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夜会厄介 〜たまには薔薇も粉砕する〜  作者: そろまうれ
二章 フェダール国編
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ep.69 いや、本当にどうやって?

「うめー」


新鮮なイカが大量に手に入った。食卓はとても賑わっている。味としても量としても満足だ。

あのモンスターが消費したイカはぷかぷかとそこら中に浮かんでいたから、取り放題だった。イカそのものは足が速いからすぐに消費しなきゃいけないけど、しばらくの間は安泰だ。


枯渇しそうになっていた魔力補充にも、とてもいい。


そう、決着は、わりとあっさりとついた。

あのモンスターは、わたしが張った夜会を――強固の張った結界を越えることができなかった。ただ真正面から最速で衝突しバラバラに砕けた。ほとんど自滅するような形で消し飛んだ。


あまりダメージを喰らわないようになんて小細工すら不可能な、完全正面衝突だ。

球状の結界にイカ片がまんべんなく付着し、船が海上を五回くらい跳ねた。


あと爆弾が爆発したような音まで鳴り、何人かの鼓膜が破けた。

結界越しなのにこれだから、音はそれこそ大陸にまで届いたかもしれない。


矛と盾の勝負は、盾が一方的に勝利した。


正直、一回では決着がつかないだろうから何回か交戦し、足止めができた段階で人形の群による攻撃をしようとか思っていたのに、けっこう拍子抜けだ。

膨大な魔力と速度を持つモンスターは、その膨大さを制御できずに敗北した。


残されたのは大量のイカが浮かぶ海だ。


ちなみに、わたしに対するみんなの態度は改善した。

賭けを取り仕切る暗黒街のボスから、イザとなればみんなを守ってくれる奴へとランクアップした。

異常とか異質は、突き抜けてしまえば一周回って受け入れられるらしい。


むしろ気安く、「よおボス! これも食えよ!」とイカの炙りをくれる。


学院生の方はむしろ思考放棄している様子があるけど、これはまあ、仕方ない。


あと、結果的に船医が完全に孤立してるから、少しはフォローしないといけない。

前まで船長に止められたけど、今はわたしがトップだ。


「ねえ……」


そして、真正面に座ったニキに、問いかけられた。

疑念と疑心と、なんかよくわからないもんを見る目を向けられている。


「なんだよニキ」

「あなたって、なに?」


誰ですらないのか。

お前はクレオではないのか? みたいな質問をされると思ってたけど、どうやらそういう妥当な疑問も突き抜けたらしい。


「ただの下級職員」

「ただの下働きがこの船のオーナーになることは、ないから」

「なんの権限もないけどな」


確かに移譲はされたけど、それでわたしが何かをする気はない。

この船はわたしのものだっていうのは事実だけど、変わらず船長は船長だし、陸地についてしらばらくすれば再移譲を行い、手放すつもりだ。


というよりも、法的な契約上だと、たぶんわたしのものじゃない。


「あと、あなたデスピナとか言わなかった?」

「言わなかった」


実は口にしたかもしれないけど、そんな事実はない。


「それと、あの姿は……」

「人形って好きな姿を取れるらしいぜ?」

「……夜会ではね」

「昨日も夜会は開かれたよな」


それを開いたのはわたしだけど。


「ねえ……」


ニキ・デュカキスはやけに真面目な顔をした。

そして、こっそり囁く。


「あなたは裏執行委員なのよね?」


ブウッ!? と吹き出すのをなんとか堪えた。

ニキ・デュカキスは真剣だ。


とても真面目にわたしが「そういうもの」だと信じている。

だからああいう事ができたと判断してた。

違います。


「どうやったら、裏生徒会に入れるの?」


うん、デスピナと戦ったとき、たしかにそういうことを言ったし、わたしがそれだと自己紹介もしてたよね。

けど、実際にあるのかどうかすら、わたしは知らない。


ここで否定したら逆効果なんだろうな。

妙な解釈と深読みをされる。


だからわたしは片目を閉じて。


「秘密」


そう言うより他にない。



 + + +



航海は順調に進み、終わりを迎えようとしていた。

あのモンスターが暴れたせいか、この海域に他の脅威はなかった。どれだけ周囲に喧嘩を売りまくってたんだ、あのイカ。


久しぶりに見る陸地が彼方に現れたときは、どうしようもなく声が出た。

どこまで行っても人は大地から離れられないらしい。


動かず揺れない場所に足を下ろしたいと、全細胞が求めていた。


ただ、その前に軍の関係者に話を訊かれたけど。

魔術的な「道」を作成して、直接乗り込んだ。


あの音はやっぱり大陸にまで届いていたらしい。

それと、あのイカによる脅威もあったから、そこを通り抜けて来た船に聞き取りする意味もあったみたいだ。場合によっては半魚人が乗っ取って、操船していることもありえたから、その疑念の払拭だ。


ちなみに矢面に立った船長は、そういう殺気立った詰問に肩をすくめ、


「そんなことがあったのか、知らなかったな、俺達の船旅は実に平和なもんだったよ」


素知らぬ顔をしていた。

完全にとぼけ切るらしい。


まあ、その後ろで甲板をモップ掛けしているメイドが、そのモンスターを退治して盛大に音を出した犯人ですと言ったところで、信じなかっただろうけどね。


イカの瓶詰めの群が発見されなくて良かった。


多少のトラブルはあったけれど、最終的にはこうして無事にフェダール国についた。

騒がしい港町、砂漠特有の乾いた空気と海風が混ざり合う地へと足をつける。


揺れないし動かない、いきなり斜めになってお茶をこぼす心配のない、しっかりとした大地を存分に堪能する。

やべー、いくらジャンプしてもビクともしないぞ、ここ。


わたしとデスピナは、共に存分に伸びをした。

ああ、生き残れた――


「無事で良かったわ」

「遅かったですね、クレオ」


そうして、出迎えられた。

島にいるはずの二人に。


「……なんで、カリスとアマニアがいるんだ?」

「?」


どうしてそんな当たり前のことを訊くのだろうという顔をしたアマニアと、ひどく憔悴したカリスがいた。


「だって、ぼくですよ?」

「いや、答えになってない」

「大変だったわ……」


いや、本当にどうやって?


長旅の果てで、わたしは先回りをされていた。



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