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紅葉-くれは-  作者: 菊池まりな


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第108話 森へ誘う鈴音

祐真が森へ向けて踏み出した瞬間、春香は強く首を振り、その腕をさらに強く掴んだ。


「ダメ……! 祐真くん、今行ったら……戻れなくなる……!」


 春香の声はひび割れ、恐怖で震えていた。

美桜を失ったあの日の記憶が、まざまざと蘇ったのだ。


 その一方で、美奈は背後を何度も振り返りながら、言葉にならない声を漏らしていた。


「……でも……紅葉、かもしれないんだよ……?

 助けなきゃ……私たち……」


 震える指が社裏の暗がりを指し示す。


 チリン……チリ……


 風もないのに、再び鈴音が響いた。

今度ははっきりと、三人のすぐ近くからだ。


 祐真が懐中電灯を素早く構え、音の方向へ光を向ける。

しかしそこには何もない。


 ただ、落ち葉の絨毯に、ぽっかりと“人が踏んだ形跡”だけが残されている。


 春香が息を飲んだ。

「……この足跡……紅葉の靴と同じ……?」


 美奈は震える声で言った。

「見覚え……あります。今日、学校で一緒に帰った時……」


 祐真は黙って跡をしゃがんで確認した。

新しい。つい最近――いや、ほんの数分前に残されたもののようにすら見える。


「紅葉が、ここに“いた”……?」


 その言葉を呟いた瞬間。


 落ち葉の奥──森の闇のさらに向こうで、ふっと影が動いた。


 三人とも、その場で固まった。


 影はゆっくりと、ぎこちなく揺れながら奥へ進んでいく。


「……人……?」

「紅葉……じゃ……ない……よね……?」


 姿はシルエットだけ。

けれど、その体つきは紅葉よりもずっと小さく見えた。


 まるで──三歳児くらいの背丈。


 春香の呼吸が止まる。


(美桜……?)


 心臓が痛いほど脈打ち、足が震える。

美奈が春香を支えようとしたが、美奈の手自体も氷のように冷えていた。


 影は足を引きずるように数歩進み──

ふいに振り返った。


 光が届かないはずの森の奥で、影の“顔の位置”だけが、不気味に白く浮かび上がった。


 祐真の喉がひきつるように小さく震えた。


「……っ、嘘だろ……そんな……」


 白い“顔”──否、顔のように見えるただの“白い面”。

そこには目や口があるように見えるが、光の反射なのか、実際に描かれたものなのか判別できない。


 だが確かに、三人を“見ていた”。


 チリン……チリン……


 その白い面が、細かく揺れるたびに、鈴の音が鳴った。


 美奈が限界に達し、口を押さえて泣きそうな声をもらした。


「……こんなの……紅葉のはずない……」


 春香は震える手で祐真の袖を掴み、必死に絞り出した。


「祐真くん……あれは……美桜じゃ……ないよね……?

 違うって言って……」


 祐真は返事をしない。ただ、硬直しながら影を見つめていた。


 影の“顔”がかすかに傾く。


 そして、闇の奥へ──ふっと溶けるように消えた。


 その瞬間。


 ポト……。


 影が消えた地面に、何かが落ちた。


 祐真が震える懐中電灯を向けると──


 それは、子ども用の古いヘアピンだった。

色は褪せているが、小さな花の形は残っている。


 春香がその場で崩れ落ちるように膝をついた。


「……それ……美桜の……。三歳のときに、いつもつけて……」


 祐真は奥歯を噛み締め、落ち葉に埋もれたヘアピンを拾い上げた。


 森の奥から、もう鈴の音はしなかった。


 だが、三人はわかっていた。

これは“呼ばれた”のだ。


 二十年前の美桜と──

秋祭りで消えた紅葉の運命が、いまひとつに集まりはじめていることを。


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