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壊れた扉:二つの世界の間に立つ半神の戦士  作者: Adolfo
第2章:「残された光」
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第1章:起源のこだま

開かれるだけではなく…壊される扉もある。

そしてそれが壊れるとき、漏れ出すのは秘密だけではない。運命が解き放たれ、古の記憶が目覚め、神々さえ名を口にできぬ力が解き放たれるのだ。


これは、二つの世界の間に生まれた一人の少年の物語。

肉体と魂の子、時と空間を超えた神聖な血筋を持つ、ひとりの人間の女性から生まれた少年。その名はロベルト。人の涙に迎えられて生まれた彼だが、その魂は誕生よりも遥か昔、星と影のあいだをすでに歩んでいた。


力と約束に刻まれたロベルトは、もはやただの子供ではない。

彼は、物質世界と霊的世界を繋ぐ、生きた裂け目。

警告であり、希望でもある。

壊れた扉…

本来ならば、決して開いてはならなかった扉。


信仰が薄れ、世界の均衡が見えぬ糸に吊るされている今、古の守護者たちが目を覚まし始めている。忘れられた霊たちは見守り、隠された敵はその時を待つ。無力な子供が、やがて二つの世界の運命を決する戦士へと成長するその瞬間を。


この物語は、彼の歩む道である。

どんな犠牲を払ってでも彼を守ると誓う母の道。

姿はなくとも、太古より彼を見守る父の道。

そして、遺された力の重荷と、自らの意志の力の間で選ばなければならない少年自身の道。


なぜなら、最も偉大な戦いは、自らの内にあるから。

そして最も危険な扉とは…二つの世界を繋ぐ扉なのだから。






2003年5月16日、曇り空の午後3時33分、世界霊的界で、そして物理的世界でも、最強の男がこの世に生まれた。

風はプエブラ市の質素な病院を取り囲む木々の葉を激しく揺らし、まるで自然そのものがこの特別な出来事を見届けようとしているかのようだった。遠くで雨が降り始め、神聖な雰囲気が辺りを包み込んでいた。


産室で、ソフィアは新生児ロベルトを抱きしめていた。その身体はほとばしる光に包まれ、空気が揺らぐほどだった。医師たちは言葉にならない驚きを隠せずにいたが、疲れているにもかかわらずソフィアは深い安堵と説明しがたいつながりを息子に感じていた。


そのとき、老いた先住民の司祭が急を告げられ病院に招かれた。入室するや否や、その目はすぐに赤ん坊に注がれ、部屋には敬虔な静寂が訪れた。


「彼だ」と、その司祭は重々しい落ち着いた声で言った。「二つの世界の息子が今宵この地に生を受けたのだ」


ソフィアは涙に濡れた目で見つめ、困惑と恐れを隠せなかった。

「どういう意味ですか? この子は一体…?」と震える声で問いかけた。


司祭はゆっくりと歩み寄り、しわだらけの手をロベルトの小さな胸にかざした。

「この子は普通の赤子ではない。古の神々と戦士たちの力が血に流れている。我々の世界と霊的世界の架け橋だ。その使命は両界の均衡を変える可能性を秘めている」


ソフィアは赤ん坊をより強く抱きしめながら理解しようとした。

「でもなぜ彼なのです? なぜ私の子が?」


司祭は目を閉じ、古代の幻視を思い返すかのように語り始めた。

「彼は我々の族の戦士・指導者イツコアトルの血を継ぎ、遠いギリシャの血統——忘れ去られた力と秘密を宿す血筋をも引き継いだ。彼は半神、両界の融合体であり、その到来は見逃されなかった」


ソフィアはロベルトを眺め、その幼い身体が病室の薄明かりにうっすらと輝いているのを感じた。

「彼の命は危険にさらされるのでしょうか?」と声を震わせた。


司祭は穏やかに微笑んだ。

「いいえ、母よ。しかし備えなければならない。彼は重大な責務を担い、我々の想像を超える力と向き合うことになる」


ソフィアは恐怖と誇りが入り混じった顔で応えた。

「私は彼を守るために全力を尽くします」


司祭は厳かにうなずいた。

「その道を開こう。彼の物語は今、始まったばかりだ」


司祭は再び小さなロベルトを見つめ、そのオーラはまるで宇宙の心臓のように優しく脈打っていた。

「ソフィア、もうひとつ知らせねばならない」


彼女は期待するように息子を抱きしめ直し、頷いた。

「彼が満18歳になったとき、内なる力は完全に姿を現すだろう。それまではまだ微弱にしか感じられないエネルギーだ」


ソフィアは背筋に冷気が走るのを感じながら赤ん坊を胸に寄せた。

「それが訪れたら、どうなるの?」と恐れと希望が交じり合った声で尋ねた。


司祭は空気を吸い込んで、言葉を選んだ。

「正しい訓練、導きと規律がなければ、その力は彼を構成するすべてを飲み込んでしまうかもしれない。制御なき力はすべてを破壊する」


ソフィアは喉に固まりを感じた。

「じゃあ、どうすればいいの? どうすれば彼を守れるのでしょう?」


司祭は彼女の肩にそっと手を置き、その目には何世紀もの知恵と犠牲が映っていた。

「霊の指導者、古の守護者たちを探しなさい。彼らがその力を扱う道を教えてくれるだろう。だが知っておくべきことがある…この世には、ロベルトよりもさらに強力なエネルギーを持つ人間や存在がいる」


ソフィアは眉をひそめ、不安そうに尋ねた。

「そんなことが? ロベルトより強い存在が?」


司祭はゆっくりとうなずいた。

「そうだ。彼らの多くは生涯をその力の探求に捧げ、我々の理解を超える限界を破ってきた。未来においてロベルトはいわば、それら隠された巨人たちと向き合うことになる。その戦いは両界の運命を決するだろう」


ソフィアは視線を伏せ、息子を守る責任に圧倒された様子だった。

「もし準備できていなかったら…"と囁いた。"もし制御できなかったら?」


司祭は彼女の肩に優しく、かつ力強く手を置いた。

「そのときは、均衡が崩れ、霊的世界も物理的世界も混乱に陥る。だからこそ、今、全力で守り、鍛えなければならない。力だけでなく、心と精神も強くするのだ」


ソフィアは深呼吸し、決意を固めた。

「愛で……愛で守ります。躊躇しません」


司祭は敬意を込めて彼女を見つめた。

「それが最初の一歩だ。真の強さは力ではなく、愛するものを守ろうとする意志と、正義を貫く叡智に宿る」


ソフィアは心配を湛えた目で司祭を見つめた。

「まず何をすれば? どこから始めれば?」


司祭はため息をつき、毅然と答えた。

「彼の霊を護りなさい。幼少期を大切に育てなさい。謙虚と正しさの価値を教えるのです。時が来たら霊的守護者たちの下で彼を訓練しなさい。今は、なにより愛が彼の最強の防盾となる」


ソフィアはうなずいた。

「必要なことは何でもします。息子は守り、使命を全うできる存在にします」


司祭は悲しみと希望の入り混じった微笑みを返した。

「そのとおりです。この世界と、そう霊的世界も、彼を必要としている」


司祭は深呼吸し、穏やかな敬意をもってゆっくりと語り始めた:

「ソフィア、ロベルトがこの世界に生まれたのは彼の物語の一部にすぎません。25年以上前に彼の魂は霊的世界にて神聖な目的とともに転生していたのです。そしてその使命が今、この地上で姿を現し始めている」


ソフィアは額に皺を寄せながら息子をさらにしっかり抱きしめた。

「それはどういうことですか? 霊的世界での両親は? 彼の血統の本当のルーツは?」


司祭はゆっくりとうなずき、古代のヴィジョンを呼び覚ますかのように語った。

「彼の霊の母はアマヤ。日本に伝わる守護者で、自然に宿る霊との深い結びつきをもっていた。彼女は我々と霊の世界の間の均衡を守るために生涯を捧げた。その慈悲と使命の意識をロベルトは受け継いでいる」


ソフィアは唾を飲み込みながらその言葉を胸に刻んだ。

「父は…?」と彼女は問い詰めるように続けた。


司祭は彼女の胸にそっと手を置き、力を分かち合おうとするように見つめた。

「父はギリシャの伝説の英雄、ヘラクレスだ。圧倒的な力と十二の功業で知られる彼からは、強靭な体力と不屈の精神、どんな困難にも立ち向かう勇気を受け継いでいる。両方の血統が混ざることで、ロベルトは文化、世界、力の架け橋となる運命を秘めた唯一無二の存在だ」


ソフィアは誇りと畏怖の入り交じった感情に包まれた。

「では霊的世界での彼の身体はどう描かれているのでしょうか?」


司祭はかすかに笑みを浮かべた。

「想像してごらんなさい。身長ほぼ二メートル近く、筋骨隆々の運動能力に優れ、俊敏でパワフルな動きをこなす身体。皮膚はメキシコの陽の色と、日本の霊性を纏った独特の褐色で、光を受けて白黒の煌めきを放つ。整えられた髭をたくわえ、その身体には古代の護符を刻んだ入れ墨があり、闇の力から彼を守っている。それが彼の霊の姿であり、両界の最強の男として知られているのだ」


ソフィアは愛おしそうにロベルトの腕を撫でた。

「その師は誰? 彼の成り上がりの導きをした人は?」


司祭は尊敬を湛えた低い声で囁いた。

「日本の伝説的な武士、タケシだ。霊的・武術的な知恵の達人であり、エネルギーの制御と均衡の重要性をロベルトに教えた師であり、父のような精神的存在であった。彼がロベルトを鍛え正義ある存在へと導いたのだ」


ソフィアは感情が溢れ、誇り、恐れ、希望、そして責任に押し潰されそうになった。

「赤ん坊とはいえ…何世紀にもわたる物語と使命が内に宿っているのですね」


司祭は厳かなうなずきを見せた。

「そうです。そしてソフィアよ、あなたはこの世界でその物語の守り手。あなたの愛と育みと導きが、彼を知恵ある強者に育て上げる。そうしなければ、その力は呪いとなる」


ソフィアは唇を噛みしめ決意を込めた。

「そのようにはさせません。彼に自分が誰で、どこから来て、何のために来たのかを知ってほしい」


司祭は彼女の肩に手を置き、力強くうなずいた。

「それこそ、両界を救うための第一歩。真の力は意志と知恵、そして愛の中にあるのだから」


ソフィアは眠る息子を見つめ、囁いた。

「あなたを守る。そしてあなたが守る者になる存在へと導く」


司祭はゆっくりと一歩退き、病室を去った。

外の風は相変わらず木々を揺らしていたが、今はそれが始まりのこだまのように感じられた。


ソフィアは深く息を吸い込み、不安を抱えながら尋ねた、

「タケシは今どこに? 彼に会うにはどうやって…?」


司祭は立ち止まり、数秒の静寂の後穏やかに振り返った。

「タケシは霊の世界に残っている。日本の山々に隠された聖域に在り、古い結界と霊的守護によって守られている。そこへ辿り着けるのは正しいエネルギーと目的を持つ者だけだ」


ソフィアの額には再び深い皺が寄った。

「どうやってロベルトがそこへ行くの? 両界を越えるには?」


司祭は優しく説明した。

「彼が眠るとき、その魂は霊的世界へと渡る。しかしタケシに会うには、そのつながりを目覚めさせ、強化する必要がある。そのためには徐々に学びを進め、この世での訓練が魂の旅路を安全にする助けとなる」


ソフィアはゆっくりとうなずいた。

「では、いつまでに…?」


司祭は solemn に応じた。

「18歳になるまでに訓練を終えなければならない。そうでなければ彼は両界のエネルギーに迷い込むか、あるいは彼の力を利用しようとする者に捕らわれるかもしれない」


ソフィアは唇を固く結び、覚悟を胸に誓った。

「18年…それまでに準備します」


司祭の目に希望の光が宿った。

「そのとおり。この世界も霊的世界も、彼のために立ち上がる。あなたは第一線の守り手であり、鍵なのです」


ソフィアは息子を見つめ、囁いた。

「タケシに会えるよう彼を導きます。彼は歩むべき道を歩むでしょう」


司祭は尊敬と確信を伴って頷いた。

「そうです。その瞬間を信じなさい。ロベルトの運命は両界の均衡とともに始まったのだ」


司祭は最後にもう一度小さなロベルトを見つめ、記憶に焼き付けるように穏やかに一歩引いた。部屋を出ると、扉の軋む音がした。

ソフィアは息子を抱きしめ、ささやいた。

「ロベルト…あなたが何者であっても、私はあなたの母であり続ける。世界があなたを必要とする日が来ても…あなたはあなたでいられる」

均衡を揺るがした子供

星に覆われた空の下、メキシコ・ミステカ地方の山々は静かに眠っていた。まるで宇宙全体が息を潜めているかのように。

丘から吹き下ろす風は、もはや以前のものではなかった。風は囁いていた──物質世界と霊界の見えざる境界に目覚める何かの声を。


あの夜を境に、すべてが変わった。


周辺の村々では、老人たちが小声で語り合い、

動物たちは落ち着きを失い、

「贈り物」を持って生まれた子供たちは、かつて見えなかったものを見るようになった。

深夜の静寂の中、地面の石がかすかに震えた。

まるで古き名を思い出しているかのように。


──ロベルト。


まだ赤子でありながら、

彼の魂には、何千年もの重みが宿っていた。

その深奥には、人間を超えた何かの遺産が輝いていた。

太古の炎──

彷徨える神の印──

天上の戦士の記憶──


その泣き声は、もはやただの赤ん坊のものではなかった。

それは封印を打ち破る響き。

ため息の形をした咆哮だった。


ナワルたちが集まり始めた。

呪術師たちは、服従するか滅びるかの選択を迫られていた。

そして、均衡を守る者──影の中から見守る者たちが、

理解はできぬままに…

だが、確かに恐れていた力に導かれて、山々から姿を現し始めた。


扉が、開き始めていた。


祖母たちの昔話や忘れ去られた儀式に眠っていた神話が、

再びこの世界でその居場所を求め始めた。

天使と悪魔、谷に隠れる妖精、石と化した古の神々──

すべてが知っていた。


──一人の子が生まれたのだ。

この世界の「とばり」を破る力を持って。


そして、もしその霊的な真の姿を、

この物質世界で現す日が来れば──

もはや後戻りはできない。

裂け目が開き、現代文明の構造が崩れ、

隠されたものが可視の世界を歩き始めるだろう。


そのすべてを、屈服させ得る者は、

ただ一人。


──彼なのだ。


まだ言葉も話せない。

自分が何者なのかも知らない。

けれど、すでに彼の運命は刻まれていた。


そして両世界は──

彼を待っていた。

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