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紅葉-くれは-  作者: 菊池まりな


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第14話 目覚め

祐真は荒い息をつきながら目を覚ました。

 天井の木目が視界に映る。どうやら宿舎の自室に戻ってきていたらしい。額には冷たい汗がにじみ、両手は震えていた。


 ──夢じゃない。

 いや、夢ではあったのかもしれない。だが、あの鎖の痛みも、少女の声も、胸に残る現実そのものだった。


 身体を起こすと、窓の外で人の声がした。

 祐真はカーテンを開け、庭先に目をやる。そこには春香の姿があった。

 彼女は誰か少女と話している。


 その少女は長い黒髪を肩に流し、制服姿のまま立っていた。

 年の頃は十七。くれはと同じくらいだろう。

 少し青白い顔色に、どこか影を落とした眼差し。


 祐真は無意識にドアを開け、外へ出た。


「──氷川美奈さんだよ」

 春香が紹介する。

「町の高校に通っているんだけど、最近どうも森に引き寄せられるみたいで……心配でね」


 美奈は祐真をちらりと見た。

 その瞳には恐怖と同時に、何かを知っているような色が宿っていた。


「……あの森、声がするんです。

 夜になると、名前を呼ばれているみたいで……私、行っちゃいけないってわかってるのに」


 震える声に、祐真の背筋が粟立つ。

 ──自分だけではない。この町に住む者が次々と森に囚われていく。


 その時、低い声が割って入った。


「森の呼び声は、ただの風ではない」


 振り向けば、古沢透住職が立っていた。

 僧衣に包まれた姿は以前と変わらぬ落ち着きを放っていたが、その目は一層険しくなっている。


「また始まったのだよ。二十年前と同じように」

 古沢の言葉に、春香は顔を強張らせた。

 彼女が二十年前に娘を失った出来事。その影が再び忍び寄っているのだ。


 古沢は美奈をじっと見据え、祈るように合掌した。

「この子を、森に渡してはならん」


 春香は美奈の肩を抱きしめる。

「……あの時のようには、させない」


 祐真は静かに拳を握った。

 精神世界で見た少女の声が、再び耳に蘇る。

「今度こそ──」


 紅葉の森は確実に、次の犠牲を求めていた。



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