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紅葉-くれは-  作者: 菊池まりな


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第11話 心の檻

森での調査が一段落したその夜、祐真は宿舎のベッドに横たわっていた。

 しかし眠気は訪れず、代わりに胸を締めつけるような痛みが押し寄せてくる。


 ──まただ。


 目を閉じた瞬間、彼は自分の「内側」に引きずり込まれていった。

 そこは暗い廊下だった。壁も天井も曖昧で、ただ濃い影と冷たい空気が広がっている。


 足音が響く。

 振り返ると、過去の自分が立っていた。まだ二十代前半、捜査に血走っていた頃の祐真だ。

 その目には焦燥と怒りが宿っている。


「お前はまた同じことを繰り返すのか?」

 若い祐真が、低く問いかけてくる。


 胸に鋭い棘が刺さったような痛みを覚え、祐真は言葉を失った。


 ──あの事件。

 守れなかった少女。救えなかった命。

 彼の心に焼き付いた失敗は、時を経ても色あせることはなかった。


 廊下の奥から、少女の声が響く。

「どうして、助けてくれなかったの……?」


 祐真の足は鉛のように重く、声のする方へ一歩も進めない。

 手を伸ばしても届かない。


 罪悪感の濁流が押し寄せ、彼を溺れさせる。

 なぜ自分はこの事件に執着するのか。

 ──答えはわかっている。

 もう二度と、同じ後悔を繰り返したくない。

 それだけが、彼を突き動かしていた。


 だが、過去の自分が再び囁く。

「執着は、ただの逃げじゃないのか? 本当に救いたいのは誰だ?」


 祐真は言葉を詰まらせ、暗闇の中で立ち尽くす。

 やがて廊下の先に扉が現れた。

 重く黒い扉。その向こうに進むことを、彼の心は拒んでいた。


 ──逃げてはいけない。

 しかし、扉を開ける勇気もない。


 祐真は両手で顔を覆った。

 自分の弱点、それは「過去を赦せないこと」。

 それこそが、彼をこの事件へと縛りつけていた。


 気づけば、彼は汗に濡れてベッドの上で息を荒くしていた。

 深夜の静寂の中、祐真はひとり、心の檻に囚われたまま、目を閉じることもできずにいた。



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