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夜会厄介 〜たまには薔薇も粉砕する〜  作者: そろまうれ
二章 フェダール国編
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ep.98 「お前は、仇だ」


睨みつける。

喉奥の笑いをこらえる様子は一切変わらない。


閉じ込められたという現実が、徐々にわたしの脳みそに染み入る。

この国で秩序マートに反すればどうなるかなんて、もうさんざん学んだ。


どれだけ魔力を凝らしたところで意味がない。

なにせ、この王にも効果があるくらいだ。この王はわたしの「客人として扱え」という要求を無視できずにいた。


相手を選ばず、万人に対して平等に効果を発揮するからこそ、そこまでの効力を得られている。


「最悪だな、お前」

「褒められる王など、碌なものではない。それは下々の思い通りになる傀儡だ」

「好き勝手やりたいことの正当化だろうが」

「そうか? だが、この国の王は俺だ。そして、俺に対抗できる人間を、今の今まで他のものは用意できずにいる」

「それは――」

「俺という王に好き勝手をやらせる側も、同等の責任を負うべきだ」

「そういうことは、マトモな人間になってから言え。役割なんてわけわからんものに、そうそう対抗できるかよ」

「カカ、言ってくれる」


賓客扱いというのは本当らしい。

わたしの言動をとがめる素振りすらない。


「しかし、久しいな」

「そうかよ」


眼の前の、シェリの肉体を纏う王はニヤニヤと笑う。


「俺が知っていたおまえは、ほんの子供の頃のものだ。だが、成長したおまえはどうしようもなくあの女を連想させる」

「母様のことか」

「カカカ、お前がそう呼ぶのは当然だ。だが、俺からすれば全身に鳥肌が立つ。あのようなものをそう呼び表すことがあるとは、信じがたい」

「ふざけろ」

「それは俺のセリフだ。おまえが成長した果てにああなる可能性があると考えると、是が非でもおまえを殺さなければならない、その最期の果てを確認してこそ、俺はようやく安堵できるというものだ。まったく、仮にも俺の血筋だろうに、おまえに絆されて助けるとは、どうかしている」


シェリのことを言ってるのだろうとはわかるが、それは――


「おお、怒ったか? だが当然だろう。言語道断だ」


無限の悪意を込めて、王はわたしを睨む。


「おまえがどうやって時を越えたかは知らぬ。俺とは違う方法だろう。だが――」


吐き捨てるように続けた。


「始祖七王国のものが、魔王の娘に肩入れするなぞ、あってはならぬ失態だ」



+++



始祖七王国は、結託して倒した。

人間では勝てぬ相手に勝利したからこそ、彼らは偉大な始祖と呼ばれた。


だが、そもそもその魔王が何者かということについて、知るものは誰もいない。

詳しいことを語るものが誰もいないからだ。


すべてを細かく記すアンドレウ家始祖ですら、これについては暈している。


「なあ、なぜおまえは人間なんぞのフリをしている? おまえが人のはずがない。人間とは異なる存在だ。醜悪で狂気に満ちたおまえの本性を、なぜ現さない。俺がこれだけのお膳立てをしてやったのだぞ?」

「知るか」

「つまらぬなぁ、くだらぬなぁ、かつてのアレを再び拝めることはないというのか。まったく期待外れもいいところだ」

「……お前が、何を勘違いしてるのか知らないけどよ」


住んでいる場所が炎に巻かれた。

母親がわたしに何かをした。

それらは確かだ。


そこから気づけば、わたしは目覚めていた。

薔薇の園の只中で。


「わたしは、わたしだ」


それだけは譲れない。


「アイトゥーレ学院でメイドをしていて、今となっては学院生だ。それ以上でもなければそれ以下でもない」

「虚言を吐くな。あまりに戯けたことを抜かすのであれば、すべてを無視してただおまえを滅ぼすぞ」


苛立ちというよりも殺意を込めた視線だ。


「……テティシェリの脳髄を通して、いくらかの記憶は伝わっている。おまえは、あのスフィンクスに敵視されていたな。当然だ。イリオンの守護者にとっておまえは最も滅ぼすべき敵なのだからな。それに救われたことは、この上ない業腹のはずだ。口ではどう言おうとも、今もおまえに反抗しているはずだ」


額を指ではじくようにしながら続ける。


「何度か見たあの娘、アンドレウ家の末裔か。あの防備ですら、おまえであれば突破できたはずだ。あれは人間の魔力を防ぐものであり、魔族のおまえのそれは、よほど意識しなければ防げない」

「違うだろ」

「ほう?」

「正直、あんまりにも昔のことだし、子供の頃のことだったからな、わたしからしても確信なんてなかった。だが、今のお前の言葉でわかった」

「なにをだ」

「始祖七王家? 違うだろ、お前らは結託してクーデターを起こし、成功した連中にすぎない」

「……」

「仮に本当のわたしが魔族で別種族なら、あのスフィンクスはもっと命がけで反抗しただろうよ、アマニアのやつの防護も「魔族」に対してこそ効果がなきゃ意味がないだろうが」


コイツは王だ。

だが、王は真実だけしか喋らない役割じゃない。

むしろ、どれだけの嘘をついてでも自国を繁栄に導く立場だ。


コイツは、嘘つきだ。


「始祖七王国は魔王を打ち倒した偉大な国だ、そうされている。だが、実際は違うな? じゃなきゃ七つもの国が同格なんてものになってるはずがない。おまえたちは結託して、その当時の統一国家を転覆させた」

「証拠は? それこそおまえの戯言ではないか?」

「わたしの記憶だ」


思い出す。

母様の最期の光景を。


「あの姿が、この世でもっとも美しい姿が、魔のものとして貶められてたまるか」


わたしにしか証明できない。

他の奴らに伝わるものじゃない。

だが、それでも――


「王よ、お前自身の姿を確かめてみろ。魔王を打ち倒した英雄だと胸張って言えるのか? 自国をすり減らしてまでお前って王の役割を作り出したのは――お前ってもんに縋ったのは、それだけ怖がり、後ろめたかったからだろうがよ」


タフォス村、あるいはイロイーダ村と呼ばれたあの場所を思い出す。

どこか懐かしさを覚えるあのあり方。


「だからこそ、七王国のひとつ、イリオン国も滅ぼした。これは魔族や魔王なんてものがなくても、お前たちが「そうする」ことの証左だ。一度やったクーデターという選択に、お前たちは慣れていた」


言いながらも魔力を凝らす。

肉体的にはどこにも行けない。

だが、魔力は別だ。わたしには魔力的につながった先がある。


「俺は――」

「フェダール国の王」

「……なんだ」

「お前は、仇だ」


決意を込めて続ける。


「何があろうと、落とし前をつける」


ここが砂漠で、抜け出せない場所で、たとえどうにか倒したところでどうしようもないことなんて知ったことじゃない。


「わたしが、お前を粉砕する」




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