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それこれ

それはこれからの2

作者: なむ

前回の「それはこれからの」の続編となります。

もし興味がある方はよろしければそちらも読んでいただけると嬉しいです。

自己満足で書いているだけなのであまり面白くないですが、お付き合いいただければ嬉しいです。

ぴすぴすとなんとも間抜けな音でアルバムをめくる手を止めた。横に目をやると野生を失った動物が半分白目でしかもへそを天井に向ける形で寝ていた。あまりにもブサイクで愛らしいもう二度と見ることはできないと思っていた姿に自然と笑みがこぼれた。眠気や食欲といったものはないが感情だけはどうにもならない。テリーは賢い犬ではあるが退屈に耐えられなかったのだろう。しかしあんなに頼もしい愛犬が寝相だけはどうにも間抜けでそれがおかしくて自然と笑みがこぼれてしまう。

椅子から立ち上がり、横に座りお腹を撫でる。手のひらに温かさを感じ、夢の中でもテリーは撫でられているのか尻尾を振っている。しばらく撫でているとテリーが目を覚まし眠たげな眼でこちらを見ている。

「待たせてごめんね。少し休憩。」

そう伝えアルバムを脇に置きその場に座る。テリーはそれを待ってましたといった様子で膝の上に顎を置き、ゆっくりと尻尾を振って嬉しさを表現している。しばらく撫でているとテリーはまた眠ってしまった。次起きたら少し遊んであげようと考えつつ、撫でる手は止めずにアルバムをめくる。写真には学校の校舎や校庭なんかが写っている。年のころは小学生くらいだろうか特定の仲良しな友達でもできたのだろう、進むごとによく見る数人との写真が増えていく。どの写真もキラキラ輝いていて楽しそうな雰囲気が伝わる。公園でボールを使って遊んでいたり、学校行事にグループで楽しそうにしていたり、これは雨上がりだろうか泥まみれになりながら笑っている様子だった。だがとある時期を境に徐々に様子がおかしくなっていった。

空の靴箱・独りぼっちの家路・ボロボロになったノート・机の中のゴミ。

最初は悪戯程度のものが少しずつエスカレートしている様子だった。この先を見るのが怖い。吐き気もする。次のページを捲るのをためらい震えてた。

「ごめん…。ほんとうにごめん…。」

顔を上げると写真の中にいた気の弱そうな少女が苦しそうに胸を押さえ、涙を浮かべながら謝っていた。

「私がちゃんと止められていれば。ちゃんとそんなのおかしいよって言えなかったから。」

紗良(さら)ちゃん?」

自然とその名前を呼んでいた。そうだ。彼女は私と特に仲の良かった子で一緒にいる時間も長かった。

「いずるちゃんは何も悪くないのに、私本当に酷いことした。最初はちょっとした悪戯のはずだったのに周りも私もエスカレートしていって、気づいた時にはもう。」

そこまで言って嗚咽とともに堪えていた涙が流れ、顔を覆った両手の間から後悔の粒が零れていった。

私はどんな顔をしているだろう。喜び・狼狽・疑問自分が感じていた恐怖という感情が、一気に押し流され困惑していたが一言だけ言えた。

「どうして?」

「最初はね。ほかの子達がちょっと悪戯して困らせようって。それを隠れてこっそり見てやろうって。本当にそれだけだったの。私も面白そうと思って参加した。それが間違いだった。だんだんいじめみたいになっちゃって。一度だけもうやめようって言った時にはもう遅かった。誰も誰にも止められなくなっちゃってた!本当にごめんなさい!」

「そっか…。」

仲の良かった友達に裏切られ、その釈明をするためにわざわざ現れて本当にご苦労様という感情しか湧いてこない。私はもう何も言う気になれなかったが、向こうは必死に何かを伝えるためにしゃくりを上げながら続ける。

「赦されるわけないよね。当たり前だよね。私がしたこともされたことも当たり前だもん。でも神様は私にもう一度いずるちゃんに会うチャンスをくれた。伝えられないままいずるちゃんが引っ越しちゃったから私ちゃんと謝りたかったの。」

「待って。されたことって何?」

「いずるちゃんがいなくなった後…次は私だったの。そういえば裏切り者が一人いたよなって。」

よくある話だ。いじめのターゲットがいなくなったからじゃあ次は誰?きっかけは何だって良い。自分さえ良ければいいのだから。

「私、これは罰だって思ってた。一番仲の良かった友達をいじめただもん。辛いなんて思ったらダメだって、いずるちゃんの方がもっと辛かったんだって。でもね。耐えられなかった。」

「もういい!わかったから!」

これは聞いてはいけない予感がして声を荒げて止めようとした。

「ズルして逃げちゃったの。ダメだよね。人にしたことと同じことされて、自分の時は死ぬなん…て?」

紗良ちゃんを抱きしめた。今度は私が顔をぐしゃぐしゃにして泣いた。理解できてなかった紗良ちゃんも泣き出し、少し落ち着き始めたころにテリーが私たちを押し倒して二人の顔をベロベロ舐めてきた。

最初はびっくりしたが、自然と笑みがこぼれ完全に落ち着くことができた。テリーを挟む形で川の字になって寝ころんだまま話した。

「最後はその…痛くなかった?」

「わかんない。誰かが遠くで叫んでいるような声しか覚えてないの。いずるちゃんは?」

「何も覚えてない。紗良ちゃんが来てくれるまで自分自身の名前も憶えてなかった。今はあそこにあるアルバムを見てる。そしたらテリーと紗良ちゃんが来てくれて少しずつ思い出してる途中かな。」

「そっか。テリーはいずるちゃんに呼ばれたんだね。私は勝手に来ちゃったけど。最後のお願いが叶って本当に良かった。神様っているんだね。」

「そうかな?」

「そうだよ。ねっ?テリー?私ももう一度あなたに逢えてうれしいよ。」

紗良ちゃんに撫でられたお礼と言わんばかりに顔を遠慮なく舐めるテリー。アルバムにもよく出てくる構図だった。また一つこんな光景が見れてよかったと思う場面が増えた。自然と涙が零れる。

紗良ちゃんが私の手を取りこう言った。

「本当にごめんね。こんな私を赦してくれてありがとう。」

そう伝えるとふっと消えた。幻と思うほど一瞬だった。ふと手の中にあるものがあることに気づいた。青いおもちゃの指輪とネックレス。二人で買ったおもちゃ。二つ重ねると四葉のクローバーのデザインになるものだ。「これがある限り私たちはずっと友達だからね!」その言葉がよみがえる。胸に当て抱きしめるようにして静かに泣いた。テリーが鼻で手をぐいぐい押してくる。手を開いてみろと言っている感じだ。手のひらには赤の指輪が増えていた。赤の指輪もネックレスに通し二つの指輪を重ねて着けた。

「ずっと友達だよ。」

そう呟くと指輪が小さく光った気がした。

前回から読んでくれている方はいないと思いますが、もし奇跡的にいらっしゃったら本当にありがたいです。

今回のテーマとしては、「贖罪」でした。

それにしても紗良ちゃんの口調子供っぽくなさすぎたかなと思いましたが、そんなもんだと受け入れてください。

また時間ができたら続編を書くかもしれません。

手が空いていたらお手に取ってもらえると幸いです。

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