表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅葉-くれは-  作者: 菊池まりな


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

107/154

第106話 社裏の掘り返された夜(二)

風が止まった。森の空気が、誰かの気配を飲み込んだように冷たく沈む。




 春香は掘り返された地面の前で膝をつき、指先を震わせながら土をなぞった。


「……ここに、何があったの……? 紅葉は、ここで──」




 言葉の続きを飲み込みながら、祐真が静かに周囲へ目を配る。


「足跡が複数ある。……最近のものと、少し前のものが混ざってる。素人のやり方じゃないな」




 その横で、美奈は社の裏手を睨みつけたまま動かない。


「……紅葉、ここに来たんです。祭りの夜、あの日……『気になることがある』って言って。私、それ以上聞かなかった……」




 声が震える。


春香が顔を上げ、美奈の手をそっと握った。




「美奈ちゃん。あなたは悪くないわ。紅葉は元々、好奇心の強い子だったもの」




 美奈は唇を噛みしめ、首を横に振る。


「……違うんです。紅葉、言ってたんです。“あの声、まだするんだ”って」


「声?」


祐真が振り返る。




 美奈は胸の奥に押し込めていた記憶を掘り起こすように、ゆっくりと言葉を続けた。


「森の奥から女の人が呼ぶ声がする……って。誰にも言ってなかったみたいで……それを聞いたの、私だけで……」




 春香の表情が一瞬凍りつく。


「女の人……?」




 美奈は頷いた。


「……“おねえちゃん、いっしょにきて”って。紅葉、その声が“やめてくれない”って言ってて……」




 沈黙が落ちた。




 その瞬間、社の奥から、ひゅう、と風が抜けるような音がした。


三人とも反射的に身を強張らせる。




 祐真は手元の懐中電灯を握り直し、社の扉へ視線を向けた。


「……中、誰かいるかもしれません。近づかないほうが──」




 言い終える前に、ギィ……と、古びた扉が 内側から 少しだけ開いた。




 風ではない。


誰かが触ったような、確かな動き。




 春香が思わず美奈の手を強く握る。


美奈の肩が震え、祐真は咄嗟に二人を庇うように前へ踏み出した。




「……誰だ。そこにいるのは──」




 答えはなかった。




 ただ、闇の奥からにじみ出る気配だけが、ゆっくり──ゆっくりと三人の方へ滲み寄ってくる。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ