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夜会厄介 〜たまには薔薇も粉砕する〜  作者: そろまうれ
二章 フェダール国編
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ep.95 「そのために夜会はあったのだ」


「そもそも、アイトゥーレ学院ではなぜ夜会オルギアを開くことができるのであろうか」


ニキの言葉により、クレオが危険な事態に巻き込まれているかも知れないと判断し、各々が動いた。

それでも、取れる手段は限られる。


念の為にとカリスは船長と交渉して船を買い上げ、アマニアとカリスは船のマストに乗り込み、双眼鏡にて王宮を観察した。

ひときわ大きく、高いその建物はひどく目立ち、同時にひどく不吉だ。


他と変わらぬ建築の色合いではあるが、五階層ほどにもなる建築は、どこか昏い。

太陽の下だというのに、まるで真夜中のような雰囲気を醸し出している。


「いきなり、どうしたのですか?」


魔力感知に優れるデスピナは目を閉じながら集中し、そうしたことが苦手なカリスは物理的な観察だけを続けていた。


「夜会を開くのに魔力を必要としていない。それは、この国の道の作成と同じようなものだと吾は考える」

「ぼくらもまた、アイトゥーレで知らず魔力を吸われていたと、そう言いたいのですか?」

「否、そうしたことは感知していない、別方向からであろう」


下ではカリスと船長が丁々発止のやりとりを続ける。

値段による交渉というよりも、売りたくない船長と、売って欲しいカリスとの交渉だ。


今のところ、カリスの方が不利だ。

なにせ彼女自身には是が非でも購入したいという意思がない。


「では、どこからその魔力を賄っているのでしょうか?」

「ダンジョンからであろう」


アマニアは、思わず言葉に詰まる。

アイトゥーレ学院は、元はダンジョンを改装したものである、そうした話は聞いていた。だが、


「それは――今もダンジョンは生きていて、残存しているということですか」

「当然であろう。それ以外に無限ともいえる魔力の発生源はない」


ダンジョンとは、常にモンスターを吐き出し続ける異常だ。

あるいは、魔力と呼ばれるものの、最初の発生点ではないかとも言われている。


「ダンジョンに蓋をし、その魔力を利用し、学院生の誰もが夜会を使える形とした」

人形コーキィアを使えるようにするために?」

「それもあるであろう、だが、もっと単純な理由であったのではないかと吾は考える……」


言ってネズミは沈黙した。

思い起こすのは、自身が最初に覚えた感覚だ。


広々とした地下、そこで咲き乱れる薔薇の群。


「先輩?」

「馬鹿らしい話だ」

「?」

「吾は、ただ単純に、魔力を多く発生させるためだと予想している。ダンジョンにて発生したものを、学院生を通して島中へと発散させる。そのために夜会はあった」

「……意味がわかりません。それは、本当にただ魔力を無駄にしたことを意味します」

「ああ、その通り。同年代のものたちの魔力を多く使用させる。これにより本当に隠したいものを――あの島にクレオがいたという事実そのものを隠したかったのではないか。長く眠りつづけた存在を隠す、そのためのデコイとして夜会はあったのではないか?」



 + + +



マストの下方では、交渉が佳境に入りつつある。

クレオの名を出した途端、船長が弱気となりバランスが逆転した。

後押しをするかのように、船医もこの船の売却に一票を投じていた。


「……さすがに、先輩の考えすぎでしょう。仮にそうだとしたら、アイトゥーレ学院はクレオのために建てられたことになります」

「そう考えている」


当然否定されると思っての言葉を、即座に肯定された。

しかも、半ば確信している。


あの島は、クレオを中心にしたものであると。


「……一体、どうしてでしょう?」

「アマニア・アンドレウ、吾が後輩よ」

「はい」

「なぜ、クレオはそなたの防護を突破したのであろうか」

「それは……」


ネズミがその小さな手でぺとぺとと触れている。

その映像はわかるが、感触はまったく感知できない。


デスピナだけではない、ほとんどすべてに対して、この防護は機能している。


「これは始祖七王国に由来するものだ。対抗するには、同格以上のものを用意する必要がある」

「クレオが、それだと?」

「諾」

「ですが、それは……」


なぜかクレオは、この防護を突破する。

それを不思議に思わなかったといえば嘘になる。


だが、この地に来てから、何度か脅かされた。

秩序マートに反したことを行った際、いくらかは耐えたが、それでも突破された。

クレオと出会っていなければ、この国を理想の地として住んでいたのではないか。


たとえそれが酷い消耗を伴うものだとしても、アマニアに生の実感を与えるものだ。


防護を難なく突破したことは、つまり――


「クレオもまた、始祖七王国の関係者だった。彼女を隠すために学院はあった……?」

「だと考える」

「そして、かつての七王国のトップであるイリオン国は滅ぼされた。そういう話でした」

「吾らが行った村は、その末であるとの話だな」

「ならば――」


クレオはイオリン国の、滅ぼされた国の末ではないか?


そう続けようとした言葉は、ネズミの音に遮られた。

ふん、という鼻息だ。下らないものを否定するための動作だ。


双眼鏡から目を離して見下ろせば、そこには両肩を器用にすくめる様子がある。


「そんなわけがなかろう、クレオが王女? 人間の頂点に立つものの子孫? 天地がひっくりかろうとも、そのようなことはありえぬ。マトモな形でそうあることはない」


話をちゃぶ台返しされた。


「なら一体、なんでしょうか。ぼくのこの防護を突破できるような根拠が、他に思い至りません」

「七王国と呼ばれるが、そこに上下あったかどうかは不明だ。おそらくは同格だったのではないかと考える」

「……ぼくが知る限り、たしかに」

「うむ、この国の秩序と、後輩の防護に優劣はない。だからこそ――む? むむ?」


下方ではカリスと船長が握手を交わしていた。

どうやら交渉が成立したようだ。

船を正式に購入できた。


だが、それとは無関係に、マスト上で膨れ上がるものがあった。それは、デスピナの持つ薔薇ロギアからだ。

魔力光が灯り、ずるりと何かが這いずり出てくる。


「なに、なにこれ!?」

「先輩!?」


取り乱して偉そうな口調も言えないネズミ、その傍に置かれていた薔薇が作ろうとしているものがある。


手だ。


人形コーキィアの手だけが、まるでゾンビのような非人間的な動きで現出しようとしていた。



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