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夜会厄介 〜たまには薔薇も粉砕する〜  作者: そろまうれ
二章 フェダール国編
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ep.96 「誰もが俺という「役割」を受け止められずに消費された」


全身が悪寒に包まれる。

王宮という「この国の中心」だからこそ、その力は何よりも強い。


「どうした」


王は、嘲り、ただこちらを嬲る。


「おまえは過ちを侵した。ならば、謝るのが道理だろうが。地に額をこすりつけ、俺に許しを乞うがいい。それだけがおまえの命を助ける」


刻一刻と力は削がれる。

きっと頬はコケて、手足には筋が浮く。

それでも、わたしは睨む目を止めない。


「そのような反抗的な目つきをする客人がいるのか? ああ、益々おまえは客人らしくない。この俺の前に座るに相応しくない――カカ、だが、ああ、まさかこのような形で完遂できるとは思わなんだ。なるほど、おまえの言う通り、たしかにおかしみがある、笑みが漏れるほどだ」


さて、やべえ。

なにがやべえって、本当にここから取れる手がない。


わたしに対抗手段はない。

仮にここで夜会オルギアを開いたところで弾かれる。


それだけの、支配できる対象がない。

わたしのものが何も無いのに開催できるほど、夜会は気楽な魔術じゃない。


しかも、あのスフィンクスを支配したことで、わたし自身が万全とは言い難い状況だ。

内外すべてが不利そのもの。

わたしを救っていたかすかな糸――客人という役割は、わたし自身で打ち壊した。


それでも、被害がこの程度で済んでいるのは、この魔力的な接続があるためか。

とりあえず、すぐさま死ぬような被害は受けていない。


暗く、昏く、眼の前の王は笑う。

暗がりの影そのものの中心で、嘲るための口だけが歪む。

流れる黒霧はその王から――いや、そこからもあるけど、別方向からも発生している。二重のそれがわたしの足の体温を奪う。


「この国は永遠だ。この世の果てまで残り続ける。この理由がわかるか?」

「さあ、知るわけがない」

「死ぬからだ」


嬉しそうに肩を揺らしていた。


「死こそが永遠だ。死のみが永続する。死を力とするからこそ、俺は俺として在る。この国は死によって成り立つ」

「……」

「誰も俺の手から逃れることはできない。おまえの母親ですらもそうだった。ああ、それを力とすることができずに終えたことだけは、残念極まりないがな」


頬杖をつき、顔を近づける。

その冷たさが接近する。


「おまえも、受け入れろ。俺の力となれ。その身体も魂魄も、残らず俺のものとなれ。この国に足を踏み入れたんだ。その程度のことは覚悟していたはずだな?」


たしかに警戒していた。

だが、


「そういう方向の覚悟はしてねえな」

「ほう?」

「わたしはただ、知りたかっただけだ」

「なにをだ? 特別に許してやろう、答えろ」

「わたしの母親をぶっ殺した連中の一人が、どんなツラしてんのかを確かめたかった。あるいは、悪党がどんなツラの皮の厚さしてんのか知りたかった」

「カカカッ!」


歯をむき出しにした笑い。

おかしくてしかたないというように手を伸ばし、わたしに触れる。


「そうか、そうだったか、残念だったなぁ、無念だろうなぁ……!」


触れた部分の、肌が剥がれる。

血が流れる。


「ああ、そうだ、おまえの母親の敵の一人はまさに俺だ。カカ、どうだ、どんな気分だ? 憎くてたまらない相手が目の前にいるというのに、身動きもろくに取れぬとは、一体どのような気持ちだ?」

「知るかよ」


言いながらも、ちゃんとアマニアを支配しておけばよかったなと思う。

もし仮に、彼女をちゃんと支配していれば、この場で対抗することができた。

支配とは、魔力的な同一化だ。彼女の持つ能力を、一部使用できた。


友達となればそれはできない。

まあ、後悔もしてないけど。


「それで終いか? ならば――」

「恐れながら!」


王は椅子に座り、シェリは、その傍で頭を下げた状態で佇む。

その姿のまま、彼女は叫んでいた。


「そのものは、私の客人です」

「なにが言いたい」

「罰を下すのであれば、私に。彼女の罪は私の罪です」

「おい!」


肩代わりしてほしいなんて言ってないだろうが!


「ほう?」

「フェダール国とは、客人の失敗ひとつで死ぬ国であるとは、胸を張って言えません」

「そのために身代わりになると、殊勝なことだなぁ」


立ち上がり、指を鳴らす。

影がそれを行った途端、壁が崩壊した。


狭苦しい密談場の四方が崩れ、その向こうに一つの物体があるのがわかる。

巨大な、鉱物だ。


透明なそれは、天然の鉱物結晶にも、人工的な制作物にも見えた。

どこかあの八面体の――道を作成する際に使用したアイテムを思わせる。

そこには多くの文字が彫られていた。


「この国の秩序マートだ。記されたこれに反するつもりか、テティシェリ・ファラオ、俺の血の末よ」

「いかようにでも罰は受けます。王の心のままに」

「ほう」

「クレオ……」


わたしの方を向いたシェリは、青ざめた顔で覚悟を決めていた。


「ごめん、これくらいしか、できない」

「いや、何するか知らないが余計なことすんな! お前はお前でやることがあるはずだろうが!」


果てしなく嫌な予感がしていた。

このままではいけないと確信している。


「余計なことを言わないでもらおうか?」


王と呼ばれるそれは、心底うれしそうだった。

嬉しそうに手を伸ばし。


「そうだ俺の子孫が罪を肩代わりするというなら、その罪は雪いでやろう。今からおまえは「王」としての役割を担う」


その影が、解け、シェリへと吸い込まれた。

そこが本来の住居だったというように素早く。


彼女の体が跳ねた。

地を流れていた黒い霧が、流れ出すことが間違いだと気づいたように逆流し、彼女へと殺到する。

冷たいそれが、ひたすらに彼女へと凝縮される。


「な」


遠く離れた透明な結晶オブジェの一部が変わる。

その変化の様子がわかる。


わずかに習い覚えたそれの記憶によれば、それは「テティシェリ」の名前の部分だ。


天を仰ぐように口を開き、そこから声もなく絶叫していた彼女はがくりと倒れ、おおきく見開く目を地面に向ける。


「おい、大丈夫か!?」


地面を這う霧が晴れ、罰則もまた免除されたわたしは何とか近寄り、その背をさすろうとする。

けれど、その前に――


「カカ……」


その口から、笑いが漏れた。

その声は、つい先聞いてたものだ。


「ああ、やはり、生身とは良いものだ」


その口調もまた。


――王が求めれば、私達は簡単に死ぬ。


シェリの言っていた言葉が思い出される。

王の横暴による死かと思っていたけれど、違う。


「残り少ない、俺の憑依先だ。時間をかけて味合わなければなぁ」

「役割か」


直感的に悟る。

その言葉が口からするりと滑り出た。


「うん? どうした」

「お前は、幽霊の類などではなく、ただ役割なんだな」

「カカ、そうだな?」


先程まで話していた影。

あれは、過去の人格であると同時に「王という役割」の具現化だ。


わたしが客人という役割を破ってしまった対象がそれだったからこそ、半端な罰で済んでいた。


そして役割だからこそ、「他の人間に付与」することができる。


「だが、誰もが俺という「役割」を受け止められずに消費された。この体もまた程なくそうなる」



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