、幼い日の記憶が断片的に浮かぶ。秋祭りのざわめき、紙灯籠の光、そして森へと駆けていった小さな背中──。
「……美桜……」
掠れた声で、春香は妹の名を呼んだ。
だが次の瞬間、胸を締めつける痛みに思わず頭を押さえる。記憶の奥に潜む何かが、強引に彼女を拒んでいる。
氷川美奈が慌てて肩を支える。
「春香さん、無理しないで……!」
古沢透は目を細め、ゆっくりと経を唱えはじめた。すると本堂の空気がわずかに緩み、春香の呼吸が落ち着いていく。
「記憶は力だ。しかし、同時に呪いにもなる」
古沢は深い声で続ける。
「橘家の娘──美桜が森で消えた日。秋祭りでくれはを失った日。二つの喪失は“結界”として積み重なり、この村を縛っている」
祐真は目を閉じ、心の奥底でその言葉を反芻した。
彼がこの事件に執着してきた理由。幼い頃から、失われた子どもたちの影が自分の人生の背後に潜んでいた。
彼の罪悪感は「守れなかった者がいる」という、理由なき自責と結びついていたのだ。
「だから、俺は──見届けなきゃならないんだ」
祐真の声は震えていたが、確かな決意が宿っていた。
春香は彼を見つめる。その瞳には、不安と同時に微かな光が揺れている。
「祐真さん……私も、一緒に行きます。逃げたくないんです。美桜のことも、くれはのことも。全部、向き合いたい」
美奈も小さく頷いた。
「私も。……怖いけど、もう知らないふりはできないから」
三人の姿を前に、古沢透は静かに目を閉じた。
やがて、僧侶らしい深い呼吸のあとに言葉を落とす。
「ならば“封じられた記憶”を開くときが来た。森の奥、あの祠の前で。だが──覚悟せよ。そこに現れるのは、ただの思い出ではない」
蝋燭の炎が一瞬揺れ、闇が深く迫る。
その夜、三人は次に訪れる“対峙の場”へ進むことを決意した。




