第13話 鎖の影
紅葉が血のように降りしきる世界の中、祐真はなおも膝をついたまま、息を荒げていた。
鎖は影から伸び、彼の足首に食い込んでいる。その冷たさは、金属の感触というより氷のようで、じわじわと彼の体温を奪っていった。
立ち上がろうとしても、鎖が強く引き戻す。
耳元で低い声が囁いた。
「どこへ行く? お前に未来はない」
その声は紛れもなく祐真自身のものだった。
振り返れば、そこに立っているのは若い頃の自分。まだ事件に理想と正義を抱き、無謀に突き進んでいた頃の祐真だった。
だが、その表情には怒りと失望、そして憎悪が宿っていた。
「お前は何一つ救えなかった。少女を見殺しにし、家族を苦しめ、ただ罪悪感に浸って逃げてきた」
影の祐真は冷笑を浮かべた。
「それでもまだ、この町の呪いに首を突っ込むつもりか? 哀れだな」
祐真は唇を噛みしめた。
彼は反論しようとしたが、言葉が出てこない。
──確かに、あの時救えなかった。あの失敗は事実であり、逃れられない傷だった。
鎖がさらに強く締まり、骨が軋む音がした。
痛みに顔を歪めると、影の祐真が歩み寄ってきて、耳元で囁いた。
「認めろ。お前は弱い。誰ひとり救えない」
その瞬間、紅葉が舞い散る空間に別の声が割って入った。
それは、失われた少女のか細い声。
「……助けて、祐真さん」
祐真は顔を上げた。
紅葉の奥に、再びあの少女の姿が見えた。白いワンピースは赤に染まり、瞳は悲しみに濡れている。
その視線が、彼の心を貫いた。
「俺は……」
声が震える。
「俺は、あの時救えなかった。でも、今度こそ……」
影の祐真が嘲笑する。
「今度こそ? 何度同じ言葉を繰り返す? お前の決意なんて、鎖より脆い」
鎖がさらに締まる。
祐真は苦悶の声をあげ、床に崩れ落ちた。
そのとき、彼の掌に熱が宿る。
血で濡れた手のひらが、わずかに光を帯びていた。
その光は暖かく、鎖を少しずつ解かしていく。
「……俺は、逃げない」
祐真は低く呟いた。
「この呪いの真実を暴く。それが、俺にできる唯一の償いなんだ」
影の祐真は一瞬、動きを止めた。
だが次の瞬間、鋭い笑みを浮かべ、闇となって紅葉の中に溶けていった。
足首の鎖は消え、祐真はゆっくりと立ち上がる。
彼の視線の先には、まだ少女が立っていた。
だが今度は、涙を浮かべながらも微笑んでいた。
その姿に導かれるように、祐真は再び歩き出した。
──自分の罪と向き合いながら、この森の闇へと。




