表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅葉-くれは-  作者: 菊池まりな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

110/154

第109話 森へ誘う鈴音(二)

チリン……チリン……。


 森の奥で鳴る鈴の音は、誰かが小走りで揺らしているような、断続的で不規則な響きだった。

だが、風はまったく吹いていない。

木々は沈黙し、世界が息を潜めているように静まり返っている。


「……おかしいよ……紅葉、鈴なんてつけてなかった……」

美奈が震える声で呟いた。


 それは事実だった。

紅葉には特に鈴のアクセサリー類をつける習慣はない。

なのに、ここ数日、森ではたびたび“鈴の音”が聞こえる。


「紅葉が鳴らしてるんじゃないとしたら……誰が?」

春香の声はかすれ、森の暗闇に吸われていった。


 祐真はゆっくりと息を吐き、二人を庇うように前へ立った。

「とにかく……森の奥に何かいるのは確かだ。行くしかない」


「待って、祐真くん。危険よ。今は……」


「春香さん。

 もしあれが紅葉さんなら、時間を置く方が危ない気がします」


 その言葉に、春香の心の中で何かがひび割れた。

恐怖と希望がごちゃまぜになり、胸の奥から込み上げてくる。


「……紅葉、なの……?」


 森の奥から、再び鈴の音。


──チリン……チリ。


 そのあとに続いて、小さなささやきのような風の声が混じった。


(……こっち……)


 美奈が春香の腕に爪が食い込むほど強くしがみつく。

「聞こえた……? ねえ、今の……」


 祐真は眉を寄せた。

「俺には……かすかに、何か……」


 美桜が消えた日の夕暮れ。

森の中から聞こえた、小さな女の子の呼ぶ声。

“ゆうま、おいで”

あの日の記憶が、胸の奥でざわりと蠢いた。


(違う……これは美桜じゃない……誰だ?)


 祐真は頭を左右に振り、思考を断ち切るように深く息を吸った。


「行こう。ゆっくりでいい。離れないでください」


 三人は社の裏手から細い獣道を進んだ。

土は柔らかく、さっきの掘り返された穴のように、人の手か何かが触った気配があちこちに残っている。


 暗闇の中で、何かが足元を横切った。


「きゃっ……!」

美奈が身体を跳ねさせる。

祐真がすぐ見下ろす──だがそこには、落ち葉しかなかった。


「……何もいない。気のせいだ」


 そう言いながらも、祐真の声は僅かに固かった。


 森の奥へ進むにつれ、空気が冷たく、湿り気を帯びていく。

視界の端で影が揺れた気がするたび、春香の背筋が震えた。


「祐真くん……何か、気づいてるの?」

春香が恐る恐る問う。


 祐真は少しだけ黙ったあと、囁くように言った。


「……この森、最近、人の出入りがある。

 紅葉さんが失踪した“前”からも、誰かが……動いていた」


「誰かって……村の人?」

美奈が怯えた目で尋ねる。


「わからない。でも……」


 祐真は足元の土を指さした。


 そこには、複数の靴跡が重なりあい、形を歪めていた。

大人のもの、そして──

小さな足跡も混じっている。


「これ……紅葉の?」

春香の声は震え、涙を堪えているようだった。


「いや……紅葉さんよりもっと小さい。子どもだ。

 しかも……ひとりじゃない」


 春香と美奈の息が止まる。


「ねえ、祐真くん……それって……」


「二十年前に消えた子どもたちの足跡に……似てる」


 森の奥で、再び鈴の音が響いた。


チリン……チリ……ン。


 その音は、先ほどより確かに近く、そして──

どこか楽しそうでさえあった。


 祐真は奥の闇へ目を細める。


(俺たちを、誘ってる……)


「行くぞ。ここからは気を抜かないで」


 三人は互いに手の届く距離を保ちながら、森のさらに奥へと踏み込んでいった。


 その背後で、誰も触れていないはずの社の扉が──


ギ……ギィ……


 ひとりでに閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ